「Half moon」(98)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

蓮のことが気になりながらも、風早はある悩みを抱えていた。ずっと抱えているその悩み
とは・・・?

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それではどうぞ↓
































*******



次の週末―



「爽子!」

「風早くん!」


空港で爽子を迎えた風早はきょろきょろと周りを見渡し、ほっとしたように爽子に駆け寄

った。仙台空港と言えば、風早にとってトラウマになっていた。何回迎えても周りの男が

爽子を狙っているようで気が気でない。風早はほっとしたように大きく息をついた。


「あ〜よかった」

「え?何が?」

「いーの。こっちのこと。それより大丈夫だった?2週間前に来たばっかなのに」

「う、うん・・・嬉しいよ。今回は早く風早くんに会えたから」

「しょーた」

「え・・・・」

「婚約したんだから・・・・そろそろ”翔太”って呼んでよ」

「あっ/////」


頬をぷっと膨らませて風早は照れた顔で言った。


「し、翔太くん・・っ」

「はい!俺も会えて嬉しいっ」


爽子は風早の笑顔を見て幸せを噛みしめる。爽子の薬指にはピカピカの指輪が光っていた。

風早も爽子が側にいる幸せを噛みしめる。


幸せなのに自分の中でもどかしい想い・・・。風早は爽子とちらっと見るとせつない表情をした。

ずっと抱えている想い・・・それは付き合った時からずっと心にある想いでもあった。


”ずっと一緒にいたい・・・”


いつまで経っても慣れるはずがなかった。爽子のいない生活。しかし、社会生活が長くなれ

ばなるほど、仕事に夢や希望をもって頑張っている爽子を仙台に呼べるわけもなかった。

本当は今すぐにでも一緒になりたいと願う自分はエゴの塊だ。先の長い人生、自分のエゴ

だけで大切な爽子の人生を潰すわけにはいかない。風早はできることなら自分が北海道に

戻りたいと思っていた。しかしいくら転勤願いを出しても受理してもらえない。そんなジレンマ

の中、風早は仕事の順調さと反比例するように心の隙間は広まっていた。


「風早くん?」


俯いたまま髪をくしゃっとしている風早を爽子は心配そうに眺めていた。


「あっ・・・ごめん。あ!!しょーたでしょっ!」

「あっ!!」


あはは〜〜〜っ


風早は爽子と会えば全てを欲してしまう自分自身を必死で仕舞いこむ。今はこうして一緒に

いられるのだから・・・と。


「あの、今日、どうしたのかな?何か皆に聞いてる?」


爽子は沙穂から”仲間の緊急事態”と聞いて、何かあったのかずっと気にしていた。爽子に

とってもこの仲間達はかけがえのないものになっていた。


「俺も知らないんだよ。ただこの店に来るようにって・・・」

「お店?・・・どうしたのかな?」

「まっ・・・とにかく行ってみよ」

「うんっ」


風早はにっこりと笑うと爽子の手をぎゅっと握って歩き出した。爽子も嬉しそうに握り返す。

お互いの体温を感じながら側にいる幸せを噛みしめた。



* * *



「え・・・・」


パンパンパ〜〜〜ンッ


爽子と風早は店に入ってすぐに、クラッカーが飛んできて目を丸くした。


「婚約おめでとう〜〜〜!!」

「「おめでとう〜〜〜!」」


そこには太陽、昌、沙穂、蓮・・・そして光平の姿があった。


「え?え??」


目をきょときょとっとして状況が把握できていない爽子に風早が言った。


「・・・おかしいと思ったんだよ。最近みんな付き合い悪くてさ」

「ははは〜〜〜見事だませた」


昌はにししと笑った。この店は太陽の酒屋が取引のある店で、店の開けていない昼の時間帯

を貸切にしてくれることになったのだ。


「すごいね・・・貸切?」


風早がぐるっと店を見まわした。雰囲気のあるバーで、カラオケができるので前には小さな

舞台がある造りになっていた。


「爽子ちゃん・・・ほらっこっち。主役だからお誕生席ね!」

「う・・・うん」


驚いた様子で固まっている爽子を昌は引っ張った。爽子は促されて座ると、ぽろぽろと泣き

始めた。


「爽子ちゃん・・・?」

「う・・嬉しくて」


その様子を皆、温かい目で見つめた。そこには同じように穏やかに見守っている光平の姿が

あった。昌はその姿を見て安心したように笑みを浮かべた。


「黒沼さん、おめでとう」

「えっ田口くん・・・あ、ありがとう。知らなかったよ。昨日何も言ってなかったのに・・・」

「そんなの言うわけないじゃん。内緒だったんだから」

「わっ・・・そうだったなんてっ!!」


またふるふると泣きだした爽子に触れようと思った光平は横の男に睨まれていることに気付いた。


「あのさ・・・いつになったら余裕出るんだよ」

「ほっとけ」


(仲良し・・・)


相変わらずズレてる爽子が横できらきらした瞳で見ていたことを二人は知らない。


「風早・・・おめでと」

「あ・・ありがとう。秋山さん」

「悔しいな・・・」

「え?」

「・・・お似合い過ぎて」


風早は照れたように笑った。沙穂は爽子を見ると優しく微笑む。


「ね、悪い事じゃなかったでしょ」

「う、うん・・・本当にありがとう」

「・・・・。こんなこと私が言えたことじゃないけど・・心から嬉しい」

「沙穂さん・・・」


爽子と沙穂はお互い微笑み合う。風早は二人の雰囲気に不思議そうにしながらも嬉しそう

に見ていた。


「ほんとお似合いだよね〜〜。最初爽子ちゃん見た時、近づきにくい人だと思ったけど、今は

 かわいくてしゃーないわ」

「まじで、会えて良かったよな〜」

「あわわっ〜〜〜〜嬉しいです」


昌と太陽の言葉に爽子はまた目を潤ませた。


「ほんとはさ・・・仙台に爽子ちゃんが来てくれたらいいのにっていつも思うよ」

「嬉しいな・・・」


風早は昌の言葉にドキッとすると横の爽子をちらっと窺った。自分の心の中を見透かされて

いるようだった。ずっと言いたくても言えないこと。

蓮はそんな風早の心情を分かっていた。爽子の横で小さなため息をついている風早を見て、

ぷっと笑った。


(・・・っとに翔太だな・・・・)


「何?」

「いや、な〜んも」


横で口角を上げている蓮を風早は不思議そうに眺めた。


「まっいつかは・・・だしね。せいぜいヤキモキするといいかも」

「だから、何って!!」


今度は大笑いをしている蓮に風早はぷぅっと頬を膨らませている。そんな風早を嬉しそう

に見守っている爽子。


二人が幸せそうに微笑む。


そんな姿に蓮はあの夏の風早を思い出し、目を細めた。



わいわい がやがや  あはは〜〜〜っ



会も中盤に差し掛かった頃、沙穂が緊張気味な顔でいきなり立ち上がった。


「沙穂?」


昌が沙穂の異変に気付き、声を掛けると、沙穂は前のカラオケをする小さな舞台になって

いるところまで歩いて行った。そして、大きく息を吸い込むと皆に向かって言った。


「いきなりなんだけど、みんな・・・聞いて」


それぞれが歓談を中断して、驚いたように前に立っている沙穂の方を見た。店の中がシーン

となった。


「今日、どうしても皆の前で言いたいことがあって。祝福ムードの中、申し訳ないんだけど

 聞いてほしいの!!」

「何〜沙穂?いきなりどーしたんだよ」

「・・・・・」


沙穂の緊張した面持ちに重要なことを言おうとしているのが分かる。皆は何も言わずに

沙穂の言動を見守った。


爽子は沙穂の様子を見て、あのことを言おうとしているのだと分かった。ずっと沙穂が

頑張ってきたこと・・・。


(沙穂さん・・・・)


爽子はぎゅっと拳を握りしめると、応援するような目で沙穂を見つめた。


今、真実の扉が開かれようとしていた。



********



先ほどの喧騒から一変して、店の中は静寂が漂った。何か大切なことを言おうとする時、

誰もがちゃかしたりしない。ちゃんと聞こうとする。そんな仲間達だった。沙穂はそんな皆

の姿にさらに決心を固くすると、顔を上げてゆっくりと話し出した。


「まず、爽子ちゃんと風早に・・・・皆の前で謝りたい」

「!」


爽子と風早は驚いた表情で沙穂を見た。


「私・・・・1年前、偶然姉に会った爽子ちゃんに姉の存在を風早に黙っていてと言いました。

 そしてそのことに爽子ちゃんがとても苦しんだこと・・・考えもしなかった」

「・・・・」

「こんな人がいるなんて・・・思ってなかったの。約束をここまでちゃんと守る人が」


沙穂は目を潤ませながら爽子を見た。爽子も瞳を揺らしながら沙穂の話を聞いていた。


「皆の前で謝りたかったの・・・。ちゃんと私を見てくれてる仲間の前で・・私にそのことを教えて

 くれたのは爽子ちゃんだから・・・狡い私を許してください。・・・本当にごめんなさい」


俯いて肩を震わせて泣いている沙穂を爽子はじっと見つめると、沙穂の方に向かって歩き出した。

そして目の前まで行くと、そっと手を握った。


「・・・ありがとう」


沙穂は爽子の手の温もりを感じると、そっと顔を上げた。沙穂は思った。


あの時と同じ・・・天使の笑顔だった。どうしてこんな表情ができるんだろう。それは私が分か

るようになったのか、皆同じように思うのか分からない。だけど、分かってることは一つ。


”どこまでもこの子にはかなわない・・・。”


爽子の笑顔に沙穂も笑顔で返した。


二人の姿を皆、温かい目をして見守った。色々あった1年前。それぞれが好きな人を想いな

がら縺れ合った赤い糸。そして、その糸はきっと未来の誰かに繋がっているのだと、今は思

える。沙穂は穏やかな笑みを浮かべると、今度は真剣な表情を蓮に向けた。


「それと・・・」

「?」

「蓮・・・今日は大切なものを預かってきたの」

「え?」


沙穂はそう言うと、かばんの中に手を入れた。蓮は沙穂の手に握られたものを茫然と見つめる。


「この手紙は・・・美穂から」

「・・・・・!」

「皆も聞いて欲しくて、あえて今日、皆の前で読ませてもらおうと思います。私、いろいろ皆に壁

 を持ってた。自分を分かってくれないと勝手に思って。でも、皆の存在があったから今日こうし

 て私がいるんだとやっと分かった。今まで気を使わせて・・ごめんなさい。」


沙穂は皆を優しい目で見つめると、爽子に視線を向けながら続けた。


「そして、やっと自分を見つめ直したいと思えたの。美穂のことからずっと逃げてた自分を。だから

 皆に聞いてほしい。今回、この手紙を皆の前で読んでほしいって美穂が言ったの。だから聞いて。

 美穂の声を。本当のことを・・・」


美穂のことは触れてはいけないような空気をそれぞれ感じていた。それがどこかでぎこちなさに

繋がっていたのは確かだった。


そこにいる全員が、受け止めるように沙穂を見つめた。

















あとがき↓

ちょっと頑張って更新します〜〜〜!変な文とかなっていたら後で修正しちゃうかもしれません。
明日もUPできると思います。ラス2!頑張るぞ!!

Half moon 99