「Half moon」(53)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。
風早を必死で捜し当てた沙穂は?また、一人、風早のアパートで待つ爽子は?
こちらはHalf moon         10 11 12 13 14 15 16 17  18  19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39 40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 の続きです。
それではどうぞ↓


















***********



時を同じくして、風早もバーの窓から月を見ていた。雨上がりの空と思えないほど月が

きれいに浮かんでいた。


「・・・風早!」

「秋・・山さん?」


名前を呼ばれて振り返ると、そこには沙穂が立っていた。風早は驚いたように沙穂を見た。

沙穂はにっこり笑って、風早の隣に座った。

バーの店長はその二人をちらっと見ながら仕事を続けた。


「どうしたの?」


風早の表情は今まで見た風早ではなく、まるで病人のようだった。


「・・・ん、なんか昼間の風早が気になってね」


沙穂がそう言うと、風早は視線をグラスに移し、何も考えたくないという風にぐいっと飲んだ。


「嫌な事あったなら、飲むのが一番だよね。いっぱい飲んじゃえ」


沙穂が無邪気に言うと、沙穂も注文したカクテルが来て、かんぱ〜いと勝手にグラスを合わせた。


沙穂は横目でちらっと風早の様子を伺う。

そこにいる風早は風早だが風早ではない。いつものように気軽に話すこともままならない。

しかし・・・・怖いというよりは守ってあげたくなった。この状況につけこむのは狡いと分かっている。

でも、この人は今こんなに弱っている。ただ・・・助けてあげたい。


「お客さん・・・飲みすぎですよ」


ぐったりする風早に店長は酒を取り上げた。


「あっ・・・大丈夫です。私がついているので。」


そう言って、沙穂は店長から酒を返してもらった。店長は沙穂を訝しげに見ながら、それ以上

止めるわけにもいかずに、渋々他の客のところに行った。

沙穂はうつ伏せている風早の頭をそっとなでた。柔らかい髪質の感覚にどきどきする。


「風早・・・どうしよっか?帰る?」


殆ど意識が飛んでいるはずの風早が”帰る”という言葉に反応して顔を上げた。


「いや・・・今夜は帰らない・・・」


そしてまたぐったりとうつ伏せた。そしてそのまま目を閉じた。

沙穂はにやっと口角を上げて、ぐでんぐでんになった風早をタクシーに乗せた。

タクシーの向かう先は・・・・・。



***********



ピチピチピチ


「・・・ん・・・」


窓から明るい日差しが差し込んできて、爽子は目を覚ました。

机にうつ伏せて寝ていたことに気付いた。そして、さっと起きて周りをくるりと見渡した。

何も状況が変わっていないことを悟ってがくっと肩を落とした。


目の前には沢山の料理がラップをかけたまま置かれている。爽子は目線を下に落とし、再び

こみ上げてくる涙を堪えた。その時、爽子の携帯音が鳴った。


PiPiPi〜♪


表示は光平からだった。それを見て、慌てて携帯を取った爽子の瞳はまた暗く沈んだ。

昨日から何回電話やメールをしても風早の返事はなかった。目をごしごしと擦って携帯の

ボタンを押した。


ピッ


「・・・はい」

『あ・・黒沼さん?』

「うん・・・」

『・・・あれから大丈夫だった?いやっ慌てて帰ったからさ』

「う、うん・・・大丈夫!ありがとう」

『・・・ならいいんだけどさ。困ったことあったら何でも言って』

「うん・・うん、ありがとう」


ピッ


電話を切った爽子は少し微笑んだ。蓮や光平の気持ちに嬉しくなった。

相変わらず光平の”優しさ”に下心があることに気づけずに・・・・。



*********



『・・え?まだ帰ってない?』


蓮は気になって、風早宅に電話を入れると爽子が出た。時刻は昼を過ぎていた。

最悪、朝には帰って来ると思っていた蓮は愕然とした。

爽子がどんな気持ちで長い夜を過ごしたのかと思うと、たまらない気持ちになった。


『・・・あいつ、どこ行ったんだ』


珍しく怒りを露にしている蓮に爽子は感謝の気持ちを感じた。


「・・・ありがとう。本当にありがとう。蓮さんも田口くんも・・・」

『え・・・光平?』

「うん、心配して電話をくれて・・・」

『え・・・何か言った??』

「え?・・・何か?別に何も・・・」

『そっか・・・ならいいんだけど』


電話口の蓮の様子を変に思いながらも、爽子は考えていたことを口にした。


「あの・・・明日帰らないといけないので、美穂さんに・・・会いに行っていいですか?」


爽子はあれからずっと美穂のことが心に引っかかっていた。携帯を取り上げてまで、自分と

遊びたがった美穂にこのまま何も言わずに去っていいのだろうか?もうこれきりでいいのか。

でも、自分が会うことでまた彼女を傷つけてしまうかもしれない。


『・・・あんたが会いたいなら・・・』


爽子は蓮のストレートな言葉に顔を輝かせた。


「はい・・・」

『あいつ喜ぶと思う。俺も行くから』

「は、はい!!」


爽子は受話器を置いて、嬉しそうに微笑んだ。そして、また玄関に視線を移した。

風早が帰ってくる気配はなかった。


”連絡を待ってます”と一言メモを残して部屋を後にした。











あとがき↓

ひつこくまだ和解しないままが続きます。はい、ごめんなさいと言う感じで(笑)
明日は別マ感想ですね!!あ〜〜〜〜楽しみ!!アニメ二期も楽しみですねぇ。
それでは暗い内容でよければまた続きを見に来てください。

Half moon 54