「Half moon」(37)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

風早に仕事が入った日、仙台支社に光平を訪ねて行った爽子は・・・?
こちらはHalf moon         10 11 12 13 14 15 16 17  18  19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 の続きです。
それではどうぞ↓
















次の日、仙台支社にて―――

爽子の帰省まで後、4日となっていた。


「黒沼さんだったね、ありがとう。わざわざ挨拶に来てくれて。それと差し入れ」

「いえ、よろしくお願いします」


爽子は緊張の面持ちで、光平のいる仙台支社を訪れた。爽子はいつも電話で話している

社員と上司に挨拶した後、光平を探した。北海道の光平の上司に”様子を見て来てくれ”

と言われていた。光平の上司は見た目には怖いが、いつも部下のことを考えている優し

い人だ。さりげない言動で爽子はそう感じていた。


「田口くん、頑張ってるよ。ほらっあそこ。」


上司が光平の机の方を指さした。


「あ・・・・」


爽子はペコっと頭を下げた。今まで爽子を見ていた光平はいきなりの視線にびくっとした

表情をした。光平はこの日、仕事どころじゃなかった。実際、今も何も手に付いていない。

爽子と目が合った光平は、照れた表情で軽く会釈した。



「田口くん、熱心にやってくれてるよ。ずっと居てもらいたいなぁ〜〜〜あははは」


爽子は上司の言葉に大きく目を見開いた。


「だ、だめです!!北海道本社もこ・・・困りますから。田口さんがいないと」


拳を握りしめて必死で訴えるように言う爽子に上司も、また向こうの机にいる光平も

動作がぴたっと止まった。


「がはは〜〜〜そうか!そっちも必要か!だってよ田口。良かったな!」

「・・・・・」


ほら・・・・また、こうやって彼女は天然で期待を持たせ、傷つけてくれる・・・。


「あっそうか、もしかして・・・・田口!」


上司はそう言ったかと思うと手で口を塞ぎ、閃いたかのように爽子と光平を交互に見た。


「黒沼さん・・・北海道の彼女か!?」

「「え!!」」

「いや〜〜〜悪かったなぁ。彼女いたんだ。遠距離にさせちゃった?いや〜〜仙台まで会いに

 来てもらって良かったじゃないか。社内恋愛黙っててやるぞっ!がははは〜〜〜〜っ」

「−ちょっと、部長!!ちがっ・・/////」

「二人とも真っ赤になっちゃって!!いや〜〜〜かわいいね彼女。田口、今日は早目に昼を

 取っていいぞ。折角会えたんだしな、ゆっくりな。皆いいよな〜?」


部署の人達もにやにやとして頷いた。爽子は、また北海道とは違う楽しそうな雰囲気を感じた。

すっかり光平はこの部署で受け入れられているんだと思った。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


光平は爽子の顔をちらっと見て、恥ずかしそうに言った。


「ご、ごめん。あの人、何かと早とちりでさ・・・」

「う、ううん。こちらこそ、ごめんなさい。変な誤解をさせちゃって・・・」


恥ずかしそうに頭を下げる彼女。その顔も本当は知っている。俺のことを意識している

んじゃないんだって。ただ、恥ずかしいんだって。でも・・・・分かってるのにやっぱり

期待とかしてしまう。だって、こんなに会いたかったのだから。


「−今日、風早は?」

「あ・・・仕事なの」


光平は爽子の言葉を聞いて、胸の高鳴りを覚えた。


「じゃ・・・お昼、いける?」

「いいの?」

「うん、上司もああ言ってくれてることだし・・おいしい店近くにあるんだ」

「うん!友香ちゃんから預かってるものとかあって・・・・良かった」

「そうなんだ。それじゃ、後1時間後ぐらいになるけど・・・大丈夫?」

「うん!」


そう言って、彼女は控えめに笑った。目を輝かせている。


やっぱ・・・期待してしまう。


光平は爽子の表情をしばらく見つめた後、嬉しそうに仕事に戻った。


彼女と一緒にいられる。光平は高鳴る胸の鼓動を感じながら、仕事をどんどんと片づけ

て行った。仕事にもだぜん、やる気が湧いてくる。その様子を他の同僚達に笑われてい

たのを気付きもせずに・・・・。


風早の彼女・・・。でも、もうこの気持ちは偽れない。たとえ、風早に気付かれていたとしても。



***************



爽子は光平との待ち合わせの時間まで、仙台ならではのお店や、雑貨などの店を回ることにした。

しばらく歩いていると、小さな雑貨屋に目が止まって入ることにした。そして、爽子はそこに並んで

いた食器の前で目を輝かせた。


「・・・・かわいい」


そこにはお揃いで色違いの茶碗があった。

爽子がその茶碗を額にしわを寄せてガン見していると、店員が寄ってきた。


「旦那様にですか?」

「えっ!?えぇぇぇぇえ〜〜〜!//////」


”旦那様”という言葉に異様に反応した爽子は店員の言葉に思いっきり体制を崩した。思わず

呆気にとられる店員。


爽子は火照る頬を両手で包みこんで、今朝の出来事を思い出した。



* * * *


”『行ってきます』

 『い・・行ってらっしゃい』


風早は爽やかに挨拶して出て行った。しかし、閉まったドアがすぐ開いた。


 『あっ・・忘れ物!』

 『え?』


ちゅっ


 『////////』

 『////////』


風早は思いっきり照れた顔を見られないようにさっとドアの方を向いて、再び”行ってきます!”

と出て行った。爽子は唇を手で押さえて、しばらくドアの前に佇んだ。


* * * *


「うわぁ〜〜〜〜〜っ////////」

「お、お客様!?」


爽子は店の中で真っ赤になってしゃがみこんだ。


(やだっ私ったらいやらしい・・・・//////)


はっ!!


「あわわっ〜〜〜す、すみません!!」


すっかりトリップしていたことに気付いて、爽子は思い切り頭を下げた。そして悩んだ挙句

その茶碗を購入し、愛しそうに抱きしめてその店を後にした。


(うれしい・・・・)


新婚もどきとは言え、まるで夫婦のような生活に爽子は幸せを噛みしめていた。そして風早

同様、それが終わる時を考えると暗くなるのだった。

また、辛い別れがやってくるのだ。この想いに慣れるときがやってくるのだろうか。

爽子はそんなことを考えながら街を歩いていた。その時――


ドンッ


「―きゃ!!」


爽子は人にぶつかり大きく体制を崩した。


「す、すみません!!ボーッとしていて」


必死で頭を下げた爽子は相手が反応を示さないので、そっと顔を上げると、ぶつかった女の人が

こちらを見て不思議そうな顔をしていた。その人は栗色のふんわりした長い髪を風に揺らして、

華奢な身体にネグリジェのような服を着ていた。


街の中でネグリジェを来ている女性に、街ゆく人は変な目を注いだ。しかし、爽子は両手を胸の

前で組み、羨望の眼差しで見ていた。


(うわぁ〜〜〜/////フランス人形みたい・・・きれいな人・・・・!)


「あ、あの、大丈夫ですか??」

「・・・・・・」


爽子の問いに、彼女は何も答えず、やはり不思議そうにこちらを見ている。


(ま、まさか今のショックで変なところを打っちゃったとか!?)


爽子の思考があさっての方向へ行きかけた時、その女性はふわっと爽子に抱きついてきた。

そして、少女のように笑った。


「えっ!??あの・・・/////」


(あわわわわ〜〜〜ドッキリフレンドリー!)


爽子に抱きついた女性は、ふふっと嬉しそうに笑って、そのまま爽子の手を取って歩き出した。


「こっち・・」

「えっ??」


その女性は初めて言葉を発したかと思うと、どんどん爽子を引っ張って行った。

目が点になりながらも、その女性に引っ張られて歩く爽子もさすがに周りの視線を感じた。


(何か、見られてる〜〜〜!?)


パジャマ姿の女性に異様な目が向けられているのだが、そこはさすがに爽子なので、自分の

身の回りを色々確認し始めた。”まさか怖いとか・・・!?”と訳分からない方向に思考が

走っていると、その女性の爽子を掴んでいた手がするっと力を失ってだらんと地面に着いた。


(えっ!?え?)


そして、地面に倒れてしまった。女性は目を閉じて、そのまま意識を失った。










あとがき↓

新しいキャラ登場。ちょっとここから話が進むので、少し暗いかも〜!でも書いていてなぜ
か楽しい。しかし・・・・本誌、やられてます。頭が幸せモード。「君に届く」ことが一番伝えた
いことだと思うので、それぞれのキャラが「君に届け!」なんでしょうね。いや〜気持ちを届
けるって難しい。でも誠実に生きていたら分かってくれる人が必ずいるもんですから。
それではまた遊びに来て下さい。

Half moon 38