「Oh My Angel」(17)

花壇で倒れた爽子を抱き上げた市東は看護師室に連れて行った。そこで・・・。
これは「Oh My Angel」          10 11  12 13 14 15 16 の続きです。
以下からどうぞ↓

















「−子?」

「・・・・・」

「爽子?」


目を覚ました爽子は意識朦朧とした中、辺りを見回した。見慣れない天井に

意識がはっきりしていく。ここはナースステーション内の看護師室だった。

そして、声のする方を向いた。


「・・・聖さん?」


びっくりした爽子はむくっと身体を起こそうとした。市東はそんな爽子の

身体をそっと静止して、優しく横になるように手を添える。


「だめだよ。起きあがったら。倒れたんだから」

「え?」


(そっか・・・・私、お花に水を遣っていたら・・・頭がくらっとして)


「・・・聖さんがここまで?」

「そうだよ。疲労だって。また爽子のことだから無理したんだろ?」

「・・・・・ごめんなさい」


爽子はこの数日間、眠れない日が続いていた。自分では気づかなかったが、

心身共に限界にきていたのだ。


「だから、やっぱり結婚したら無理せず俺の側にいて欲しいんだよ。爽子がこの

 仕事を好きなのは知ってるけど、家のことも好きだろ?爽子にはゆったりと好き

 な事をして過ごして欲しいんだ」


市東は優しく微笑んで言った。


「え?聖さん・・・結婚は・・・」


爽子は市東が何を言っているのか分からなかった。先日の話が全く通ってなかった?


「−とにかく、今日は仕事を休めるように言っといたから。もう少ししたら家まで送る」


市東は爽子の頬をそっと優しく撫でた後、部屋を出て行った。


「えっ!!聖さ・・・・」


ばたんっ


爽子は混乱していた。市東はやはりあくまで別れるつもりはないのだ。このまま別れ

を受け入れられないまま、自分は市東と結婚することになるのだろうか・・・・。

爽子は頭をぶんぶんと振った。


(そんなこと・・・・できない!)


そこにドアをノックする音が聞こえた。


「はい?」

「あの・・・・翔太です」

「え??」


爽子は思いがけない人物に胸がどきんと跳ねた。


「・・・どうぞ!」


かちゃっ


「黒沼さん・・・大丈夫?」

「翔太くん・・・・」

「あ・・・ちょっと疲れていたみたいで・・・大丈夫です。翔太くん、よくここ

 に入れたね?」

「田村さん(最初に看護してくれた看護師)に入れてもらった。」


そう言って、翔太は下をちょろっと出した。


「あいつも・・・今、いないって聞いたから・・・」


翔太は横を向いてぼそっと小声で言った。


「え?」

「なんでもない」


翔太は爽子をじっくりと見つめた。顔は青白く、精気がなかった。そう言えば

最近、少し痩せたような気がする。


「黒沼さん・・・ちゃんと食べてる?寝てる?」

「あ・・・あの・・・その」


嘘をつけない爽子の姿を見て、図星だな・・・と翔太は苦笑いした。

翔太は市東が爽子を抱き上げる姿を見て、二人がカップルだということを再認識

した。しかしあの後、落ち込んでいるより爽子に会いたい気持ちの方が勝った。


彼女が幸せだったらいい。そう思っていたのに・・・・。なぜそう感じないんだろう。

翔太は青白い彼女の顔をしばらく見つめた後、目を細めながら言った。


「だめじゃん!看護師さんがそんなじゃ〜」

「・・・はい」


爽子は恥ずかしそうに俯いて返事した。


「黒沼さん・・・今幸せ?」

「え?」

「幸せだったら・・・・俺安心して退院できる。でも、そうじゃなきゃ・・・」


爽子と翔太はしばらくの間、時間が止まったように見つめ合った。

その時、ドアが開く音がして、二人ははっとして音の方に顔を向けた。

そこには市東の姿があった。


「患者がこんなとこに居たらいけないな」


そう言って、市東は翔太に部屋を出るように促した。

翔太は拳を握りしめて、顔をぐっと上げて市東を見て言った。


「俺・・・・黒沼さんが好きです」

「・・・・・」


市東は表情を変えずに腕を組んで、壁にもたれて聞いていた。爽子は翔太

の2度目の告白に胸を躍らせたと同時に市東の方を見た。


「・・・で?」

「今の黒沼さんが幸せに見えないのはなぜですか?」

「何が言いたいの?風早くん」

「俺・・・先生よりずっと子どもだけど、彼女の幸せは願える。」

「・・・・・・・」

「俺は・・・ただ・・・黒沼さんの笑顔が見たいだけです。例え・・・自分が

 そうできなくても」


市東は、俯いて拳を握りしめている翔太に表情一つ変えずに言い放った。


「・・・そうだよな。こーこーせーなんかに何もできないもんな」

「!」

「聖さん!!」


爽子は見たこともないような市東に驚き思わず声を上げた。


「・・・失礼します」


しかし翔太はそんな市東の挑発にも全く動じず、一礼した後、爽子をせつない

目で見てその場を去った。


そんな翔太の姿に、爽子は涙が溢れて止まらなかった。本当に自分の幸せを

願ってくれていることを感じたからだ。


「聖さん・・・・私・・・」

「車用意出来たから、帰るよ」


市東はまるで何もなかったかのように表情を変えず、爽子の身体をベッドから

起こした。爽子はそんな市東の表情を読み取ろうと顔をそっと覗きこんだが、

無表情の顔からは何も感じることができなかった。


「聖さん・・・・私、翔太くんが好きなの。もう気持ちをこれ以上偽れない。

 別れて下さい。」

「・・・・一時の気まぐれだって」


市東は冷やかに口角を上げて言った。


「ちがーっ!?」


爽子の身体を支えながら歩いていた市東は爽子の肩をぎゅっと強く握った。

爽子はその強さに恐怖を感じて、それ以上言葉を発することは出来なくなった。


「とにかく、今日はゆっくり眠って。お母さんに電話しておいたからね」

「・・・・・」


爽子は初めて市東を他人に感じた。長い付き合いなのに見たことない市東を見る

ようになった爽子はどの市東が本当なのか分からなくなったのだ。そしてますます、

爽子から笑顔が失われていくのであった。



****************



母は、帰った爽子をベッドに寝かせて、真っ暗なダイニングで一点を見つめてたたず

んでいた。そこに「ただいま〜」と父が帰って来た。そして、ダイニングに母の姿を

見つけた。


「・・・・・。」


母は父が帰ってきたことにやっと気がついて、立ち上がった。その母の姿を父は何も

言わずに見つめていた。


「あなた・・・・」


最近の爽子の様子を父も分かっていたのだ。そして母が思いつめていることも。

父はそっと母の肩に手を置き、座るように促した。



「爽子・・・・上にいるのか?」

「ええ・・・。今日倒れてしまって」

「え!?」

疲労ですって。最近眠れてなかったみたいだから」

「・・・・・。」


とんとんっ


「はい?」

「お父さんだけど、開けていいか?」

「あ・・・うん」


がちゃ


「爽子・・・・。あっ起き上がっちゃいけない」


父はベッドから起き上がろうとしていた爽子をすぐに静止した。


「ごめんなさい。心配掛けて・・・。ちょっと仕事が忙しくて」

「仕事だけじゃないだろ?今まで仕事で疲れていても爽子のそんな姿は

 見たことないぞ。・・・・お父さんに言えない事でもあるのかな?」

「・・・・・。」


下を向いて、何も言えない娘を父はいじらしくなった。


「好きじゃない人と結婚すること・・・ないんだぞ」

「!」


爽子はぱっと顔を上げた。


「お、お父さん!?」


父はベッドに近づいていき、爽子の頭をぽんぽんっ優しく叩いた。


「爽子に・・・ずっと無理させてたんだな。親の勝手で許婚にして・・・。

 それで幸せになれると思ってたんだから本当に親失格だよ」


父はそう言うと、情けなさそうに俯いて頭をぼりぼり掻いた。


「そ、そんなことないよ!!お父さんもお母さんも私のことをいつも

 考えてくれて、それで・・・!!」


「・・・ありがとう。でも、もういいんだよ。後は爽子が決めなさい。

 もう今年は23歳になるんだもんな。お父さんもお母さんも、爽子が

 幸せだったらそれでいいんだから」

「お父さん!!」



父は子どものように泣く爽子をいつまでも優しく抱きしめた。











あとがき↓

よく考えたら、こんな元気な翔太くんは絶対退院してますよね(笑)まぁ妄想だから。
次回は市東の心の闇を救ってくれる人物現る!?もう少しで終わりです。(かな?)
最後まで見てもらえると嬉しいです。

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