「Half moon」(71)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

蓮と向き合った翔太は、蓮の言われるまま後について行った。そのころ病室では?

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それではどうぞ↓



























**********


あれから美穂はたびたび発作を起こす姿が見られた。


この日、沙穂は発作が起こった後の美穂を見るようにと病室に一人残された。母親は外せ

ない用があったため沙穂にまかせたのだった。


ザーザー


外の雨はひどくなっていた。


「ふぅ・・・・」


沙穂はスースー眠る美穂を見ながらベッドに顔を伏せて大きくため息をついた。そして顔

を起こすと、寝顔の美穂をまじまじと見た。


「・・・ほんとにこの人きれいだよね。何の悩みもないからかもね」


こんな天候だからだろうか?沙穂は胸の中の想いを吐き出すようにつぶやき始めた。

今まで思っていても口にしたことはない。というか、眠っている美穂と二人になったこと

は初めてなのかもしれない。


「小さい頃からずっとそうだった・・・きれいで勉強もできて、この人ばかり目立っていた。

 そして、大事なものは全部私から奪っていった・・・」


沙穂の美穂を見る目が段々と鋭くなっていく。


「初めて好きになった人・・・・蓮だって・・・結局・・・」


そして沙穂の目には涙が浮かんでいた。感情がどんどん高まってくる。


「だから・・・美穂が事故った時・・・・そんなに悲しくなかった」


母や祖母が悲しみに暮れる中、心のどこかで嬉しかった。これで家族はやっと自分のこと

を見てくれるんだって。姉はもう以前の姉ではなくなったのだから。でも違った。みんな病気

の美穂に夢中になった。家庭内は美穂中心に回っていった。”どうして?私もいるじゃん・・・”

ってずっと心の中で叫んでいた。結局、何も変わらない。

ずっと美穂が中心に回っていく世界。母は半狂乱のように以前より増して姉のことだけ。

美穂さえいればいいんじゃないかって。必要とされていない人間・・・。


だからこそ、あの仲間達には自分だけを見て欲しかった。これ以上、美穂が中心の世界は

うんざりだった。そんな中、出会った風早。風早は私しか知らない。私だけを見てくれる。

比べたりしない。それがどれだけ幸せなことだったか・・・・。なのに・・・。


「結局・・・病気になってもきっと死んでも・・・美穂は私より幸せになれる・・・うぅ・・」


沙穂は再び伏せってしゃくり始めた。

美穂にもいい顔して生きてきた。それは、醜い自分と向き合いたくなかったから。

これ以上、みじめになりたくなかったから。


病室にはベッドに伏せて泣いている沙穂と横を向いて目を開いている美穂の姿があった。



* * * *



「・・蓮?ここは?」


風早はあれから病院に連れてこられ、びっくりしたように面会入り口の前で立ち止まった。


「・・・・俺の彼女がいる」

「え・・・?」


すると蓮は風早を真っ直ぐ見て頭を下げた。


「・・・ごめん。今まで何も言えなくて」

「・・・・」


そしてゆっくりと顔を上げると、風早に向かい合った。


「もう・・・逃げない。これからは俺の話を聞いてくれるか?」

「・・・・」


風早は真剣な目で蓮を見ると、静かに頷いた。


カツン カツン カツン


夜の病院は静まり返っていて、寒々しい雰囲気を感じる。暗い光の中、風早は蓮の後に

ついて行った。そしてある病室の前に立つと、蓮は風早を部屋に促した。


風早がそーっとドアを開けると、フランス人形のようなきれいな女性が眠っていた。風早

はその姿に思わず息を飲んだ。


「蓮・・・この人?」

「うん、美穂っていうんだ」

「・・・そうなんだ」

「沙穂のお姉さん」

「!」


風早は驚いたように目を見開いた。


「談話室が向こうにあるから行こうか」

「・・・うん」


風早はなんともいえない複雑な感情で蓮の背中を見ていた。

ずっと心のどこかで蓮に罪悪感を持っていた。爽子が帰る前の日、必死で俺と彼女を繋ぎ

とめようとしてくれていた蓮。でも向き合えなかった俺。それから蓮を見るたびに思った。

”間違ってる”と言われるんじゃないかって。その時俺は何か言えるだろうかって。俺は

そんなに強い人間じゃない。蓮が考えるほど真っ直ぐでもない。

ただ、彼女が好きで、ただ・・・・失いたくなかっただけ・・・。


風早は言葉にできない想いを心の中で呟いた。


蓮は風早を椅子に促すと、前の自販機でコーヒーを買った。


「ほい」

「ん、さんきゅ」


そして、俯いたまま、風早の隣にどかっと座った。その姿はどこか緊張しているように

見えた。冷静に見えるが、普段の蓮とは違う姿。


「・・・翔太にずっと謝らなければいけないこと・・・あるんだ」

「・・・何?」


蓮は缶コーヒーを握りしめると、頭を缶につけ、ゆっくりと話し始めた。事故のこと、

美穂のこと、美穂の家族のこと。そして、爽子を巻き込んだこと・・・。一つ一つ丁寧

に話す蓮の声には重みを感じる。軽い内容ではなかった。

そして簡単に受け止められる内容でもなかった。


蓮は話し終えると、風早から一瞬視線をそらし、宙を見上げて大きく息を吸った。


「蓮・・・謝らないで。」

「え・・・」

「俺・・・多分、あの時にその事実を知っていても受け入れられなかった。もっとぼろぼろ

 になってたと思う。どろどろした自分の感情に拍車をかけるだけだった・・・」

「・・・翔太」


風早は思った。爽子の性格を。今から考えたらあまりにも爽子らしい行動に。そしてその

ことにどれだけ苦しんだかを。人に対して誠実な爽子はどうしても裏切れなかったのだと

思う。それは俺を裏切る行為だと思ったかもしれない。でも俺を信じていたからこそ・・・・

二人の絆を信じていたからこそ・・・・。


蓮は風早をしばらく見ていた。そして、ぎゅっと拳を握り締めた。


「謝らないといけないのはそれを・・・ずっと言えなかった俺だ」


悔やんでいる蓮の目からは涙が滲んでいるように見えた。初めて見た蓮の姿に風早は胸が

熱くなった。


「蓮が言えなかったのは、俺が向き合えなかったからだよな。ずっと・・・その事を

 言ってくれようとしていたんだな・・・」


風早が悔やむように言うと、蓮が静かに首を横に振った。


「蓮?」

「・・・・・」


風早は返事のない蓮を見上げた。そして、蓮も濁りのない風早の目を見つめた。

二人の間には長い沈黙が走る。


「違う・・・。ずっと向き合えなかったのは俺だ」


”真っ直ぐ見られると軽蔑されているようで・・・”


それを思ったのはまさしく俺だった。ずっと翔太の目が怖かったんだ。


風早は悲しみに染まった蓮の目に憂いを感じた。


「翔太が苦しんでいるのが分かっているのに・・・踏み出せなかったのは俺だ」

「・・・・・」

「俺は・・・・「―蓮!」」


風早は蓮が何がを言い出す前にその言葉を遮った。あまりにも蓮がつらそうだったからだ。


「もう、いいよ。もう十分だから」

「・・・翔太」

「蓮は十分苦しんだよ。ありがとう・・・真剣に俺たちのことを考えてくれて。俺、本当

 に蓮に会えて良かったと思う」

「・・・・・」


蓮は風早の輝いた笑顔を眩しそうに見つめた。そしてすぐに表情を曇らせた。


「俺は、翔太みたいには人を愛せない・・・。」

「・・・蓮?」

「俺・・・そんな純粋でいられなかった。・・・ずっと彼女から逃げてた」

「・・・・・」


そして蓮は病室のある方向をせつない目で見つめた。


「でも、もう逃げるわけにはいかない。戦う。これ以上・・・彼女を苦しめる

 わけにはいかないんだ」

「蓮・・・?」

「・・・・・彼女、もう治ってるんだ」

「!!」

「後は、彼女自身の問題。乗り越えないといけない大きな問題があってさ・・・」

「・・・問題?」


蓮はそこまで言うと風早に優しく微笑んで言った。


「俺、頑張るからさ・・・翔太に出会えてそう思ったんだよ。こちらこそ出会えて良かった
 って心から思う。ありがとう・・・」


風早はそんな蓮に恥ずかしそうに視線を落とした。


「・・・俺、蓮が思うほど純粋でも真っ直ぐでもないよ。少しのことで嫉妬して、彼女の

 全てを奪いたくなるような小さい男なんだよ」


すると蓮はぽかんっという表情をした後、腹を抱えて笑い出した。


「あははっ〜〜〜」

「え??何?」


ひたすら笑い終えた蓮は、涙を拭って風早を下から伺うように見て言った。


「・・・それだけ彼女が好きだってことだろ?ただそれだけじゃん。それが純粋じゃなくて

 なんなんだよ」

「それに翔太は絶対彼女の全てを奪わない」

「・・・・・・」

「彼女が別れを切り出したワケは分かんねーけど・・・きっと理由があると思う」

「・・・うん」


蓮はなんとなく分かっていた。彼女が風早を嫌いになるはずがなかった。そうなると理由

は一つだけだ。”自分が迷惑だ”という想い。でも後は風早自身が何とかするしかないのだ。


風早は蓮の温かい目を感じると胸の奥が熱くなっていくのが分かった。


「間違いのない人間なんていないよ。間違ったら・・・やり直せばいいじゃん」

「・・・うん」


蓮は自分に言い聞かせるように言った。風早の純粋な笑顔を見ながら・・・・。


「―風早・・・?」


その時背後からした声に、二人は一斉に振り向いた。
















あとがき↓

久々の更新です。ありきたりな展開ですが( ̄Д ̄)次回はこの続きになります。なか
なか更新できずにすみません。リアルに忙しかったりします。
さてさて、いよいよアニメはあの場面じゃないですか!!キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
私の今の楽しみです。どうか絵が好きな回でありますように!ここだけはお願いしたい
もんです。何で同じじゃないんだろう。アニメの絵。そして、DVD買いました。椎名先生
のポストカード最高でした。別マに載っていたものと違ってました。皆違うのかな?また
写真載せますね。買った皆さん、一緒かどうか教えてくださいね。描き下ろし、きれか
ったですね〜それではまた!!

Half moon 72