「Half moon」(38)
社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。
仙台支社を訪れた爽子は光平とランチの約束をした。その時間まで待つ間、謎の女性と会い・・・?
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それではどうぞ↓
カチカチカチ
あれからどのぐらいの時間が経ったのだろう。爽子は壁の時計を見た。静寂した病院の中は、
時計の秒針の音だけがやけに大きく聞こえる。時計はもうすぐ光平と約束した時間を指していた。
爽子は街でいきなり会った女性に腕を掴まれたかと思うと、その女性はすぐに気を失って倒れてし
まった。幸い、爽子達がいた場所は病院の前だった。爽子はとりあえず光平に事の次第をメール
だけ入れて、その女性に付き添った。しかし、その女性は誰なのか全く分からない。女性は着の
身着のまま飛び出した様子だった。
「・・・そうですか。困りましたね。とりあえず警察に連絡を入れますから、もう少しお時間
頂けますか?」
「あ・・・はい」
看護師はそう言うと、爽子を待合室で待たせてバタバタと部屋を出て行った。女性はまだ検査室
にいる。爽子は居合わせただけなのだが、何の情報もない女性を放っておくこともできず、病室
の前で待機するしかなかった。
その時、爽子の携帯が振動した。慌てて、カバンから取り出して携帯の表示を見ると光平から
の電話だった。昼休みに入ったのだろう。爽子は急いで病院の外に出て、携帯に出た。
* * * * *
先ほどの電話で爽子のトラブルを知った光平は急いで病院に駆け込んだ。会社と病院は目と
鼻の先にある。
バタバタバタッ――
「――大丈夫!?黒沼さん」
仕事が終わってすぐに走って来たであろう光平は、かなり息が上がっていた。
「ご、ごめんね。田口くん。なんかわざわざ来てもらっちゃって・・・・」
「そんなこといいよ。昼休みなんだし。それで、黒沼さんは大丈夫なの?」
「私は全然、でも女の人が倒れてしまって・・・・」
爽子は心配そうに検査室を眺めた。そんな爽子を見つめた後、検査室を光平も眺めると、爽子の
目が大きく開いて、「あ・・・!」と声を上げた。
二人の目線の先の戸がガラッと開いて、中から移動ベッドに横たわる女性が出てくるのが見えた。
爽子はすくっと立ちあ上がり、そこに小走りに走って行った。
「あ・・あの、大丈夫ですか?」
「ああ・・・助けてくれた方ね。まだ精密検査してみないと分からないけど、今のところは
大丈夫ですよ。もうすぐ目も覚ますと思います」
看護師にそう言われて、爽子はほっとした。
爽子の後ろから、光平はその女性を見て、動作が止まった。そして、近くまでやってきた。爽子は
光平の様子をただ呆然と目で追った。
「・・・・美穂さん・・・!?」
「「え!?」」
医師、看護師、爽子は光平を驚いたように見た。
*************
病室の中で、光平、爽子は眠っている”美穂さん”と呼ばれた女性のベッドの横に座った。
光平はその女性を見つめながら静かに話し出した。
「・・・この人、沙穂のお姉さんなんだ」
「!」
爽子は大きく目を見開いた。何も言葉を発せず、身動き一つせず光平の言葉に耳を傾けた。
「1年前、車の事故に遭って、それから病院に入ってたけど・・・・」
光平はそれから言葉に詰まった後、言いにくそうな顔をして爽子を見た。
「実は、その後、美穂さんの様体もよく分からなくて・・・・ただ脳に損傷を受けて
眠っているとしか・・・・ちょっと俺も今パニくってて・・・」
光平はこの偶然を必死で飲みこもうとしながら話していた。
「・・・・・」
「・・・それで、事故なんだけど・・車を運転してたのが・・・」
光平が言い淀んで爽子を見たその時だった、廊下の方からバタバタと走る足音が近づ
いていた。そして、ガラッと病室が開いた。
「美穂!!」
いきなり大きな音でドアを開けられ、二人は反射的にドアの方を見た。
「あ・・・・・・」
「え・・・・・?」
ドアを開けた男は、ベッドから横に座っている爽子の方へ視線を移した。
「れ、蓮さん!?」
「蓮・・・・・」
光平が一番に連絡したのは蓮だった。その後、沙穂に連絡を入れた。
爽子はその緊迫した様子を真剣な表情で見守っていた。
蓮は病室に入って爽子を見て、驚いたような表情をした後、再びベッドに目線を戻し、
駆け寄った。
*********
蓮は、美穂と呼ばれた女性をを見つめて、優しく髪をなでている。そして、ひと言”良かった・・・”
と口から漏らした。
「実は・・・今日、久々に彼女の病室を訪ねた。まさかこんなことになるなんて・・・」
蓮は苦笑いをして言った。そして光平を見た。
「――悪かったな。光平。」
「・・・・それは今日のこと?」
「いや・・・全部含め」
光平は無言のまま、蓮から目を逸らさずじっと見ていた。すると、蓮は光平から視線を外し、
爽子と光平に頭を下げた。
「・・・今日はすまなかった。助かった」
「・・・植物状態になってたんじゃなかったんだ・・・」
「・・・・・・」
光平が言った言葉に、爽子はただならない雰囲気を感じた。そして、自分がこの場にいては
いけないのではないかと察し、その場を去ろうとしたその時、再び廊下の方から大きな足音
が近づいてくるのが聞こえた。
ガチャッ
「「――美穂!!」」
また突然ドアが開き、人が入ってきた。再びその人物に爽子は目を見開いた。
そして、その人物も爽子を見て驚いたような表情をした。
「え・・・・?なんで!?」
そこに立っていたのは沙穂と沙穂の母だった。
これを運命と呼ぶのだろうか?爽子はたった10日間の短い仙台滞在の中で、こんな場面に
遭遇するとは夢にも思わなかった。
しかし、この出来事がこれからの爽子と風早の運命を大きく翻弄していくことになる。
あとがき↓
・・・・つづく!という感じで(笑)ベタな展開ですみません(汗)この話、絶対50話は
余裕で超えそうで・・・・。大した内容じゃないのにね。なのでやっぱりたまには他のもの
も書きたくなったりするんですね。でも当分はこの話UPします。ちょっと暗くなっていき
ますが、よければまた続きを見に来てください!