「Oh My Angel」(19)

翔太の退院が決まり、何も伝えられない自分に焦りを感じていた爽子は?
これは「Oh My Angel」          10 11  12 13 14 15 16 17 18 の続きです。
以下からどうぞ↓


















「爽子!」

「!」


その時だった。声の方に振り向くと後ろに市東が立っていた。

花壇で水を遣っていた爽子はジョーロを置いて市東のもとに駆け寄った。


「ひ、聖さん・・・!私・・・あのっ」

「・・・話があるんだろ?俺もあるから、そこのベンチに座ろ」


そう言って、市東は爽子をベンチに促した。

今まで向き合いたいと思っても、全く聞く耳を持ってくれなかった市東が

話をしてくれる?固い決心をしていた爽子は市東の様子に拍子抜けした。

目の前にいるのは以前の彼だった。


しばらくの沈黙の後、市東が口火を切った。


「−もういいよ」

「え?」


爽子が顔を上げると、穏やかな表情をした市東がいた。


「もともと・・・俺が爽子を縛ってたんだ」
 
「!」


爽子は市東から目を離さず、一語一句を聞き逃さないように耳を傾けた。


「ごめんな。俺の爽子の愛し方は箱の中に閉じ込めるだけだった。だから・・・

 もう、解放してあげる。好きなとこ・・・行けよ」


「聖・・・さん?」

「俺への罪悪感なんか持たれる方が、逆に傷つくから。爽子が正直に生きる方がいい」

「・・・・・・・。」

「まぁ〜こんな男にもう二度と会えないからな。きっと後悔するけどね。」


そう言うと、市東はにかっと爽子を見た。そして、すくっと立ち上がった。


「あ〜〜〜行かないなら俺が行く!」


爽子は目の前の市東の姿を茫然と見ていた。

そしてやっと、市東が自分の気持ちを受け入れてくれたことに気付いたのだ。

本当の市東はやはり今目の前にいる人。爽子の頬には無意識に涙がつたっていた。


「ひ・・・・聖さ・・・んっ」


市東は爽子に背を向けながら泣いている爽子を感じた。そして足を止めた。


「ふっ・・・・やっぱり」


背を向けていた市東は振り向いて言った。


「俺、爽子にはどうしても触れられなかった。好きすぎて・・・・。だから、最後に

 キスしていい?最後の・・・」


「・・・・!」


驚いた爽子だが、市東の言葉と優しそうな目をしばらく見つめた後、こくんと首

を縦に振った。


そして二つの影はそっと重なった。優しく、懐かしむようなキス・・・。


さようならのキス。爽子の頬に大粒の涙が頬をつたった。


「聖さん・・・ありがとう」


そんな爽子の姿をせつない目で見つめた後、市東は去って行った。その後ろ姿を

見えなくなるまで爽子は見送った。



今まで私を大切に守ってくれた人。色々なことを教えてくれた。伝えたいことは

山ほどあったのに、ただ”ありがとう”という言葉しか出てこない。この胸の

奥が熱くなるぐらいのせつない気持ち。


爽子は自分の気持ちを通すと言うことはこういうことなのだとはっきりと自覚

した。そして、こうやって人を傷つけてでも大切にしたい気持ちがあるという

ことを翔太に会って初めて感じたのだ。


爽子はベンチに座ったまま、次から次に流れる涙を必死で拭った。自分よりつら

い思いをしている市東のことを想って・・・・。



市東は、あやねに感謝していた。爽子の友人ということでどうなる関係でもない。

でもあの時、確かにあやねに救われた。あやねに会っていなければ今の自分はな

いだろう。こんな清々しい気持ちで別れることはできなかっただろうと・・・・。


建物の角を曲がるところで、そっと後ろを振り返る。ベンチで身体を震わせて

座っている彼女。好きだった・・・。心から好きだった。俺の天使・・・。

市東は目を細めながらそんな彼女の様子を見ていた。そして顔をくいっと上げ

前を歩きだした。その時、前方から見覚えのある人物の姿が。


「あ・・・!」


翔太は表情を少し強張らせて、「ども」と頭を下げた。

そんな翔太をじぃ〜〜〜〜〜〜っと上から下まで市東は舐めまわすように見た。


「な、なんスか?」

「いや〜〜〜俺の方がいい男だと思うけどな」

「はぁ??」

「ははっこっちの話。んじゃな」

「?」


ぽんっと翔太の肩を叩いて笑いながら市東が去って行った。


「ーったく。なんだっつーの」


翔太はまだあの場面を引きづっていた。そして目線を前に移すと、そこには

ベンチに肩を震わせて泣いている爽子の姿を見つけた。


***************



「あ・・・・」


(今、あいつといたよな?)


「く・・・ろぬまさん?」

「!」

「あ・・・・。」

「ごめん、市東先生だと思った?」

「あ・・・ううん」


必死で涙を拭っている彼女。でも肩の震えが止まらないみたいで

嗚咽を押さえているのがいじらしくって・・・。


「どうしたの?」

「ううん・・・・大丈夫!」


二人の間に何があったのだろう?気になるけど、何も聞く権利はないし、

何も出来ない。そんな自分に翔太はもどかしさを感じた。


そして、つらそうな彼女を労わる気持ちよりも上回る、ただ抱きしめたいと

いう感情・・・欲情に翔太は支配され、自分自身を恥じた。


愛しい気持ち・・・。退院後は会えなくなって、この気持ちも忘れていくん

だろうか・・・。彼女はもうすぐ永遠に届かない存在になるというのに。


その時、彼女はすくっと立ちあがって、なぜか拳を固めている。


「あ・・・あの、あの・・し、翔太くん!」

「は・・・はい?」

「今日・・・・最後の夜だよね?・・・・あの、その・・・夜、屋上に来て

 もらえませんか?」

「へ?・・・あ・・・うん?」


必死で言葉を紡ぎ出そうとして顔を赤らめている彼女を翔太は不思議そうに

見つめた。明日は退院。この空間に自分はいなくなる。彼女と最後の夜。


「はぁ〜〜〜〜〜〜っ」


翔太は何も知らずにただ、ベッドの上でため息ばかりついていた。










あとがき↓

やっと次で終わりです。適当に書いているのでどんどん長くなっちゃうんですね。
お話を組み立てたりするとしんどくなりそうなので。あくまで自分が楽しい妄想
というのが私の基本だったりします。なので詰めが甘かったり、たいして面白く
ない文とかになっちゃいます(笑)でも好きなんですね〜こういうことが。
最後まで見てもらえると嬉しいです。

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