「Half moon」(72)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

風早は、深い悲しみを背負いながらも自分のことを精一杯考えてくれていた蓮に立ち上が
るきかっけをもらう。そしてお互い友情を再確認していた時、背後から聞こえた声に・・・?

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それではどうぞ↓



























「沙穂・・・」


蓮は表情変えずに言った。そこに立っていたのは沙穂だった。風早はその姿にただ呆然と

なった。沙穂と風早はしばらく無言で見つめ合った。静まりかえった夜の病院は沈黙の闇

がさらに深く感じる。


「蓮、何で・・・風早がいるの?」

「・・・・・。もう、いいだろ」

「でもっ・・・約束したよね??」


その時、風早が蓮の前に出て沙穂に向かって歩き出した。沙穂はその動きをただ目で追った。


「俺の・・・俺のためだったんだ」

「え・・・・?」

「蓮はずっと誰にも言わなかったよ。お姉さんのこと。でも俺のために言ってくれたんだ」

「何・・・それ」


沙穂の買い物袋を持っている手が震えていた。


「秋山さん・・・・本当にあの夜はごめん。俺・・・あれから・・・爽子に別れようって言われた」

「え!?」


沙穂は驚いた表情を風早に向ける。そして胸がどきんと飛び跳ねる。しかしその期待感は

風早の次の言葉で一瞬に覆される。


「秋山さんを傷つけたことは申し訳なく思ってる。でも・・・俺、彼女しか好きになれない。

 かけがえのない人なんだ。だから絶対・・・諦めたくない」


沙穂は俯いたまま動かなくなった。そして段々と肩が揺れる。


「やっと・・・そう思えた。蓮のおかげなんだ・・・・だから・・・それでっ」


バッッ―


そして風早は思いっきり頭を下げた。


「秋山さんの気持ちには応えられない・・・・ごめんっ」


沙穂はその姿を見て、ぐっと唇を噛んだ。

あれから何回見ただろう。向き合う度に謝る風早を・・・。自分は何も悪くないくせに

謝り続ける風早を・・・。


「なんで・・・くっ・・・なんで・・・・」

「秋山さん・・・」

「何で私じゃ・・・私じゃだめなの・・・・みんなっ」

「秋山さん――っ!!」


沙穂はそう言うと、病室とは反対のほうに向かって走っていった。風早はその後姿をただ

見送るしかできなかった。これ以上関わっても彼女を傷つけるだけだと分かっていたから。


「・・・翔太。」


蓮は風早の肩をぽんっと叩くと、優しく微笑んだ。


「・・・大丈夫だよ」

「俺は・・・もう自分を偽ることはできない」


目を瞑ると浮かんでくるのは彼女だけ。爽子に会った時からずっと・・・・。

それなのに・・・俺は・・・


蓮は沈んでいる風早にもう一度ポンッと肩を叩くと、病室に誘導した。静かな廊下を二人

でゆっくりと歩き出す。


「あの夜のこと・・・ほんと覚えてないの?」

「う"・・・うん。マジ覚えてない。起きたら・・・秋山さんの家だった」

「ふぅ〜〜〜ん。まぁよくあることだわな。」

「・・・頭真っ白になった。」


自分の言ったことに大笑いする蓮を見て、風早は恥ずかしそうに俯いた。


「何もなかったんじゃね?」

「・・・・なんかきんちょーするわっ」

「何が?」

「あんま蓮とはそんな話しねーから」


あはは〜〜〜っ


すっかり前に戻った関係に蓮も風早も嬉しくなった。こうなるのはこんなに簡単だったの

に何をあんなに虚勢を張っていたのだろう・・・。風早は穏やかな表情を浮かべた。


「だったら・・・まだいいけど。秋山さんを傷つけずにすむし。でも、秋山さんのところ

 に泊まったという事実は変わんねーから」

「っとに真面目だな〜。まぁ〜そんなもんか。彼女一筋の男ってのは」

「なんだよっ・・・。蓮もそうだろ?」

「俺・・・?」


蓮はふっと苦笑いをしてその後の言葉はなかった。風早はその横顔をちらっと見て言った。


「俺・・・蓮には感謝してる」

「何?」

「俺、自分しか見えてなかった。そんな俺の背中を押してくれて・・・その・・・サンキュな」

「・・・俺、何もしてないじゃん。背中を押してくれたのは・・・翔太だ。俺は翔太を苦しめた

 だけだ・・・」

「じゃ・・・・お互い様だなっ」

「―だなっ」


あはは〜〜〜っ



二人は以前のようにバカみたいに笑った。

蓮は晴れ晴れした風早の表情を見て、心から良かったと思った。そして爽子を思い浮かべる。

最後の彼女の悲しげな、今にも消えていきそうな姿を思い浮かべ、胸をぎゅっと掴んだ。


”本当に・・・ごめんな・・・”



* * *



がらっ


「―れん!!」


病室の戸を開けると、目覚めた美穂が蓮に向かって飛びついてきた。


「おっと、もう起きてて大丈夫?」

「うんっ!!れん〜〜〜すき、すき」

「分かったって・・・」

「・・・・・」


風早はその様子を呆気にとられて見ていた。


(そっか・・・小さい頃に戻ったって言ってたもんな・・・あ・・・でも治った?って)


美穂は後ろの人物にそろ〜〜〜っと蓮の首の横から目を向ける。


「あなた・・・・だぁれ?」


大きな目がきょとんと動く。まるで人形が動き出したようだった。


「あっ・・・俺、風早翔太って言います。蓮の友人で・・・」


すると美穂の目が見る見る変わっていった。


「あ〜〜〜〜っさわこちゃんの電話にいた人だ。」

「え・・・・?」

「美穂?」


3人の間にはしばしの沈黙が走る。


「えっと、それはどういうことかな?」


翔太が不思議そうに美穂に問いただすと、美穂は思い出すように言った。


「えっとね〜さわこちゃんの電話の中でねてたよ。」

「ん??」


美穂の言うことがよく理解できず、風早と蓮は首を傾げた。


「美穂、まさか携帯のこと?」


そう言って、蓮は自分の携帯をポケットから出した。


「うん、うんこれ!この中にいたよ。この人!!それでね〜さわこちゃんが電話で

 うれしそうに話してたから・・・・」

「何?」


美穂が暗い顔をするので気になって聞くと新たな事実に蓮は目を丸くした。


「・・・といういことは・・・・」


蓮はそろ〜〜っと風早の顔を見る。まだ理解できていない風早は戸惑ったように蓮を

見ていた。


「・・・マジごめん。翔太」

「え??」


蓮は全て分かった。美穂の話からどうもあの事件が起こったきっかけは全て美穂だった。

美穂が携帯を取り上げてどこかへいかなければ爽子が捜し回ることもなかったし、光平に

会うこともなかった。そして、沙穂がそれを利用することもなかったのだ。


「・・・もうなんて謝ったらいいか分からない・・・」


蓮はそういうと頭を下げた後、珍しく感情を露にあ"〜〜〜〜〜っと頭を抱え込んだ。


「美穂も・・・翔太に謝って」

「ご・・・めんなさい」


やっと蓮に説明されて全てを理解した風早はしゅんっとしている美穂に笑顔で言った。


「いや・・・そんなに気にしないでください」

「翔太、異様に笑顔なんだけど」

「えっほんと?/////」


風早は爽子の携帯の待ち受けが自分だったことに嬉しさを隠しきれなかった。



(でも・・・・・もう変わっているのかもしれない。変わってるよな・・・なにせ別れを

 切り出されているというのに・・・)


さっきからにやにやと笑ったりいきなりどん底のように暗くなったりする風早を見て蓮が

呆れたように言った。


「・・・翔太いきなり自分の世界に入るのやめてくんない?」

「えっ!?」

「ははっ。それでいつ行くの?」

「え?」


蓮はにやっと笑って言った。


「もう会えるだろ?」

「あ・・・うん。会いたい・・・・とにかく話したい。謝りたい。」

「でも、沙穂とのことはどうするんだ?」

「・・・うん、正直に全部話す。分かってもらえるまで・・・・話す。ちゃんと向き合ってみる」


蓮は風早のいつもの表情を嬉しそうに眺めていた。


「れん〜〜さほちゃんどうしたの?」

「あっ・・・何もないよ」

「・・・・・」


その時、美穂が虚ろな瞳をしていることに蓮は気が付かなかった。



***********



「うわぁぁ〜〜んっ・・・うっ」


沙穂は家に戻るとすぐにベッドに伏せて泣いていた。

最初から分かっていた。風早の気持ちは。でも、好きでたまらなかった。諦めるなんて

できなかった。


ピロロ〜〜〜ンッ♪


「・・・・・・」


沙穂は表示を見て、目をごしごしっと擦ると携帯のボタンを押した。


ピッ


『沙穂?』

「・・・・うん・・・昌・・・」

『どうしたの?泣いてるの?』

「・・・ううん・・・大丈夫」

『・・・もうすぐ北海道でしょ?職員旅行の』

「うん・・・・」

『光平に会わないの?』

「う・・・ん、時間があったら」

『じゃ・・・爽子ちゃんには?』


沙穂は昌の言葉に止まった。


「・・・昌まで・・・」

『え?』

「・・・なんで?何で会わないといけないの?」

『・・・・沙穂が会う気がないならいいけど』

「・・・・・」


ピッ


ドスンッ


沙穂は携帯を机に置くと再びベッドに伏せた。


「いったい・・・私って・・・なんなの?」


沙穂は消えるような声で呟くと、外の音を全て遮断するように布団を頭までかぶった。

恋の敗北を素直に受け入れることはできず、ただ満たされない気持ちだけが心の中に

渦巻いていた。














あとがき↓

いつも足を運んでくださる皆様、励ましてくださる皆様ありがとうございます。原動力
になります。かならずお返事しますので、待っていてくださ〜い♪
75話ぐらいまで一気にいきたいと思います。賛否両論あると思いますが、とりあえず
いっちゃいます!疑問や感想には精いっぱいお答えしたいと思っています。沙穂を振っ
た風早に、過去を引きずっている蓮がやたらと明るくなったのはツッコまないでくださ
いな(笑)もう、いつまでも暗くしたくないのです〜(*´Д`*)
うふうっもうすぐアニメ、別マ、コミックスと楽しいこと続きなのと皆様のお心添えで、
パワーが復活してきました。でも、これからますます忙しくなるので、お待たせするこ
とも多くなりますが、今後ともよろしくお願いします。

Half moon 73