「Half moon」(80)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

沙穂の職員旅行は意味あるものだった。仙台に帰る当日、光平がホテルに会いに来てくれた。
その時の沙穂は・・・?後、光平目線です。

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それではどうぞ↓































* * *


金曜日――


「―光平」

「よっ沙穂!」


次の日、帰る前にホテルに来てくれると言った光平がロビーにやってきた。


「わざわざ来てくれたんだ〜光平」

「ああ〜出先から近かったしさ。今回は職場旅行だろ?今度はゆっくり案内してやるよ」

「うん、ありがと」

「あれ?」

「何?」


光平は沙穂を見て不思議そうな顔をした。


「何か、変わった気がする。沙穂。いいことあった?」

「・・・まぁ、いいことはないけどね。何かすっきりしたっていうか」

「え?」


光平は運ばれてきたコーヒーを一口含みながら聞いた。


「まぁいいじゃん。それより光平はどう?最近」

「・・・ん、ぼちぼちかな」

「ねぇ、光平。・・・私と美穂って比べたことある?」

「はぁ??」


沙穂の質問に光平は驚いたように目を真ん丸くさせた。


「何言ってんの??あるわけないだろ。っていうか、美穂さんとは学年も違うしさ」

「ん・・・そうだね」

「美穂さん・・・どう?」

「うん・・・帰ったら会いに行こうと思う」

「そっか・・・・」


光平はこんなに穏やかな沙穂を久々に見た気がした。


「やっぱ、何かあった??」

「・・・まっあったと言ったらあったかな」

「え?なになに?」


すると、沙穂は一呼吸をおいて光平を真っ直ぐ見て言った。


「・・・風早にふられた」

「え・・・・」


光平はびっくりした表情で沙穂を見つめた。


「光平は知らなかったよね。私、風早が好きだったの。彼女がいたのにさ・・・」

「・・・・」

「・・・不思議だね。あれほど執着してたのに。今は諦めないといけないと・・思えるようになった」


複雑そうな顔をしている光平に沙穂は”今度は仙台で会おうね”と明るく微笑んだ。

そして光平と別れた後、一つ深呼吸すると携帯のボタンを押した。


プルプルプル〜〜ッ


沙穂は目を閉じてコールを聞いていた。そしてコールの音が消えるとぱっと目を開けた。


「あ・・・風早?」


そしてごくっと唾を飲み込んで言った。


「もう一度だけ・・・二人で会ってもらえるかな。最後だから・・・」




***********



沙穂が風早を好きだった?


光平は外回りから会社に帰りながら沙穂の言葉が頭から離れなかった。


”「・・・風早にふられた」”


仙台でいろいろあったのかもしれない・・・。

黒沼さんは知っているのだろうか?

もしかしてそのことでややこしくなってた?


沙穂はどうして俺にそのことを言ったのだろう。


光平はぐるぐると回る同じ思考をかき廻らせながら部署のドアを開けた。

するといきなり現れた人物に現実に引き戻される。


かちゃっ


「あっ・・・田口くん、おかえりなさい。お疲れ様でした」

「!」


その時、外回りから帰ってきた光平を爽子は部署で待っていた。他の社員はもういないよう

で、部署内は爽子と光平の二人だった。


「・・・話があるの」


光平は緊張した面持ちでごくりと唾を飲み込んだ。爽子の真剣な顔に不安を過らせる。


「今日は結構、早く終われてさ〜〜〜っ」


彼女が何かを言おうとしているのを無意識に阻止していた。


「皆早いよね〜〜そっか金曜だもんな。飲み行った?」

「あの・・・・」

「俺、後処理あるから・・・」

「じゃ・・・あの、とりあえずお茶でも・・」


俺はカバンを置くと見せつけるように領収書類などを出し始めた。彼女は給湯室にお茶を

取りに行った。彼女がドアから出ていくのを見ると、光平は大きなため息をついた。


「ふぅ・・・っ」


そして自分のデスクにうつ伏せて必死でマイナスな思考をかき消した。そんなじゃない。

彼女の話はそんなことじゃないって・・・願うように心の中で呟いていた。


「どうぞ・・・」

「ありがと」


彼女はそっと俺にお茶を差し出すと、俺の真正面に座った。


「あの・・・」

「今日のさぁ〜〜〜得意先の店長さぁ最悪でさ」

「・・・・・・」


彼女の真っ直ぐな瞳が俺を捉えた。俺はそれ以上何も言えなくなった。微動一つない揺らぎ

のない目を見て、俺はこれ以上何かを言っても無駄だと悟った。


「田口くん・・・聞いて」

「・・・・・」


俺は観念したかのようにお茶を静かにデスクに置くと俯いたまま身体を彼女の方に向けた。


「私・・・今から最終の飛行機で風早くんに会いに行ってきます」

「・・・・・・」


俺は言葉が出なかった。彼女の言葉にゆっくりと顔を上げた。


「今まで・・・逃げてたの。でも、もう逃げないって決めたの。会ってくれるか分から
 ないけれど・・・」


光平は迷いのない爽子の目を見ながら、寂し気な表情を浮かべた。その目は風早しか見て

いない目だった。


「・・それが返事だよな」

「ご、ごめんなさい。私・・・田口くんを傷つけてしまった。本当にごめんなさい。」


そして顔を上げると、光平を真っ直ぐ見て言った。


「私、風早くんが好きです。だから田口くんの気持ちには応えられません。ごめんなさい」

「・・・・・」


爽子はもう一度深々と頭を下げた。上がってこない頭を光平は虚ろな目で見ながら言った。


「風早が・・・拒否したら?」


爽子の頭がばっと上がる。そして大きな瞳を揺らしながら言った。


「それでも・・・・やっぱり好きだから・・・」

「!」


その時、久々に見た彼女の笑顔に俺は目が離せなかった。最初はこの笑顔が見れるだけで

嬉しかった。いつの間にか欲張りになっていった。好きになりすぎて・・・俺は自分のことしか

見えてなかったんだろうか・・・。


爽子は無言の光平にもう一度頭を下げると、側に置いていた旅行カバンを持って背中を向けた。


「・・・黒沼さん」


彼女が振り返る。長い髪がきれいに揺れた。


「行かないで・・・・って言っても行くよね」

「・・・はい」


彼女はそれから後ろを振り返らず走って出て行った。残された俺はどんな顔をしているの

だろう。ふられるってこんなに辛いもんなのかな・・・。胸の奥が熱くて苦しくて・・・燃えるようだ。


「う・・・っ・・・」


俺は嗚咽していた。こんな想いをするなら恋なんてしない方がましだ。だからずっとブレーキ

をかけていた。正々堂々と向き合えない恋だったからブレーキをかけていたんじゃない。

ただ・・俺は傷つくのが怖かったんだ。勝算の少ない恋をして、こうなるのが・・・怖かった。

でも・・・・止められなかった。


ピロロ〜〜〜ン♪


その時、携帯が鳴った。表示は昌だった。


ピッ


『―光平!?』

「・・・・・・」

『何?光平だよね??』


電話口から昌の元気な声が聞こえた。光平は目の前に合った携帯のボタンを無意識で押していた。

デスクに頬をつけながら、無気力な表情で携帯から聞こえる声を聞いている。


「・・・うん。俺」

『な〜〜んだ。早く返事してよね!沙穂に会った??』

「・・・昌」

『ん?』

「俺・・・馬に蹴られたみたい。もう復活できない」

『・・はぁ??』


ただ今は何も言わずに昌の声を聞いていたかった。俺はその声をまるで子守歌のように

感じながらそっと目を閉じた。
















あとがき↓

仕事を終えて、飛行機が間に合うと思わないけど・・その辺は適当で(笑)さて、沙穂も
光平もはっきりと勝算がないと分かっていながら諦められなかった恋。そして、人を傷
つけてでも奪いたいと思った相手との恋の終わり。光平もこの恋がこれからの人生に
大きく影響を与えて欲しいと思いました。というか、爽子という存在の大きさを描きたか
っただけなんですが、難しいっす。さて暗いお話が段々上向きに??それがそ〜でもな
かったりして・・・。それでは5話区切りなので拍手ボタン置いておきますね。何か感想
・疑問があれば遠慮なくどうぞ〜〜〜!次の話もすぐにUPしますね。

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