「Half moon」(90)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

光平も失恋から必死で立ち直ろうとしていた。そんな時蓮からの電話が・・・!?

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それではどうぞ↓




























**********



昼食時に突然かかってきた蓮からの電話。いつもは冷静な蓮が少し早口になっていた。

確かに普通ではいられないと思われる内容だった。


『悪いな。今仕事中だよな?』

「大丈夫。休憩中。仕事だったら出ないから。それよりどうした?」

『・・・美穂がいなくなった』

「え・・・・?」

『捜索願を出したんだけど、見つかんなくってさ』

「いつから?」

『今朝』


光平は蓮が初めて自分を頼ってきたことに内心嬉しかった。しかし、それは一瞬で覆される。

蓮が光平に掛けてきたのには訳があった。


『実はさ・・・そっちにいるかもしれない』

「え?なんで?」

『光平の実家に電話してることが分かった。』

「はぁ??」


訳が分からない様子の光平に蓮は昨日の出来事を話した。どうも美穂は沙穂の部屋から光平

の電話番号を探していたというのだ。それが分かったのは高校の時の名簿が沙穂の机の上に

放りっぱなしになっていたからだ。そしてそのページにあった光平の実家に電話をすると案の定、

美穂が電話をしていたということだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。美穂さん治ったの?」

『いや・・・おとといの夜までは光平が見たままの美穂だった。でも光平のおばさんの話を聞くと

 以前の美穂だったらしい。一回だけしか今まで元に戻ったことはなかったんだけど・・・』

「よく分かんないんだけど?でも・・・何で俺の実家??」

『・・・光平の会社の場所を聞いたらしい』

「へ??何で?」


ますます困惑している光平に蓮は言いにくそうに言った。


『・・・翔太の彼女を探している気がする』

「・・・黒沼さん・・・?何で?」


その時、光平は”あっ”と心の中で閃いた。あの夏の日、病院で初めて会った時もやたらと

美穂は爽子に執着していた。爽子と離れるのが嫌で無断外出をしたりした。


「黒沼さんに・・・会いたいんだ?美穂さん」

『・・・・』

「でも、こっちまで来れるはずないんじゃない?」

『・・・ん・・だといいけど。それじゃ俺もすぐ行くから、何かあったらすぐに知らせてくれ

 ないか。それと・・・』


蓮はそこまで言うと、少し言葉を詰まらせた。


『彼女・・・翔太の彼女のこと・・・俺が行くまで見ててもらえないか?」

「え・・・?蓮来るの?美穂さん、さすがに来れないと思うけど・・・ここまで」


光平は夏に会った美穂の様子を思い出しながら言った。


『うん・・・でも一応行くよ。お願いできるか?』

「もちろん。黒沼さんにも言っておく」

『・・・・・』

「蓮?」


電話口で黙り込んだ蓮に光平は不思議そうに声を掛けた。


『・・・じゃ、よろしくな』

「うん。蓮も気をつけて」


ピッ


光平はこの一大事のため、いつもと様子が違う蓮の心情に気付けなかった。それよりも蓮の

助けになりたい自分の気持ちの方が強かった。そして蓮はこの時、自分の根底にある不安

を口にすることが出来なかったことを後に大きく後悔することになる。



電話を切ると、光平は”よしっ”と気合を入れて走り出した。


いつも自分が頼ることがあっても頼られることはなかった。蓮は事故という人生を変える大

きな出来事も一人で抱え込んできたのだ。


光平は仙台を離れてからさらに蓮の存在を大きく感じていた。



「―黒沼さんっ」

「田口くん?」


光平は休憩場所から戻り勢いよく部署のドアを開ける。昼休憩が終わる頃、部署ではちらほら

と人が戻り始めていた。爽子はいつも早くから仕事の準備を始めるので、この時間はだいたい

自分のデスクにいることが分かっていた。


「良かった!いた。」

「どうしたの?田口くん」

「ちょっと来て」


光平は周りの人たちに適当な言い訳をして、爽子を部署から連れ出した。


「―え?美穂さんが?こっちに一人で??」

「北海道にいるかもしれないって。蓮が」


困惑した様子の爽子に光平も何の説明もできなかった。なにせ自分もよく分からないのだ。

とりあえず蓮から言われた美穂のことを全部話した。


「旅行できるぐらいに元気になったのかな・・・??」

「いや・・・なんか違うみたい。黒沼さんに会いたいんじゃないかな?」

「え・・・?」

「ほら、あの夏の時も美穂さん、黒沼さんにすごく執着してたじゃん」

「まさか・・・私に会いに??あっ・・・・!」


爽子は美穂に最後に会った時、言ったことを思い出した。


”「でも・・・さわこちゃん、また帰ってくるんだよね??また遊べるよね!!」

「・・・うん!!」”


「どうしよう・・・。私、また遊ぼうって約束したから・・・」


光平は不安そうに呟く爽子を見つめて、前に出そうになった手をつらそうに引っ込める。


「・・・大丈夫だよ。美穂さんがこっちに一人で来れると思えないし」

「うん・・・・」

「とにかくさ・・・何かあったら知らせてくれる?蓮に連絡したいから」

「もちろんっ!すぐに知らせます」


光平は両手を組み、祈るように美穂のことを考えている爽子をせつない目で見つめると

引っ込めた手を握りしめ、心の中で呟いた。


(・・・無意識って・・・罪だよな)


まだちょっとした仕草とか表情に反応してしまう自分が情けなかった。


光平は爽子を見送ると、大きく息を吐き出し、切り替えるように仕事に向かった。



************



―仙台―



「蓮っ!!」


焦った様子で会議室を出ていく蓮を廊下で見つけると風早は大きな声で呼び止めた。


「何かあった?」

「あ・・・ちょっとな。早退するわ。」


風早は、蓮がずっと様子がおかしいことに気付いていた。そして爽子に会いに行く前に話が

あると言われながらずっとちゃんと話せていなかった。避けられているわけではないが、その

話しになると”そんなこと言ったっけ?”などと誤魔化される。


「蓮、俺そんなに頼りになんない?」

「え?何言ってんだよ」


風早の真剣な目に蓮は躊躇したように行動が止まる。


「蓮とは他の皆より付き合いは短いけど、今は誰よりも近くにいると信じてる」


蓮は風早の透き通った目を見つめると、思い悩むように視線を下に向けた。


「話ってなんだったんだよ」

「・・・・・」


蓮は幸せそうな風早を見るたびに言えなくなった。言ったところでどうなるものでもないと

いうのが蓮の中にあったからだ。そして、何より言えない理由があった。でも、蓮は限界

だった。自分が自分でいられなくなるぎりぎりの精神状態で毎日を過ごしていた。


蓮は疲れ果てた顔を上げると、意を決したように風早に言った。


「翔太・・・俺今から北海道に行く」

「えっ・・・??」



* * *



「あ・・・」


爽子が仕事を終え、帰る準備をしていると、カバンの中で携帯が光っているのに気付いた。

携帯を開くと風早からのメールが届いていた。爽子は急くようにボタンを押した。


「え??」


そして、思わず声が漏れる。メール受信の時間は14時だった。



件名 突然だけど・・・


本文 北海道に行くことになりました。蓮の緊急事態に無理やりついていくことに
    した。とりあえず今から飛行機に乗るから着いたら連絡します。   翔太




「風早くんが来る!?」


爽子は慌てて時計を見ると、もうこちらに着く時間だ。


どくんっ


心臓が大きく動いた。一瞬会えると思って嬉しくなった自分を恥じる。蓮が大変な時なのだ。

きっと心を痛めている。美穂はなぜいなくなったのか?なぜ北海道なのか?それとも北海道

にはいないのかもしれない?

よく理解できない今回の出来事だが、今はとにかく美穂を探すことが優先だった。


更衣室で友香と一緒になり、喋りながらエントランスの方に歩いていると、友香が突然、

立ち止った。


「あっ!忘れ物した。取りに行くわ。じゃ〜またね爽ちゃん。」

「うん、バイバイ。また来週」


爽子は友香と別れて、頭の中でどうやって美穂を探したらいいのか必死で考えていた。


(えっと・・・警察に行って、それから・・・)


眉を寄せながらエントランスを出ると、一瞬何か違和感を感じた。懐かしい違和感。


(・・・?あれ)


爽子は思考をストップさせて、立ち止まる。思わず後ろを振り向いた。すると、そこには栗色の

長い髪をなびかせて、白いワンピース姿で立っている女性がいた。


「ちょ・・・あの子かわいくない?」

「ほんと、会社にあんな子いたっけ??」


会社から出てくる男性社員が口々にその女性を見て目を輝かせていた。

爽子はしばらくその女性を見て、”あっ!”と声を上げた。


「み・・・美穂さんっ??」


そこに立っていたのは紛れもなく、24歳の美穂だった。爽子は仙台に居たころの美穂と

今の美穂が同じ人物だと認識するまでに時間を要した。それほどあの時とは違っていた。

あの時のようなふんわりとした雰囲気はなく、服装も大人のワンピースで表情もぐっと大人

びていた。


美穂は爽子の方に目を向けると、ゆっくりと爽子に向かって歩き出した。

爽子は驚いた表情のまま胸に手を当ててその場に佇んでいた。













あとがき↓

ちょっと更新が遅れてすみません。ここからどんどん更新したいと思ってます。でもあくま
で予定は未定で・・・!皆さんの予想通りの展開だったでしょうか?続きもすぐUPしま〜す。
今の懸念は100話というキリの良いところで終われそうにないこと・・・。終われたらいいな。
それではいつもありがとうございます!

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