風早家シリーズ「透太の恋」


風早弟くんの話第三弾です。いつまでするんだ!っと突っ込まれそうですが
好きなんです。私の中の透太くんが出来上がっていて・・・。結婚シリーズ
とも言えますが。

今回は切ない話。透太くん大きくなりました。爽子と透太のちょっとした話です。
爽子と透太の心の声が入り混じり、分かりにくいかもしれません(汗)
よければ以下からどうぞ↓













「よいしょっ」


爽子は大きなごみ袋を何個も抱えて、マンションのごみ置き場に向かった。

いつもごみ出しは夫、翔太の役目なのだが、出張のため家を留守にしていた

ため、爽子が当然のように出していた。


出張に行く前、それをものすごく気にしていた翔太。自分がいないことで爽子に

負担をかけるのが嫌なのだ。


”「ううぅ〜〜〜〜ごみ出しは早く出すわけにはいけないし・・・」

 「翔太くん・・・ごみ出しぐらいできるよ」

 「だめ、これは俺の仕事なの」”


そう言ってぷぅ〜〜〜っと膨れる翔太くん。そんな姿を見ると、いつもかわいいなぁ〜

なんて思ってしまう。結婚して1年たった今もお付き合いを始めた時から全く変わって

いない。翔太くんは私も変わっていないというのだけれど・・・・。


”「爽子が全く変わらないから、俺、心配で仕方ないよ!」

 「え・・・・??」


初めは怒られたのかと思って、落ち込んでしまった私に翔太くんは耳元で言った。


 「かわいくて、かわいくって、いつも自制がきかなくなる・・・」”


大好きな人に”かわいい”なんて言われると嬉しさと恥ずかしさで一杯になる。

でも翔太くんも耳まで真っ赤だった。それもずっと変わらない。



渋々、ごみ出しを断念した旦那さまは優しいキスを一つ、私の唇に落として、出張

に出掛けて行った。時々出張がある彼と離れて眠る夜はやっぱりとても寂しくて。

だからこそ、翔太くんが側に居てくれる幸せを改めて感じるの。



爽子は、ゴミ置き場まで来て、ゲートを開け、ごみを中に放り込んだ。


ぱんぱんっ


「さて、おしまい!」


手を払って、ゲートを閉めて行こうとすると、ゲートの後ろに何か人影を感じた。


(え??誰?)


爽子は怖くなって、すぐに管理人のところに行こうとした。でも後ろから手首を

ぐいっと引っ張られた。


「・・・・・!「―さわっ!俺!」」


声も出せずおののいた爽子は、固まった表情のまま恐る恐る後ろを振り返った。


「え・・・??」


そしてそこに居た人物に驚きの声を上げた。



*****************



「ごめん!!」


透太は家に入れてもらい、爽子の前で必死に頭を下げた。


「もういいから、頭を上げて・・・」


そう言われると透太は、ぱっと顔が明るくなり、嬉しそうに笑った。

そんなところは小さい頃から全く変わっていない。

ごみ出し場の近くにいたのは風早翔太の弟、透太だった。


ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ


そんな時、透太のお腹が大胆になった。


「お腹空いたんだね。朝早いもんね。とりあえずなんか作るね」

「え・・・いいの?今日仕事は?」

「昼からだから大丈夫だよ」


塾の講師をしていた爽子は家のこともきちんとしたかったので、融通のきく

勤務時間で仕事をしていた。


「翔太・・・いないだろ?」

「あ、うん。知ってたの?」

「あっ・・・でも、だから来たんじゃないよ!!」


一応二人っきりを気にしたのか、必死で言い訳をする透太に爽子は口元が

緩んだ。あれから何年たったのだろう・・・と爽子はすっかり男性になった

透太を見て、月日の早さに驚く。透太は大学1年生になっていた。


「すっげ〜〜〜〜っ!!」


テーブルに並べられた種類豊富な朝食に透太は目を輝かせた。


(うわっ〜〜〜!翔太くんにそっくり・・・)


反応があまりにも翔太に似ていたため、爽子は頬を赤らめた。

そして透太は、自分が食べているのを優しそうに見つめている爽子の視線に

気がついて思わず照れる。


「え?何?/////」

「あっううん、なんでもないの!!」


爽子は焦った様子で、バタバタと台所の方に歩いて行った。その後ろ姿を

ぼーっと眺めて回想に耽る。


(爽子・・・・何も聞かないんだ・・)


この人はいつもそうだった。人を利用しようとか、上手く回るとか、世間体とか

全く考えたことない。ただ目の前の人の気持ちだけを大切にする。

そんな彼女は自分にとって特別だった。

それは19歳になった今も変わっていなくて。でも自分も大人になったんだろうか。

爽子に対する気持ちが恋から愛に変わってきたのだと思う。それは家族愛に。

でも時々、どうしようもないほど恋焦がれる時があって・・・。

先日、付き合っていた彼女から別れを切りだされた。


”「もう、誰かさんの変わりにはなりたくない」”

 「なんだよっそれ?」

 「自分の胸に聞いてみたら。それじゃ」”


そう言って、彼女は去って行った。自分の胸にって何を聞けばいいの?

そして、気がついたら爽子の家の前に居た。何でだろう。俺、まだ引きづってるの?


「爽子・・・・俺、失恋した」

「え??」


爽子は真っ青になって、台所から走ってやって来る。


「だ、大丈夫・・・・?」


言葉できっと上手く表現できないんだな。それが見てとれる。でも必死で自分に寄り

沿おうとしているのが分かり、ずっと会ったころから変わっていない彼女に思わず

笑みがこぼれた。


「爽子さ・・・そんな変わってなかったら翔太心配だね。」

「え・・・・!」


いかにもが〜〜〜んっとした表情の爽子。


「え?どうしたの?」

「あの・・・・そんなに変わってない??」

「うん」

「それって心配になっちゃうの??」


涙目になって、訴えてくる爽子に胸がどきんと跳ねた。

”自分の胸に聞いてみたら”

そっか・・・俺、まだふっきれてなかったんだ。だって・・・俺にとっての特別は

翔太の特別だったんだから。でも・・・・・でもっ


「でも・・・彼女と離れたくなかったんだ・・・」


口に出すと、本当にそうだったのだと実感した。・・・・なんで?

そんな理屈を考える前に嗚咽してしまった。俺、泣いてるらしい。

こんなこといきなり言っても通じるわけないのに。でも爽子は・・・・。


「好きなんだね。彼女さんのこと。とっても・・・・とってもね」


そう言って、優しく肩を抱いてくれた。この人が好きだ。存在が大きすぎて俺、彼女に

爽子を重ねていたのかな。彼女に対する”好き”は・・・。


「もっと自分の心の声、聞いてみたらどうかな・・・・。大切なものってきっと

 目に見えないものだから」


見上げると、爽子が天使のように微笑んでいた。この人の大切なものは翔太だ。

そして翔太の大切な人はこの人。俺は・・・・。

そう思ったと同時に身体が動いていた。


「ありがとっ爽子!!」


透太は清々しい表情で家を出て行った。もう少年ではなく、立派な男の背中を見ながら

爽子は嬉しそうに目を細めて見送った。



****************



「ただいま〜〜〜っ!!」

「おかえりなさい」


ちゅっ


「//////////」



出張から帰ってきた、翔太は久々(といっても一日だけど)の再会にいつもより

長いただいまのキスを爽子の唇に落とす。


「なんかさぁ、透太から変なメール来たんだよね。気持ちワル〜〜〜!」

「え?」


翔太は服を着替えながら不思議そうな顔をして携帯を取り出した。

携帯に映し出されていた文字。



”「これからもよろしくね。お兄さん」”



”お兄さん”だって気持ちわり〜〜!!なんて苦笑いをしている翔太を横目に爽子はふっと笑った。

きっと彼女と仲直りしたのだろう。確信はないがそう感じた。また一つ大人になった透太に少し寂し

さを感じないと言ったら嘘だ。



「何?爽子、何か知ってんの?」

「あっ・・・ううん。何でもないの。ご飯できてるよ。お風呂が先がいい?」


翔太はそう言われて、しばらく上を向いた後、照れた口調で言った。


「・・・爽子が先がいい」

「////////」



ねぇ、透太くん。大切な存在を愛おしく思う気持ち。これほど素敵な感情はない

と思う。あなたも私の大切な人。だから・・・・幸せになってね。




<END>








あとがき↓

大分前に書いた話です。なんか急にUPしたくなりました。ちょっと秋だからせつない
モード??このシリーズまた書くかも。また年齢戻ったりしながら・・・(笑)風早弟
もきっと繊細だと思うのです。お兄ちゃんがそうだから。皆さまのイメージと違ったら
ごめんなさい。さて次から「Half moon」続きUPしますね。しばらく続くと思います。
よろしくお願いします。

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