「Half moon」(51)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

蓮はあれから嫌な予感がして、風早を探しに動く。爽子と蓮の回です。
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それではどうぞ↓

















**********


プープープーッ


「−何で出ないんだ?翔太」


さっきから何回掛けても電話に出ない風早に蓮は焦れていた。何か嫌な予感がした。

心配になった蓮は風早のアパートに向かった。


ピ〜ンポンッ


呼び鈴を鳴らしてすぐに、部屋から物音が聞こえた。


かちゃっ バンッ

「−風早くんっ!?」


勢いよく開けられたドアからは目を真っ赤に腫らした爽子が出てきた。

蓮は驚いたように爽子を見た。


「はぁ、はぁ・・・・どうした?翔太は?」

「あ・・・・・蓮さん」


しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん


二人は、黙ったままその場で佇んだ。



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ザーッザーッ


外の雨は一層強くなっている。


蓮は爽子に渡されたタオルで身体を拭きながら、机の前に静かに座った。

不思議な風景だ。いつも遊びに来る部屋とはまるで違う。蓮はぐるっと部屋を見渡した。

彼女がいるだけでこんなに違うものかと・・・。


「・・・・そっか」


蓮は、爽子に事の経過を聞き、大きくため息をついた。


「・・・ごめんな」

「い、いえ・・・・私が悪いんです」


爽子はそっと蓮にお茶を出して、小さな声で呟いた。


「いや、あんたは何も悪くないだろ。全くの誤解だしな」

「・・・・・・・」


暫くの沈黙の後、蓮が決心したように顔を上げた。


「俺、全部話すよ」


その言葉にはっとしたように爽子は蓮を見た。しかし、しばらくして俯いたまま

ぷるぷると顔を横に振った。


「・・・・でも、そうも言ってられないよ」


爽子は一生懸命自分達のことを考えてくれている蓮に少し微笑んで言った。


「・・・話さなかったのは私なので・・・。それより、あの、ごめんなさい」

「え・・・?」


爽子の言葉に蓮は不思議そうな顔をして聞き返した。爽子は、重い表情で少し躊躇した後、

思っていることを口にした。


「あの・・・美穂さんのこと関係のない人間が知ってしまって・・・。それと今日も、私が

 ちゃんと見てなかったばかりに、大騒ぎになってしまって皆さんに迷惑を・・・」

「・・・・・」


蓮は爽子をまじまじと見つめた。本気で彼女は申し訳なく思っているらしい。これが原因で

風早とややこしいことになっているというのに、この子は・・・・。

思わず、ぷっと吹き出す。


「あ・・あの?」


爽子は不思議そうに蓮を見上げる。


「いや、ごめん。アンタが謝ることじゃないだろ」


なぜか笑っている蓮を見ながら、爽子は感心したように言った。


「すごいね・・・蓮さんって。」

「へ?」

「いや〜あの、私なら蓮さんみたいに強くなれるかなって・・・」

「・・・・」


すると、蓮の顔から笑みが消えて、険しい表情になった。そして、遠い目をして言った。


「・・・全然、すごくないよ」

「!」


爽子は蓮から漂う悲哀のようなものを感覚で感じた。それは今まで見たことない蓮の姿だった。


「俺・・・ずっと美穂から逃げてたんだ」

「・・・・・」


無口な蓮がぽつり、ぽつりと話し出した本音に、爽子は真剣に耳を傾けた。


蓮は事故の後、美穂に毎日会いに行った。その度に沙穂の母からは罵倒され、病室に

いることも許されなかった。でも子どもの記憶に戻ったはずなのに、美穂が蓮を覚えてい

て、蓮の名前を毎日呼んでいる姿に母は観念したように蓮を呼びつけた。しかし、子ども

の美穂を見る度に蓮はつらくなっていった。それからは病院に行こうとすると足が竦んだ。


「・・・自分にできることなんて、会いに行くことしかないのに」


蓮はそう言って、表情を見られないように俯いた。爽子はあの時、病室で蓮の男泣きを

見てしまった。どんなにつらかったのだろう、どれだけ重くて深い気持ちで会いに行った

のだろう・・・。爽子は想像すればするほど、どうすればよいか分からなくなるほど、悲しい

気持ちでいっぱいになった。


「うっ・・・ううぅ」

「え?」


話している時、泣いている爽子に気づき、蓮は目を丸くした。


「あっすびばせん〜〜〜!・・・お気になさらず!!」

「いやってか・・何で泣いてんの?」


泣いたことを謝る爽子を呆然と見ていた蓮が不思議そうに言った。


「いやっ、ほんとすみませんっ!!なんか・・・あの・・・蓮さんつらかっただろうなって

 思って・・・。秋山さんのお母さんやその他沢山の人に言われるたびに・・・うっ」

「・・・・・・」

「・・・それに好きだから・・・つらいです。好きなのに・・・」


爽子はまた風早を思い出した。好きな人が側にいる幸せ。そして、好きな人が幸せである

ことの幸せ。自分がどれだけ風早に幸せをもらっていたかを改めて思い浮かべた。


蓮はそんな爽子をじっと見つめた後、ぼそっと独り言のように言った。


「・・・・好き・・・か」

「え?」

「いや・・・つーか、アンタの方が今は大変だからさ」

「あっそうでしたっ」


二人はお互い目が合って、苦笑いをした。爽子は蓮が今も自分を責め続けていることに胸が

痛んだ。一人で抱えて苦しんでいる。


「ごめんな・・・今日、折角美穂に会いに行ってくれたのにな」

「こ、こちらこそ、すみません・・・」


爽子が静かに首を振ると、蓮は美穂の気持ちを代弁するように言った。


「あいつ・・・子どもに戻ってるから、単純にアンタに側にいて欲しかったみたいだ。

 だからあんな悪戯を・・・・。まだ携帯見つかってないんだよな?」

「あ・・・ううん、見つかったの!!秋山さんが街で拾ってくれたって・・・」

「え・・・沙穂が?」


考え込んでいる蓮を横目に、爽子は腫らした目で一点を見つめながら呟いた。


「私、風早くんを・・・信じています。例え、今すぐ誤解が解けなくても」

「・・・・・」


蓮は爽子の真っ直ぐな瞳を見つめた。爽子の瞳の奥には風早がいる。それは揺らぐことない

一筋の光のようだった。

しばらく、爽子を見ていた蓮は、ふっと笑みを零して言った。


「うん・・・・分かった。俺ができること・・・あったら何でもする」

「は、はい!!」


爽子はじぃ〜〜〜〜〜んっとした面持ちで両手を合わせて嬉しそうに返事した。



* * * *



雨が上がっていた。翔太の心の雨は止んだのだろうか?


蓮は爽子と別れて、帰り道をゆっくりと歩き出した。

何だかもどかしくなった。爽子の純粋さがたまらなくなった。そして風早もまた純粋すぎる

のだと。こんなに誰かのために動きたいと思ったのは初めてだった。そして、こんなに自分

のことを話したのも初めてだった。


「ーんっとにアホだな。翔太。あんなに想われてんのに・・・」


翔太を見てると時々心配になった。あれだけ人を好きになり、すべてを捧げるあいつに。

でも、ずっと羨ましかった。あんな風に人を愛せたら・・・・て。


この夜は見事な満月だった。月を見ながらふっと蓮は苦笑した。


「・・・・あいつの心は完全に半分のままだけどな」


蓮は不思議だった。心の中でいつも感じている飢餓感が消えていることに気付いた。










あとがき↓

蓮と爽子はある意味似てるところがあり、多くは語らなくても分かりあえるというところがある
という設定で書いています。後、爽子ちゃんは基本前向きなので、絶対風早の方が弱いだろう
なぁ〜なんて思います。本誌でも風早くんはこの先大丈夫だろうか??なんて心配になるのは
私だけ??それではまだまだ暗いです。すみません!暗くてよければまた遊びに来てください。

Half moon 52