「Half moon」(93)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

爽子にナイフを向けた知った蓮は自分の浅はかさを悔やんだ。そして二人を囲む友人達に
全てを話そうと決心した。蓮の過去編です。

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それではどうぞ↓






























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時刻は20時を過ぎてた。

何の因果か不思議な取り組み合わせの5人がホテルの一室にいる。あれから眠ってしま

った美穂を連れて、5人は近くのホテルに入ることになった。


コトッ


蓮は静かに美穂が持っていたナイフを棚に置いた。


「これ・・・・」


風早がナイフに目をやって蓮に目を向けると、蓮は申し訳ないという表情で言った。


「ごめん・・・。美穂が持ってた」


風早はぞっと背筋が凍るような感覚を覚えた。もし爽子に何かあったとしたらとても冷静

ではいられなかっただろう。風早は側で眠っている美穂を見つめた。横の爽子の手をぎゅ

っと握る。すっかり落ち着きを取り戻した爽子はもう怖がっている様子はない。


「本当に・・・ごめん」


蓮は爽子に深々と頭を下げた。


「大丈夫です・・・何もなかったから。蓮さん・・・顔を上げて」


爽子は心配そうな表情で蓮に言った。蓮はゆっくりと顔を上げると、暗い表情のまま再び

謝った。


「皆巻き込んで悪い・・・・。」

「蓮・・・全部話して」


風早が言うと、蓮は無言のまま頷いた。光平も困惑した表情でその場に座っていた。重々

しい空気が流れる中、横のベッドでは美穂が静かな寝息を立てていた。


「・・・翔太にずっと言えなくて、彼女との関係を悪くさせて・・・本当に申し訳なく思ってる」


俯いて苦しそうな表情の蓮を風早と爽子は真剣な目で見つめた。


「それから・・・光平にもずっと言えなくて・・・心配させてごめん」


光平も真剣な表情で蓮を見つめた。蓮は虚ろな瞳で美穂を見ると、昔を思い出すように目

を閉じて静かに語り出した。


「美穂と初めて会ったのは・・・バイト先だった」


あまり気持ちを表に出せない俺とは正反対に自分を表現する美穂。そのやり方を知ってい

るかように表現することで周りに人が集まる華やかな性格だった。その姿に辟易していた。

そんなタイプの女は好きではなかった。でも何の運命のいたずらか、自分の一番弱い部分

に美穂は入ってくる。


「光平は知ってるけど、俺の父親はあんまり働かないでいつも母親を苦しめてばかりいた。

 そして浮気する母親。その繰り返しだった」


光平は蓮の家庭背景を知っていた。いつもごちゃごちゃな家庭の中で自立せざる得なかった

のか、何でも自分でする蓮をいつも大人に感じていた。


「まだ幼かった俺は必死で自分の気持ちを保っていた。とにかく早くお金を貯めて自立したいと。

 そんな時、母親が出て行ったんだ。残ったのは父親だけ。兄貴も遠くに行って帰ってこない」


蓮が高校入ってすぐの頃だった。自分では悲しさとか感じてないと思っていた。だけど自分

が思うよりも母親を心のどこかで求めていたのかもしれない。そんな時、側にいたのは美穂

だった。自分でも気付かない心の傷にそっと寄り添ってくれた。美穂自身も父親を早くに亡

くした悲しみを抱えながら生きてきたのだ。初めて自分を出せた。初めて人の側でゆっくり

と眠れることを知った。


光平は蓮の話を聞きながら、美穂と会ってからの蓮を思い浮かべた。前よりずっと人と関わ

ろうとするようになった蓮を見て、美穂の存在が大きいのだと思っていた。


「俺は・・・家族がこんなだったから絶対に上手くやりたかった。相手を裏切ることだけはし

 たくなかったんだ」


蓮はつらそうに話すと、意を決するような表情で3人を見て言った。


「俺・・・事故の前から美穂に対して気持ちが冷めてたんだ」


蓮の言葉に3人は驚いたように顔を上げた。


「なんか・・・期待させて悪い。っつーか・・・」


そこまで言うと爽子をちらっと見て苦笑いをして言った。


「言えなくなった・・・どんどん。二人を見てると、自分が不純に思えてさ」

「蓮・・・・」

「付き合っているうちに、何かが違うと思い始めてきた。ただ傷の舐め合いをしているのだ

 と気付いた時、一緒にいることがつらくなった」


爽子はあの時の蓮を思い出した。風早との仲がこじれた時にアパートに駆けつけてくれた蓮。

美穂のことを話す時のつらそうな目は事故のことだけではなかったのだ。


「でも、彼女に別れを言うことが負けのような気がしてた。自分はちゃんと人を愛せる人間

 だと信じたかった。それは今から思うと、両親へのただの意地だったと思う。・・・・だけど

 どうしても翔太に言えなかった。」


蓮は風早を真剣な表情で見上げた。


「・・・初めてだったんだ。翔太みたいな人間に会ったの。真っ直ぐで純粋に彼女を想う。

 俺とは別世界の人間だった」


ふっと笑う蓮を風早はせつない目をして見つめた。しばらくの沈黙の後、蓮は苦しそうに俯

いて言った。


「結局・・・・俺も両親と同じだよ。人を純粋に愛することなんかできないんだ。俺、翔太が思う

 ようないい人間でもないし、すごい人間でもない。冷酷な人間なんだよ」


「ちがっ・・・「違いますっ!!」」


風早が話しだそうとした時、爽子が口を挟んだ。拳を握りしめ、訴えるように言う爽子を

皆一斉に見た。


「蓮さんは、私がつらい時、一緒に考えてくれた。空港で風早くんの気持ちを一生懸命に

 伝えてくれた。私たちが元に戻った時、心から喜んでくれました。ううぅ・・・・」

「爽子・・・」


想いを必死で届けようとしている爽子に、横に座っていた風早は優しく微笑んだ。そして

肩を抱くと、頭を優しくなでた。


光平はその光景をしばらく見つめると、沈んだ心を必死に奮い立たせて蓮に言った。


「俺だってっ・・・蓮が冷酷だったら、こうやって蓮に付き合ってない。蓮のために何かをしたい
 なんて思わない。それに・・・おじさんは本当はおばさんとずっと上手くやっていきたかったん

 じゃないの?だけど・・・おじさんは不器用だったんだと思う」


蓮は二人の言葉に少し表情を和らげた。


「・・・ありがとう」

「蓮、俺・・・どんな蓮でも関係ないよ。蓮は蓮だろ?出会って友達になった。それが全てだ」

「翔太・・・」


3人の温かい目を見て、安心したように言葉を続けた。この仲間に全ての想いを伝えるために。


「でも・・・まさかこんなことになるとは思ってなかったんだ。こんなに二人を巻き込むことに

 なるなんて」


頭を抱えて苦悩している姿を見ながら風早は言った。


「蓮・・・その後どうなったの?」

「・・・別れようと言った。それからだ。彼女の様子が少しずつ変わってきた。俺への執着がすごく

 なってきて、生活の全てに入ってくるようになった。そんな毎日が続いたある日・・・。」

「・・・事故ったんだ?」


光平が言うと、蓮は無言で頷いた。


「それで美穂さん目覚めたら子どもみたいになってたってことか・・・」

「・・・事故の時に身体は軽傷だったけど、頭を強く打ったようで意識が戻らなくて、戻った時には

 子どもみたいになっていた。それからもずっと子どものままだったのに・・・先日・・・」


蓮は言いにくそうに風早を見ると、今回の事件の本題に入った。そして嵐の夜の出来事を話

した。爽子のことが出たのはあの時一回だけだった。それから大人の美穂が顔を出すことは

なかった。まさか、大分経った今、このようなことが起きるとは思いもよらなかったのだ。


「まさか・・とは思ってた。でも心の片隅に危惧している自分がいた。それなのに・・・」


蓮は動けなかった自分を強く悔んでいた。一番自分が思っていた最悪な展開に発展してしま

ったのだ。二人を傷つけるという・・・。恋愛に対してはどうしても臆病になってしまう自分がも

どかしかった。


「蓮・・・なんで爽子?」


風早の言葉に蓮はちらっと目を向けると視線を下げて言った。


「分からない・・・。今の美穂は道理が通じない気がする。ごめんな・・・あんだけ良くしてくれたのに」


蓮が爽子に向けて言うと、爽子は首を横に振り優しく微笑んだ。


「私・・・嬉しかったの。子どもとかに怖がられることが多いから。美穂さんは素直に私を受け入れてくれた」

「・・・あの時の美穂が・・・本当の美穂だと思いたい」


ホテルの一室に沈黙が漂った。あまりにも重い話だった。そして今まで全部抱え込んできた

蓮に光平は切なそうに呟いた。


「・・・事故から蓮はずっと美穂さんと居たんだ」


光平が言うと、蓮は哀しい目をした。


「抱えきれなくなったりした。でも結局・・・それが俺の償いだから」

「・・・・・」


風早は蓮の話を聞いて考えていた。

恋愛に裏切りも何もないのではないか・・・?でもその後に自分が起こした事故により

彼女の運命を狂わせたとしたら、自分でも同じことをするのかもしれない。想いがなく

なったからと言って自分の責任を放棄はできるはずがなかった。そして、蓮の抱えてき

た複雑な思いを自分はきっと理解できない。

当たり前のように愛情が側にあった自分には・・・。


風早は苦しそうな表情を浮かべると、ぎゅっと爽子の手を握りしめた。爽子の手がそれに

応える。今ここにある温もりが永遠であると蓮も信じていたはずだ。その思いは同じはず

だった。


「じゃ・・・蓮はいつ幸せになれる?」

「!」


風早の真っ直ぐな目が蓮を捉えた。二人は目を合わせたまましばらくの沈黙が走った。

その時・・・。


「・・・んっ」

「美穂・・・」


美穂が目を覚ました。美穂は目の前の光景に目を丸くした。


「あれ??ここどこ?あっ・・・れんっ!!」


愛らしい笑顔で美穂は蓮の腕に抱きついた。


「ここどこぉ?あれ・・・・さわこちゃんっ??」


3人は目を丸くして不思議な光景を眺めていた。爽子は口を開けたまま茫然としていた。


「・・・こうなんだ。わざとやっているわけでもなさそうだし」

「さわこちゃん〜〜〜〜会いにきてくれたの??」


目を輝かせる美穂に爽子は戸惑いの表情を浮かべた。蓮は爽子の前に立った。


「美穂・・・今さっき美穂は彼女にナイフを向けた」

「え・・・・??なに〜〜それ?」

「人を傷つけたんだ。はっきり言うよ。これ以上、美穂が彼女を傷つけようとするなら・・・

 俺は美穂とはいられない。もう、美穂のことは好きじゃないんだ」

「れん・・・・何言ってるの??」


ふるふると美穂の身体が震えだした。そして呼吸が荒くなってくる。


「発作を起こすんならいつでも起こしてそこに逃げろよ。これ以上、人を巻き込むのはごめんだ」

「いやっ〜〜〜〜っ嫌なの。蓮が好きなの。だって私たち結婚しようって!」


幼児のようだった美穂がいきなり大人の表情に変わった。その姿を唖然と見ていた爽子は、

大人の美穂を見てびくっと身体を身構えた。


「俺は・・・もう美穂を愛してない」

「!!」


驚いた表情でしばらくの間蓮を見ていた美穂の呼吸が再び激しくなっていく。


「はぁはぁ・・・嫌っ・・・・蓮っ蓮っ!!行かないで・・れんっ〜〜!!」


ばたばたと暴れる美穂はまるで幼児だった。いろいろな美穂が次々に現れる光景を3人は息

を飲んで見ていた。そんな美穂を冷静に見つめる蓮が背中を向けて言った。


「ごめん・・・皆、もう行って。後は大丈夫だから。」

「うん・・・」


風早はこれ以上自分たちがここにいることは蓮を傷つけることだと察した。蓮は自分たち

を巻き込んだことを一番悔んでいる。

風早、爽子、光平は蓮の悲哀感漂う背中を見送ると、そっと扉を閉めた。












あとがき↓

更新遅くなっちゃってごめんなさい。寝てしまった!!蓮の話は詳しく書こうと思ったら
ちゃんとあったりします。でも流れ上、先に進みます。この回、気付いたらすごく長くな
った。すみません、疲れますね。切れ目を見つけられず。しかし・・もうちょっと・・・っ!
でも100話に収められるか不安だけど(汗)これ以上、誰も傷つかないのでご安心を。
後は回復のみです。いつも読んでもらってありがとうございます。

Half moon 94