「Half moon」(78)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

爽子は沙穂と誠実に向き合うために会います。そこで沙穂に聞かされた事実に愕然!!自分が
どこまでも風早を傷つけていたことに気付いた爽子は焦るが・・・?二人の対決続きます。
今回も二人の心の声が入り交ざり、分かりにくくてすみません。

こちらはHalf moon          10 11 12 13 14 15 16 17  18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39   40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 53  54 55 56 57 58 59  60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 の続きです。
それではどうぞ↓






























「・・・会わないで」


爽子の大きな瞳は大きく波打っていた。見つめあう二人。

爽子は沙穂の真剣な目をじっと見て思った。


本当に・・・秋山さんは風早くんが好きなんだ。私が想う気持ちと同じ。

風早くんと気持ちが通じた高校2年の学校祭の後、嬉しくて、夢みたいで現実じゃないと

思った。そして学校に行くと、私が風早くんに抱いている感情と同じ感情を持っている人

達の悲しみを知った。それは以前の私だった。だからこそ、大切にするって・・・誓った。

でも、今の私は風早くんを大切にできていない。


「だって・・・風早を傷つけるだけ・・じゃん」

「・・・・・・」


爽子は何も言えなかった。というより沙穂の言葉が頭に入らないぐらい頭の中で必死で

考えていた。大切にするってなんだろう・・・・と。

このまま向き合わない方が風早くんを大切にできないんじゃないのかな。

風早くんならどうするだろう・・・?


”『もっとも人間らしい奴が風早じゃないの?そう思わない?』”


あやねちゃんの言った言葉。人間らしい風早くん。とっても温かくていつも正直だった。

そして、私の言ったことにいつも100%で答えてくれた。自分の気持ちをちゃんと届けて

くれた。自分が出来る大切にするということは・・・・。


爽子は真っ直ぐ沙穂を再び見つめた。


「―がう」

「え?」

「違う・・・。ちゃんと向き合わない方が風早くんを傷つける。だから・・・」

「!」

「だから、風早くんに会いに行きます。」


沙穂は爽子の透き通った真っ直ぐな瞳を眉を顰めながら見ると、目を逸らして言った。


「な・・・何よ。さっきまでパニくってたのに」

「・・・・」


もう、逃げない。風早くんからも、自分からも・・・。


爽子は沙穂に正直な気持ちを全て伝えようと思った。


「高校の時、風早くんは私の憧れだったの。でもそれが恋愛感情だと気付いた時、全部

 欲しくなった。ずっと一緒に居たくなった。だから、就職して離れるって分かった時、本当

 はとても・・・不安だったの」


でも、正直に言えなかった。”行かないで”なんて。何を不安に思うかなんて言えなかった。

私は、ずっと心のどこかで風早くんに対してブレーキをかけていたのかもしれない。風早くん

をどんどん好きになる自分に・・・怖かったから。自分をずっとそうやって守っていたんだ。


「・・・・・」

「・・・大切な人なんです。」


爽子はそこまで言うと、頭を深々と下げた。


「秋山さん・・・ありがとう。大切なことを教えてくれて。きっとこのまま風早くんに会って

 たらもっと傷つけてたと思う」


沙穂は頭を下げている爽子を茫然と眺めていた。握りしめた掌にはじとっと汗が滲んでいる。

目の前の爽子に不思議なほど対抗意識とか嘘とか偽善とかが感じられない。沙穂はそう思う

自分自身が悔しかった。だって、それはまるで・・・・。


「・・・てよ」

「!」


震える沙穂の声を聞いて爽子はぱっと顔を上げた。


「止めてよ!・・・・何で頭なんか下げんの?何で責めないの?風早を傷つけてるのは自分じゃ

 なくて私だって言わないの?」

「え・・・そうなんですか?」

「だって、そうじゃない!私がいなかったらこんなややこしくならなくても済んだんだし」


・・・それはまるで、自分の負けを認めるようだったから。


沙穂は自分の気持ちを必死で保つために、爽子をきつく睨んだ。爽子はその表情をしばらく

見つめると、ぎゅっと下唇を噛みしめて言った。


「それも・・・違うと思います。」

「え?」

「人の想いを止めることはできないし、風早くんに不安にさせたのは私だから。私・・・秋山さん

 に会えなかったらこんな想いをすることなかった。つらいけど・・・本当につらかったけど、風早

 くんがどれだけ大切な人か・・・・分かったの。もうただの”好き”だけではいられないことも」

「ただの・・・・好き?」

「私・・・ただ、好きだった。”風早くんの彼女”と周りの人から言われるたびに”彼女”って何だろう

 って思ってた。それは風早くんを縛る言葉なんじゃないだろうか・・・って。その言葉で風早くんを

 独り占めしていいのかって・・・。でもそれに反して心のどこかではずっと自分だけの風早くんで

 いて欲しいって・・・・。欲張りになっていったの」

「・・・・・」

「でも、風早くんのことを一番に心配するのも、他の人が知らない初めての風早くんを知るのも・・・

 自分でありたいって・・・・心から思った。そして、気持ちをちゃんと話さないといけないと思ったの。

 それを気付かせてくれたのは・・・秋山さんです。」


目の前で沈んだ表情の沙穂が眉を顰めていた。爽子はその姿に気付くと焦ったように言った。


「ご・・・ごめんなさい!自分のことばっかり・・・っ」

「あのさ・・・ちょっと聞いていい?」

「は、はい?」

「何年付き合ってるの?」

「えっと・・・6年・・かな」

「・・・・黒沼さんって・・・それ天然?」

「あ″〜〜っやっぱりおかしいんですね・・・」


沙穂は困惑していた表情から段々と呆れた顔になっていった。


彼女だったら当たり前なことを彼女は当たり前だと受け取らない。


「・・・あほらし」

「え・・・?」


風早はきっとそんな彼女が好きなのだ。かなり世間ずれしてるけど、計算なんかしない、

素直で正直な彼女を・・・・。私とは違う。

沙穂はさきほどとは違い、落ち着いた口調で言った。


「彼女は独占していいんじゃないの?付き合うってそういうものでしょ」

「・・・そうなんですか?」

「そういうものなの。それじゃなきゃ・・・・他の女に取られるよ。風早」

「う″・・・・嫌です。あっ・・・・そんなこと言う権利はもうないのだけれど」

「・・・・あると思う」

「え・・・?」


沙穂は視線を下に向けて、黙り込んだ。二人の間には長い沈黙が走った。


悪いことをしていると分かっていた。でもそれを認めたくない自分がいた。どうしても風早に

振り向いて欲しかった。手に入れたかった。彼女と壊れて欲しかった。今だってそう思ってる。

でも、どうしてこんな気持ちになるんだろう・・・。


「何も・・・なかった。あの夜。私が・・・・無理やり連れ込んだの」


こんなこと、絶対言うつもりなんかなかったのに・・・。


沙穂は爽子の反応が怖かった。顔を上げられず、膝に置いた拳には汗がじわっと滲んでくる。

長い沈黙が続く。爽子からの返答がないまましばらくの間の後、沈黙に耐えられなくなった

沙穂はそろ〜っと顔を上げた。


「!」


そして、驚いた表情で目を見開いた。



目の前には涙を浮かべながら微笑んでいる爽子の姿があった。












あとがき↓

長い間、お待たせしました。話の続きです。ここからはあまり間隔を開けずにUPできたら
いいな・・・と思ってはいます。沙穂×爽子編がまだ終われなかった。次こそラストです。
このお話、100話ぐらいで終われるかな?と思ってます。(まだそんなに続くんかい?
と一人ツッコミしときます)長くてもお付き合いできる方はまた遊びに来てください!

Half moon 79