「Oh My Angel」(11)

思わず感情のまま爽子を抱きしめた翔太は?
これは「Oh My Angel」          10 の続きです。
以下からどうぞ↓

























「!」

「行かないで」

「・・・・・・」


爽子は、胸の鼓動が早くなり身体が熱くなるのを感じた。

それだけの言葉。だけどその言葉に込められた翔太の深い想い。

爽子は感覚でその想いをただ受け止めた。


(何だろう・・・。この気持ち)


翔太から感じる温かさ。ずっとこのままがいい・・・と思ってしまう。

爽子は不思議なぐらい幸せで穏やかな気持ちを感じた。

そしてしばらくしてそっと身体が離れた。幸せな気持ちから現実へと

戻される感覚。翔太は真剣な目で爽子を見て言った。


「俺・・・人と比べたり、自信をなくしたり、こんなつらい想いを経験

 したのは初めて」

「そして・・・こんなに愛しくって、優しい気持ちになったり、幸せな

 気持ちを経験したのも初めて・・・」


爽子も翔太の瞳から目を離さず、じっと見つめて聞いていた。


「好きなんだ・・・・。黒沼さんこと」


真っ直ぐ伝えられるその言葉に嘘はないというのが爽子に分かった。そして

それはただの好きではないというということも・・・・。

爽子は胸がズキッと痛んだ。込み上げてくるような激しい感情。

そして、瞳がゆらゆらと揺れ出し、視点が定まらなくなった。

これが人を”好き”になるという感情。翔太に言われて初めて気付いた。


「何も、言わなくていいよ。困らしたいわけじゃない」


翔太は爽子の涙が、全てを語っていると思った。そっと頬をつたう涙を手で

拭って、愛おしそうに見つめた。


違う・・・違うんだよ!爽子は心の中でそう叫んだが、声には全くならなかった。

ただ、涙が溢れるだけ・・・・。



「ひぃっくひっくっー!」


爽子は子どものように肩を震わせて思いっきり泣いた。


翔太はたまらなくなって、爽子の頭の後ろに手を持っていき、

優しく自分の胸に再び引き寄せた。


「ごめっごめっなさ・・い。ひっく。止まらなくて・・・」


どれぐらいそうしていただろうか・・・翔太は彼女を胸に抱きながら満点の星を

仰いでいた。華奢で今にも壊れそうな彼女の肩が震えている。

優しい彼女だ。きっと自分に申し訳ないと思ってる。翔太はそう思った。でも

ただ胸の中にいる彼女が愛しくて。他の誰かのところへ行ってしまうのが、耐え

られなくて・・・・。


やっと落ち着いたのか、彼女は顔を上げた。


「ご、ごめんなさい。翔太くんの服を濡らしちゃって・・・・」

「そんなのいいよ。俺・・・・すぐには普通にはなれないけど、黒沼さんを

 困らせないように頑張るから」


そこには無理に笑おうとする翔太の姿があった。


「・・・・・・。」

「それじゃ、俺戻るね」

「・・・・うん」


そうして、ゆっくりと翔太は去って行った。その後ろ姿を茫然と見つめる爽子。

その時、やっと”恋”という感情を知ったのである。

初めての感情に爽子は戸惑った。結婚が決まったと同時に"恋”を自覚すること

になるとは皮肉な運命だった。


***************


「が"〜〜〜〜〜〜〜!!」



頭を掻いたり、頭を押さえたり、ベッドで悶えている翔太を山中は気の毒に

思っていたが、さすがに何て言っていいか分からず、今回は空気を読んでいた。



「何〜〜〜?翔太くん。失恋でもしたの?」



同部屋のお爺ちゃんが声を掛ける。さすがの山中も止めようと必死だ。


あっちょっと川さん〜〜〜やばいっす(汗)」


そんなことに構わない人生の先輩は遠慮ない。


「がははは〜〜〜!いいじゃないか!若いって証拠だよ!」


(うわ〜〜〜っ思いっきりバカ笑いだし)


川さん(お爺ちゃん)は大笑いした後、今度は穏やかな口調で言った。


「結局、男と女は年とか、立場とか、顔とかな〜んも関係ねぇ。お互い

 の人間性と相性さ」

「惹かれあうものはやっぱ糸が引かれてんだろ」


そう言って、おやすみ〜去って行った。


((昼なんだけど・・・))


山中と翔太はお互い顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。


「やっぱ、人生の先輩にはかなわないわ!」


山中は大笑いした。


翔太は、その言葉が胸に染みた。


(そっか・・・・。励ましてくれたの・・かな?)


入院も2ヵ月に入ろうとしている。改めて同室の人達の優しさを感じ、

この出会いに感謝した。


「ふぅ・・・・」


ベットに横になる。翔太は自分の手を茫然と眺めていた。彼女を抱きし

めた感覚。甘い香り。それを何回も思い出しては、拳を握りしめて顔を

歪めた。告白するつもりはなかった。だけどこの溢れだした想いはもう、

止められなかった。


翔太は大きなため息を一つ吐いた後、青い空を仰いだ。









あとがき↓

翔太に告白されて、やっと自分の想いに気付いた爽子。でもどうにも
ならず、悩む爽子です。そんなに暗くはならないと思うけど、ここから
ちょっと暗いかも?前回のあとがきで書いた内容とちょっと違いましたね!
そこまで行けなかった(汗)それではよければ見に来て下さい。

「Oh My Angel」 12 へ