「Half moon」(40)
社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。
複雑な思いを抱えながら病院を後にした爽子と光平は・・・?
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それではどうぞ↓
二人が歩き出してしばらくした頃、爽子の横で歩いていた光平が突然視界から消えた。
「・・・・くっ・・・」
「・・・!田口くん?」
光平は勢いよくその場にしゃがみこんだかと思うと、身体を丸くして顔を隠した。光平の
身体は震えていた。
(田口くん・・・・・)
その様子に、爽子は先ほどまで我慢していた涙が溢れてきた。
「うっ・・・ううぅ〜〜〜〜っ」
「!」
光平が声に気付いて見上げると、唸り声をあげて、号泣している爽子の姿があった。
「く・・・黒沼さん!?」
***********
あまりの爽子の号泣に自分のことを忘れた光平は、とりあえず爽子を病院外のベンチに
座らせた。
「ご、ごめんなさい〜〜〜〜!!関係ないのに。涙が・・・止まらなくて」
「いや・・・・大丈夫?」
「う、うん」
光平はハンカチで必死で目頭を押さえている爽子の姿を優しい目で見つめて言った。
「・・・黒沼さんは優しいもんなぁ・・・」
「えっ・・・私、優しくなんかないです。私なんて・・・・」
私は、過去につらい思い出なんか一つもなかった。いつも優しく見守ってくれる両親、
大好きなあやねちゃんやちづちゃん、そして風早くん・・・・・。
頭に浮かぶのはキラキラした素敵な想い出ばかりで。そんな私が分かるわけがない。
秋山さんの思い。どんな思いの中生きて来たんだろう・・・。
爽子は次から次に流れる涙を抑えられなかった。
「・・・美穂さんと蓮は高校の時から付き合っていて、すごくお似合いの二人だった。でも
1年前、蓮が運転していた車が事故ってさ。その時、助手席に乗っていたのが美穂さん
だったんだ。二人とも外傷はなかったんだけど・・・・美穂さんの意識が戻らなくて・・・・」
「・・・・・・」
「・・・それからは俺も知らなかったんだ。」
それだけ言うと、光平は俯いたまま黙りこんでしまった。
光平はやっと分かった。蓮が何も言わなかった訳が。蓮はそういう人間だ。
親友である光平にも何も言われたかった。蓮にとってきっと人生を変えたであろう1年前の事故。
正直、蓮を支えられるのは自分だけだという自負があった。でも・・・蓮は何の相談もして来な
かった。確かに人生経験もそれほどない、頼られる人格ではない。分かっているけど・・・正直、
光平は寂しさを感じた。結局、蓮は何でも一人でやってしまうんだと。
光平は今まで心に抱いていた蓮への不信感がものすごく恥ずかしくなった。
* * * *
いつのまにか辺りはすっかり夕暮れ時になっている。二人の影が夕焼けに長く伸びていた。
爽子は重い瞼を開き、光平に言った。
「・・・もう帰らなきゃいけないので」
「・・・・うん。風早帰って来るもんな」
「あっ・・・そういえば時間!田口くん仕事大丈夫だったの?」
「うん。半休もらった」
”この一大事だからさ・・・”と光平は寂しそうな目をして言った。
爽子はそんな光平に再び泣きそうになるのを堪えて、軽く会釈をした後、ゆっくり歩き
出した。茜色の空が爽子を包む。
光平は爽子の後ろ姿をせつなそうな表情で見つめていた。
「――黒沼さん!」
「!」
しばらく爽子の背中を見ていた光平が叫んだ。爽子が驚いた表情で振り返る。
茜色の空に彼女の姿がとてもきれいだった。
「俺・・・・どうして仙台に来るのが嫌だったか知ってる?」
「・・・えっと?」
必死で質問の答えを探している爽子の姿に光平はふっと笑顔になった。いつも真剣に向き
合ってくれる。人のことには敏感で一生懸命向き合うくせに自分のことにはものすごく鈍感で・・・。
そんな彼女が愛しくて・・・・。
「・・・好きな人が北海道にいるんだ」
「え!!そ、そうなの〜〜〜〜〜っ!」
”うわぁ〜〜〜〜聞いちゃった!”と焦っている彼女。自分のことだとも知らず・・・・。
そんな姿も愛しくて。だから・・・・まだ言えない。本気で手に入れたいと願うから。
「・・・だから、絶対北海道に帰るから」
「う、うん!皆待ってる!」
「それから今日行けなかった店の埋め合わせさせて!すっごくうまい店だから」
「・・・うん!ありがとう」
そう言って彼女は心からの笑顔で笑った。その笑顔を守りたい。俺の手で・・・。
光平は目を細めて爽子を見送った後、思った。北海道に帰ったら彼女に近いのは自分だ。
もう遠慮したりしない。風早より出会うのが遅かっただけ・・・・と光平は心の中でそう
思い込むようにした。
あとがき↓
光平も本気になったら怖いタイプ?かも。でも沙穂も光平も憎悪とかにはならないと思います。
世の中にはどうにもならないことがあるということを知ることで成長する!なんてね。
それではまた、遊びに来て下さい。