「Half moon」(66)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

ある日、職場で知った事実に驚いた沙穂だが・・・?色々場面変わります。この回からは
結構、登場人物の場面入れ替わりが多いです。ややこしかったらすみません。

こちらはHalf moon          10 11 12 13 14 15 16 17  18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39   40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 53  54 55 56 57 58 59  60 61 62 63 64 65 の続きです。
それではどうぞ↓























**************



「え・・・・!?北海道?」


沙穂は仕事の休憩中、職員旅行の案内を見て大きな声を上げた。


「あ・・・あの、今年の職員旅行、北海道なんですか?」

「そうよ。来月だからちょっと寒いかもね」

「新人は絶対参加よ。上司の小間使いね。みんな越してきた道だからさ〜」

「だけど、世の中不景気だっていうのにうちはまだ職員旅行するんだぁ〜〜」

「だって院長が好きじゃん、ああいうの。でも楽しみっ!結構いいホテルだったり

 するんだよね。」

「ケチなのにね。意外だよね〜」


あはは〜〜〜っ


「・・・・・」


沙穂は先輩達の会話をうわの空で聞いていた。それより頭にこびりついた文字。

”北海道・・・”

胸の奥で鈍い音がした。なに動揺してるんだろう?

別に会うわけなんかない。ただの職員旅行なんだから。


沙穂は、先日蓮に会った時のことを思い浮かべた。


”『お前さ・・・最近自分の顔、変わったって思わね?』

 『え・・・・』

 『鏡、見てみろよ』

 『・・・・・』”


蓮はそれだけ言うと、美穂の病室に上がっていった。沙穂は気が付くと唇を強くかみ締

めすぎて、血が滲んでいた。

何でも見透かすような蓮が昔から嫌だった。ズルイ心を見透かされそうで怖かった。

だから・・・事故が起こった時、そんな蓮の目にもう怯えなくていいんだって・・・そう思った。

風早のことも遠慮することはないって・・・・。身内の私がもう何も遠慮することないって。


”北海道”


沙穂は虚ろな目をして、案内の中の文字を眺めていた。



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北海道、同期会――



「おっかえり〜〜〜〜田口!」

「か〜〜〜んぱいっ」

「お久しぶり〜〜〜っ」


チ〜ンッチンッ



ワイワイ ガヤガヤ わははは〜〜


週末になり、光平を囲んでの同期会が行われた。光平が帰って来たということで、この

日はかなりの同期が集まっていた。友香がマメということもあり、月一の同期会は途切

れることなく続いていて、すっかり親交も深まっていた。


光平は久々にこの場に参加しても全く疎外感を感じず、すぐに輪に入れたことを嬉しく

思った。爽子に会いたいのはもちろんだったが、こうやって迎えてくれるこちらでの仲間

達に、自分の居場所を感じた。ずっとこっちに居たい。そして・・・・。

光平は斜め前の爽子をせつない目をして見つめた。


”『−ちゃんと真っ直ぐ見れる恋愛をしろよ』”


真っ直ぐ見れるために風早に会った。でも、まだ何か心に引っかかっていた。風早の目

がずっと脳裏から離れなかった。そして風早の言動も。それが何なのか分からないから

余計に俺の中から消えていかなかった。


「たぐっちゃん」

「え?」


隣の友香がビールを注ぎながら言った。


「何かさ、変だと思わない?」

「え?何が?」


光平が不思議そうに友香に聞くと、斜め前で必死に隣の同期と話している爽子の方を顎で

くいっと示した。


「仙台から帰ってきてから笑いが固いんだよね〜〜〜なんか」

「え・・・・」

「いやね・・・何か悩んでるなら言って欲しいのにさ。私ってそんなに頼りになんない

 かな〜〜って」

「・・・帰ってきてから・・・ずっと?」

「うん。向こうで爽ちゃんに会った?」

「う・・・ん、まぁ・・」

「へぇ〜なんかあったか分かる??まっ・・・あったとしたら彼氏くんとだと思うけど」

「・・・・さぁ」


光平は伏し目がちに言った。光平自身も気づいていた。爽子の様子に。気づかないはず

はなかった。ずっと見ているのだから。そして、思い当たるのは・・・。


「たぐっちゃ〜〜〜〜んっ」

「あっ!!」


光平は友香を見ると、ハッとしたように声を上げた。思い出したのだ。友香の酒癖の悪

さを・・・。思わずたらっと汗が出てくる。


「おいっお前飲みすぎてる?まさか??」

「え〜〜〜〜っ?飲んでないよ」


そう言ってへらへら笑う友香に光平は引き始めた。すると横の同期もヤバイという顔を

している。さすがに毎月同期会をやっていれば友香の醜態は周知の事実だった。


「あっ!!わわわっ友香ちゃん大丈夫?」


おかしくなった友香の様子に気づいた爽子は焦った様子で声を掛けた。


「大丈夫よ〜〜〜〜んっそれより爽ちゃん、ツレナイよぅ〜〜っえ〜〜〜んっ」

「黒沼さん、ごめん!こっち来てくんない?」

「あっそうだね・・・っ」


沢渡に悪いけど、その時俺は彼女と近づくことしか考えていなかった。


ドクン、ドクン、ドクン


光平は段々と近づいてくる爽子に胸の鼓動が早まる。そして隣に座る彼女のふわっとし

た香りに酔いしれる。光平はそっと目を閉じた。


(ああ・・・・・)


彼女が側にいる感覚をずっと夢に見ていた。仙台にいる時も彼女のことを思い出さない

日はなかった。そして側にいるとやっぱり自分のものにしたくなるんだ。


「友香ちゃん・・・お水飲んで・・・」

「あ〜〜〜んっ悲しいよぉ。ごくごくっ」


友香は水を一気に飲みすると机にうつ伏せてしまった。必死で介抱する彼女。光平は

爽子から目を離せなかった。


「友香ちゃん、寝ちゃったのかな・・・・」


顔を上げた爽子は光平の強い視線に気づいた。光平は目を逸らさず爽子を見つめる。


「田・・・口くん?」

「黒沼さん・・・寂しい?」

「え?」


彼女の大きな瞳が小さく揺れた。俺の前に大きく立ちはだかる存在。彼女にとってどの

ぐらい大きな存在なのだろう。


「風早がいなくて・・・今、寂しい?」

「・・・・」


彼女は”風早”と言う言葉に大きく目を見開くと、寂しそうに瞳が揺れる。風早との間

に何かあったのであれば、忘れてしまえばいいのに。だってここには風早はいないのだから。


光平は揺れる爽子の瞳をじっと見つめた。


「黒沼さん・・・俺、」


PiPiPi〜〜♪


「!」


その時、爽子の携帯が鳴った。光平はハッとしたように目を一瞬逸らした。爽子は一言

謝って、カバンから携帯を取り出すと、携帯の表示を見て大きく目を見開いた。


「・・・・・」


俺は、その表情で誰からか分かった。


「あっ・・・ごめんっちょっと席外すね・・・。友香ちゃんを・・・」

「あ・・・うん・・・」


彼女は俯いたまま携帯を握りしめると、戸口に向いて歩いて行った。

光平はテーブルの下で拳を握りしめたまま、鋭い視線で爽子の背中を見つめていた。













あとがき↓

ここから主人公いろいろ変わります(笑)同時進行で色々な場面が進んでいく予定。そして
もう少しで風早の心情に入っていきます。色々焦らしてすみませんねぇ〜。今日は君届アニメ
じゃないですか!!でも・・・もう力尽きそう・・・。それではまた遊びに来てください。

Half moon 67