「Half moon」(79)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

沙穂×爽子の最終章(笑)です。言うつもりもなかった告白をしてしまった沙穂は、爽子の
反応を恐れていた。しかし目の前の爽子は・・・?

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それではどうぞ↓


























沙穂は爽子を見たまま、声を出せなかった。それはあまりにも不思議な光景だった。


(え・・・・?)


爽子の後ろから後光がさしているように眩しかったのだ。その目の錯覚に沙穂は焦った

ように目をごしごしと擦った。彼女は天使のような微笑みを浮かべて笑っていた。


「・・・ありがとう」


彼女はそう呟いた。その時、何でそんなこと言うの?とか嫌味?だとか、そんな醜い感情は

浮かんでこなかった。ただ自然に涙が出た。素直に涙が零れ落ちていった。それほどその場

は不思議な空間だった。


「・・・好きだったの。私をそのままを見てくれる風早が・・・好きだったの!」


沙穂は大粒の涙を流した。爽子は全て受け止めるかのように優しい目をして沙穂を見つめた。


「・・・・うっ・・・」

「顔・・・上げてください。一緒なので。・・・・私もそんな風早くんが好きだから」


沙穂は顔を上げると同じように涙を流している爽子を見て、さらに思いがこみ上げてきた。


「・・・私、姉がうらやましかったの。いつもきれいで勉強もできて、人の中心で・・・。

 中学の時だった。初めて好きな人ができたの」


爽子は悲しい表情で語り出した沙穂に真剣な目を向けた。


「それが、蓮だったの」

「!」

「・・蓮はかっこよくて女子達から人気があって憧れの存在だった。でもその恋は今と違って

 ”かっこいい人と付き合う”ことにこだわっていたように思う。でも蓮は全然振り向いてくれ

 なくて・・・。他の男子と付き合ったりしたんだけど、昌と友達だったことから高校に入って

 から一緒に遊んだりするようになったらまた好きになってた・・・」


沙穂は不思議だった。まるで昔からの友達のように素直に話している自分に。そしてその

話を真剣な顔で聞いている爽子に。


「そんな時・・・一つ上の姉が蓮と付き合っていることを知ったの」

「・・・・・」

「あ〜やっぱりねって。美穂が私の気持ちを知っていたとは思ってないけど・・・たまらなかった。

 何でも手に入れる美穂が。それから・・・私の心はどんどん醜くなっていったように思う。結局

 一番欲しいと願ったものは何一つ手に入らない」


沙穂はつらそうな表情で話し続けた。


「だから姉が事故った時、”悲しい”って感情よりもどこかでほっとしていた。これでもう何も

 奪われたりしない。完璧ですべても持っている美穂はいない。ザマーミロって心のどこかで

 思ってた。蓮に対しても・・・また、親に対しても」

「・・・・・」

「・・・風早なら分かってくれると思った。自分のこと。美穂じゃなくって私を見てくれると思った。

 誰も分かってくれなかった私を・・・美穂のことを知ってももう怖がることないって・・・。」


爽子は自分で言って自分で傷ついている沙穂を痛いほど感じた。沙穂の瞳は哀しみで

あふれていた。


「でも・・・心のどこかでやっぱり美穂を知られることが怖かった」


考えたら誰にも見せたことのない自分の醜い部分だった。向き合うことなんかないと思って

いた。いつも嫌なことがあったらそれを見ないようにしていたのに・・・。

自分で自分が分からなかった。でもその時私は、不思議なほど心地良かったのだ。本当は

ずっとこんな風に誰かに素直に話したかったのかもしれない。


沙穂は話しながらあふれる感情を止めることはできなかった。爽子は肩を震わせて泣いて

いる沙穂と同じように号泣していた。


「!」

「あっ・・・お気になさらず!!」


沙穂にじっと見られ、爽子はぶんぶんと前で手を振った。爽子も同様、あふれてくる涙を

止められなかった。こんな風に気持ちを共有できることが何よりも爽子にとって嬉しかった。


爽子は沙穂に白いハンカチを差し出した。


「洗ってるので・・・良かったら」


沙穂は爽子の行動に目が点になりながらも少し口角を上げた。


「私は持ってるから。あなたこそ・・それ必要じゃないの?」

「あっ・・・もう一つあるので・・・」


沙穂はハンカチを受け取って目に当てた。


(私・・・何してるんだろう・・・)


目を真っ赤に腫らして泣いている爽子を沙穂は複雑な心情で眺めていた。


「・・・最低だと思わないの?」


爽子は沙穂の言葉にゆっくりと首を横に振った。


「・・・沢山傷ついたんですね・・・。でも、秋山さんは間違ってます」

「え・・?」

「誰も分かってくれないなんて、そんなことないです。秋山さんにはあの人達がいるじゃ

 ないですか。」

「あの人達・・・?」


沙穂は爽子の言葉に目を見開いた。


「桜木さんや昌さん、田口くん・・・そして蓮さん」


沙穂は頬を染めながら憧れるように語る爽子を茫然と見つめた。そこには嘘は感じられない。


「私・・・仙台に行った時、秋山さん達を見て、”いいな・・”って思いました。秋山さん

 のことを分かってなかったらこんなに長く一緒にいないと思います」

「・・・・・」


”分かったようなことを言って・・・ごめんなさい”と彼女は付け加えた。


一生懸命話す爽子を見て、沙穂は少し口角を上げた。そして目の前の爽子をもう一度眺めた。


きれい・・・。


沙穂は素直に思った。最初彼女を見た時、風早の彼女にしてはレベルが低いと思った。でも

今の彼女はきれいだ。人をきれいだと思ったのは・・・初めてかもしれない。

こうやってみると敵うわけなんかなかった。酔い潰れても彼女の名前を呼んでいた風早。


沙穂は視線を下に向けると、穏やかな表情を浮かべて言った。


「ごめんなさい・・・今まで」


二人は照れ臭そうに泣きながら笑った。沙穂は大きく深呼吸して涙を拭った後、爽子に

にこっと笑って言った。


「一つだけ確認させてもらっていい?」

「え?」


爽子は沙穂の言ったことに不思議そうに首を傾げながら素直にカバンの中に手を伸ばした。



* * *




「・・・ふあぁ〜」



沙穂は大きく夜空に向かって白い息を吐き出した。

そして、ポケットから携帯を取り出すと、番号を探しボタンを押した。



プルルル〜〜〜♪



「―昌?」

『沙穂??今、北海道じゃないの?』

「うん。そうだよ」

『どうしたの?楽しい?』


すっかり寒い北海道では冬の星座が夜空に輝いている。沙穂の白い息が夜空に舞う。


「・・・うん。棘が取れたよ」

『へ?』

「・・・ごめんね、色々心配かけて。私・・もう大丈夫。たぶん」

『沙穂・・・』

「風早のこと・・・諦められたわけじゃないよ。でも・・・もう・・・」

『・・・会ったんだね』

「うん・・・ははっ色々と負けだわ。まっ向こうは歴史もあるしさ〜」

『沙穂・・・・帰ったら飲もうよ』

「うん。ありがと昌。いろいろ・・・ほんとにごめん」

『・・・ん』


ピッ


「ふぅ〜〜〜〜っ」


沙穂は今度は大きく息を吸い込み、星が輝く夜空を晴れ晴れした顔で眺めた。顔にかかる

夜風が涙の跡で冷たく痛く感じた。でもそれは彼女や風早の心の痛みに比べたら何でもな

いことを・・・。


この出会いがこれからの自分の人生を変えるきっかけになることを沙穂は後から知ることに

なる。人は出会いによって変わっていける。そして生きている限り何度でもやり直せる。

夜空の月が形を変えていくように・・・。














あとがき↓

沙穂が爽子にしたことを全部反省しているわけではありませんし、気付いていない部分も
多いです。だからどれだけ”隠し事”が爽子を苦しめたかとか、二人のことを知ろうともしな
いで簡単に仲を裂こうとしたとか分かってないです。ただ、爽子のあまりにも純粋で正直な
人柄に触れたことで自分が素直になれたのかな・・・という設定でした。沙穂にとってこんな
人物は衝撃的だったのです。人間が違いすぎるので爽子をこれからも理解することは難しい
けど、この出会いが沙穂のこれからに大きく影響していきます。そういう話にしたかったけど、
難しいですね。伝わりきれなかったらすみません。これで沙穂との回が終わって、いよいよ
二人は・・・( ^ω^)それではまた遊びに来てください。

Half moon 80