「Half moon」(92)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

美穂にナイフを向けられた爽子は・・・?美穂を探しに来た蓮・風早は??

こちらはHalf moon          10 11 12 13 14 15 16 17  18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39   40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 53  54 55 56 57 58 59  60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83  84 85 86 87 88 89  90 91 の続きです。
それではどうぞ↓






























* * *


「はぁ・・はぁ・・・やっぱりいない」


光平は急いでエントランスに降りていったが、爽子の姿はすでになかった。すぐに爽子の

携帯にも連絡を入れたが繋がらなかった。


「ちょっと・・・はぁ、はぁ・・・だぐっちゃん、一体どうしたの??」


気になった友香が光平の後をついて走ってやってきた。


「いや・・・ちょっと・・・・」


光平は嫌な予感がした。


”『彼女・・・翔太の彼女のこと・・・俺が行くまで見ててもらえないか?」”


何で蓮はあんなこと言ったんだろう?


光平はよく分からない蓮の言葉の真意を必死で考えていた。


(え・・・・?)


その時だった。光平は遠くに見える人物に吃驚した。友香はいきなり動作が止まった光平

を不思議そうに見上げると、そのまま光平の視線の先を追った。


そこには蓮と風早の姿があった。光平は予想もしなかった風早の存在に唖然となったまま

しばらく動けなかった。


「たぐっちゃん・・・どうしたの??」

「・・・・」

「光平!」

「!」


光平は蓮の声に現実に戻ったようにハっとした。二人は光平を見つけると走ってやってきた。


「―電話繋がらなかったけど、何かあった?」

「いや・・・ごめん、気付かなかった。黒沼さんに電話するので必死で・・・」


光平は蓮の後ろの男から視線を逸らし、動揺を必死で隠すように言った。


「爽子は?」

「・・・・」


風早は彼女の危機を感じているのか、深刻な形相だった。光平は躊躇しながらもさっきの

爽子の状況を話した。すると蓮が異様に反応した。


「え・・・それで?どこ行った?」

「いや・・・・それが・・」


光平は横にいた友香を見ると、うっとりした顔の友香が閃いたかのように声を上げた。


「も・・・もしかして、爽ちゃんの彼氏さん??そんで、そちらさんはたぐっちゃんの友達??」


友香は興奮したように言うと、風早と蓮を交互に見て顔を輝かせた。


「あの・・・・?」

「あっ私、爽ちゃんの友達の沢渡友香です。田口くんとも一緒の部署です」

「あっ・・・爽子から聞いてます。いつもお世話になってるって・・・。挨拶が遅れて

 すみません、俺、風早翔太です」

「こちらこそお世話になってますっ!うわ・・・やばっ・・・写真よりかっこいいですね!

 お隣の彼も・・・」


蓮は目がハートになっている友香に身体を向けると真剣な表情で聞いた。


「その女の人と一緒にどこかへ行ったとかは見てないんですよね?」

「あっ・・話してる姿をちらっと見ただけで、そこまでは・・・」

「だから、美穂さんかどうかも分からないよ?」


光平が言うと、蓮は黙り込んで考えていた。


「蓮、俺はとにかく爽子に連絡を取り続けるから、この辺りを探そうよ」

「・・・そうだな」

「ちょっと待ってよ。何でそんなに必死なの?まじで美穂さん来てんの?」

「・・・ごめんっとにかく彼女を探す」


蓮と風早は、友香に会釈すると足早に走り出した。光平は取り残されたような気分だった。

自分だけが理解していない。二人は分かり合っている。妙な疎外感を感じた。光平は拳を

ぎゅっと握りしめると二人の後を追った。


「じゃ、沢渡サンキューな」

「あっ・・・!」


友香は爽子に何かあったのであれば自分も加わりたいと思ったが、緊迫した雰囲気に言え

る状態でないのを察した。


「大丈夫かな・・・爽ちゃん。しかし・・もっとイケメンくんと話したかったな〜〜」


友香は名残惜しそうに男3人の背中を眺めるとくるっと会社の中に入っていった。



その時、爽子にとんでもない危機が迫っていたのである。




********



暗闇の中、狂気に満ちた女がじりじりと爽子に近づいていた。


「あの・・・美穂さん??」


やっとのことで言葉を発した爽子は目の前の光景をやっと飲み込み始めた。


「ねぇ、蓮と別れてよ。」

「・・・な、何もないんです。蓮さんは美穂さんの恋人で・・・っ」


震えが止まらない。美穂は何か大きな誤解をしているのだが、この状況を覆すのは難しい

と感じた。もはや目の前にいる美穂はあの時の美穂ではないと確信した。


「ずっと幸せだったのに・・・私達・・・何で邪魔するのっ!!」

「だから・・・それは誤解で・・・・っ」


爽子は話せば分かってくれる。ずっとそう信じていた。でも今の美穂には何も通じなかっ

た。こんなに悲しいことがあるのだろうか。一生懸命話しても何も聞いてもらえない。

爽子は無言のまま固まってしまった。ナイフはじりじりと自分に近づいてくる。


「・・・・・・」


爽子は悲しかった。

恐怖より悲しみが上回る。誤解をし続ける美穂がたまらなく悲しかった。目の前のナイフ

を見つめながら、爽子の中でどんどん悲しみがあふれてくる。怖いのに悲しい。

美穂は動きが止まった爽子にナイフを向けた手を止めた。


「・・・悲しい。・・・美穂さんの信じられない気持が・・・悲しい」

「・・・悲しい?」


美穂の睨んでいる目が少し揺らいだ。狂気の目が初めて緩んだ瞬間だった。


「・・・・私も悲しかったから。好きな人の気持ちを信じられなかった時・・・」


そして、爽子は怯えることなく凛とした表情で美穂に言った。


「私の好きな人は蓮さんじゃない。・・・・高校の時からずっと好きな人です。私に初めての

 世界をくれた人」

「・・・・・」


爽子は思いつめた表情で立ちすくんでいる美穂を見つめた。


「美穂さん・・・ちゃんと私を見てください。」


すると、美穂は爽子をキッと睨みながら言った。


「・・・信じられないことを蓮はした。あの時・・・あ・・あの時、別れようと言った。蓮が

 蓮が全てだった。その私を・・・・裏切った〜〜〜っ!」


美穂は記憶を取り戻すかのように語りだすと、身体を震わせ号泣し始めた。美穂のナイフ

を持つ手が震える。その時、爽子に向けられていた狂気が自分の中へと変化していった。


「・・・美穂さん」


爽子は号泣し出した美穂をせつない目で見つめると、そっと優しくナイフを持つ手を自分

の手で包み込んだ。美穂は驚いた表情で爽子を見上げる。


「ちゃんと・・・話し合うべきだと思う。私も逃げていたけれど、そのことの大切さに気付か

 せてもらったの。だから美穂さんも自分の想いを伝えて。そして蓮さんの想いを聞いて」

「・・・・・」


人通りはあるが、電灯がない真っ暗な道路の隅で行われている光景に目を止める者は

いなかった。しかし叫んだら簡単に人がやってくるような場所だった。爽子は思った。こん

な状況でも全身で自分に向かってくる美穂に戦略も計算も何もないことを。ただ・・・蓮が

好きなのだということを。


「・・・そんなのきれい事じゃない」

「・・・・でも・・・気持ちに嘘はつけない。」

「・・・・・・」


いつの間にか、美穂の手が下に降りていた。美穂は俯いたまま脱力するようにその場に

座り込んだ。


「−こ!爽子っ!!」


その時、自分を呼ぶ声が聞こえて爽子はハっとしたように振り向いた。そして、その温か

くて、愛しい声に全身の力が抜けるのを感じた。


「か・・・っ」

「爽子??そこにいるの?」


上手く声を出せない。爽子は現実に戻ったかのように恐怖感が全身を襲い、その場にへな

へなと座り込んだ。


物音に気付いた風早達は、爽子の側に駆け寄った。


「爽子っ!?」


風早は爽子だと分かると、道路に座りこんでいる爽子の手を引っ張って自分の方に引き寄

せた。そして全身で抱きしめた。


「爽子っ!!良かったっ・・・。会えて良かった。」

「か・・・風早くんっ」


爽子は風早のあまりにも早い心臓の音を感じると、安心した表情で身体を預けた。


「ご・・・ごめんなさい。心配かけて・・・」

「ほんと!!心配した・・・心臓止まるかと思った。はぁ〜良かった」

「風早くん・・・」


風早の心配が全身に伝わってくる。爽子は幸せそうに涙を流した。

そしてやっと後ろにいる蓮と光平に気付くと、「あ・・・」と恥ずかしそうに声を出した。


蓮は爽子の奥の人物を見ていた。そこには無気力状態で座り込んでいる美穂がいた。


「美穂・・・探したよ」

「・・・・・」

「何で・・・?こんなとこまで来たんだよ・・・」


蓮は言葉よりも強い怒りの表情を美穂に向けると、美穂は無気力状態から現実に戻る

ように怒りを露わにして言った。


「何よっ・・・・蓮が悪いんでしょ。蓮が私を裏切らなければ・・・・っ!!」

「・・・やっぱりそうなのか?」

「だって、彼女が現れなければ私たち別れることなんかなかったのにっ!!」

「何で・・・何で彼女なんだよ・・・」


蓮が悲しそうな目をして言うと、美穂は爽子を睨んで言った。


「蓮が・・・好きだからじゃないっ!」

「・・・・なわけないだろ?」


風早は二人のやり取りを驚いた表情で聞いていた。


「美穂・・・・病気なんだよ。だからゆっくり治そう」

「いやっ!!蓮がいなくなるのはいや〜〜っ!!」

「美穂!・・・俺はいるから」


蓮は美穂を抱きとめると、美穂は泣き叫んだまましばらく騒ぎ立てると、疲れ果てたよう

に虚ろな目をして、静かに瞼を閉じた。蓮は美穂を抱き上げて、目の前の3人をちらっと

見ると、心から謝罪するように深々と頭を下げた。


爽子はさっきから美穂を見ていて、美穂自身が自分を上手く処理できないのだということ

が分かった。様々な感情が美穂の中で渦巻いている。


暗闇の中、複雑に絡み合った男女の関係を光平、風早、爽子はただ見守ることしかできなかった。














あとがき↓

やばい・・・・光平・・影が薄すぎる。許して下さい。はい。彼は今はもはや主人公ではない!
スピンオフとかで出そう・・・(笑)まぁ二次ということで。主人公がはっきりしないで、色々な
人の想いを書いていこうとは思っていたんですが、ここまで光平が影薄くなるとは思ってな
かったです。次も・・・薄いかも(;´д`)トホホ…  

Half moon 93