「Oh My Angel」(16)

爽子が悩んでいる中、翔太は市東と鉢合わせする。
これは「Oh My Angel」          10 11  12 13 14 15 の続きです。
以下からどうぞ↓



























「あ・・・・」


翔太がカフェスペースでお茶を飲んでいると、そこに一人の男が現れた。


「風早くんだよね?ここいい?」

「あ、はい」


翔太はベンチにどかっと座る男を横目で見ながら返事をした。それは市東だった。


「足どう?」

「あ・・・・おかげさまで痛みもなくなってきました」

「若いからやっぱり退院も早まったね」

「え?」


翔太は自分の退院日を市東の口から初めて聞くことに疑問を覚えた。

退院は来週。


「どうして先生が?」

「あ〜たまたま君の担当の整形外科医と話してたから」

「・・・・・・」


翔太は、隣にいる市東をそれとなく見る。この人が・・・彼女の恋人。

大人で、落ち着きのある姿に胸の奥がズキッと痛んだ。彼女と

どんな風に話すんだろう。彼女にどんな風に触れるんだろう・・・。


「あ・・・俺、戻ります」


翔太は想像してしまう自分にたまらなくなり、その場から立ち去り

たくなった。彼女の笑顔を守るために引いただけで、この人との仲を

見守る程、俺はまだ立ち切れていない。それにそんなに大人じゃない。

そんな翔太を市東は引きとめた。


「風早くん・・・・爽子はきっちり仕事をする人だからね。誰でもね」

「・・・・何が言いたいんですか?」

「いや、最後までよろしくね。」


そう言って、少し口角を上げて市東は去って行った。


「ーったく、なんなんだよっ」


翔太はもやもやした気持ちを抱えながら病室に戻った。

市東と爽子が一緒のところを見る度に胸の痛みを感じ、諦めきれない

自分の想いを再認識する

諦めるなんて・・・出来るんだろうか?

”さわこ”

呼びたくても呼べない名前。


翔太は頭をぐしゃぐしゃっとしながら中に入ると、山中が荷物整理をしていた。


「山中さん!」

「あー翔太くん。いきなり退院決まっちゃってさ〜〜〜」

「え?」


病室の他のメンバーも山中を見守っていた。

下を向いて、寂しそうな翔太の肩をぽんぽんっと川さんは叩いた。


「また、会えるよね?」

「もちろんだよ!これ連絡先。」


小さなメモ帳にささっと連絡先を書き、翔太に差し出した。

「それから・・・」ともう一つ、とA3の茶封筒を渡す。

「何?」

『寂しくなったらこれ見て!』と山中は翔太の耳元で言った。


「あ〜〜〜〜ついに3次元だぁ〜〜!!」


そう言いながら、笑顔で山中は去って行った。


「ありがとう!!」



山中の存在は入院生活を楽しいものとさせてくれた。いろいろな思い出が

浮かんでくる。自分のベッドでそっと茶封筒を開けてみる。


(あ・・・///////)


そこには以前、見せてくれた黒沼さんのバニーガールの絵が入っていた。

そして、メッセージカードが一枚ひらっと落ちる。


”翔太くんへ


いろいろ楽しかったよ!ありがとう。翔太くんの真っ直ぐな想いを

目の当たりにして、俺も3次元の恋をしたくなったよ!頑張るよ!

だから翔太くんも諦めないで。俺の予想では黒沼さんも翔太くんに

気持ちがあるような気がする。ちゃんと確かめてみて!それじゃ

また会おう! 
                 山中より”



「山中さん・・・・。」


翔太は嬉しそうにメッセージカードをいつまでも見つめていた。きっとまた会える。

この入院で得た、大切な存在。そして、もう一つのかけがえのない出会い・・・・。

翔太は再び山中のくれた絵を愛おしそうに見つめた。



******************



山中が去った後、翔太は静かになった病室を眺めていた。そして、山中が

残してくれたメッセージを思い出し、すくっと立ち上がって爽子ガーデンに

向かう。彼女が好きだ。諦められない気持ち。でも、彼女が幸せだったら

気持ちが残っても、自分が幸せにできなくても、納得できる。そう思った。


はぁはぁっ――!


退院は来週と言われたが、松葉づえなしに歩けるようになった自分がいつ

退院と言われてもおかしくない。


「!」


ちょっと早歩きしただけで息が上がる身体を必死に動かして翔太はガーデン

まで来た。そしてその辺り一帯が騒がしいのに気がついた。


「どうしたんですか?」


そこにいた人に声をかける。


「あっ・・・人が倒れて」


翔太はそう言われて人を押しのけて見ると、そこにはぐったりとしている

爽子の姿があった。


翔太は引き寄せられるかの様に無意識で身体が動いた。しかしその瞬間、

大きな男が前を遮った。


「病人の君には無理だから」


そう言って軽々しく爽子を持ち上げると、集まっている人を制して、男は

その場を去った。


翔太は下で拳を握りしめていた。その男は・・・市東だった。

爽子の儚げな姿が脳裏から離れない。いったい何があったのか?


そして自分の無力さに悔しい思いがいっぱい広がった。彼女を守るのは

自分ではないというのを目の当たりにしたのであった。











あとがき↓

いや〜市東が嫌な男になってきましたね。爽子がそれほどかわいすぎるから罪です。
次回は翔太が市東と向き合おうとします。いつも正直翔太くんです。よければまた
見に来て下さい♪

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