「風早家の人々」<中編>

3つに分けました。この話は「風早家の人々」前編 の続きです。
以下からどうぞ↓


















「翔太くん行ってらっしゃい」


毎朝、おいしい朝食を作ってくれ、玄関で送り出してくれる愛しの妻。

塾の講師をしている爽子は時間も曜日も選べるので、翔太を優先して

勤務を組んでくれている。


「ん!今日もがんばるね!」


そう言って、いつものようにぎゅっと爽子を抱きしめ、”行ってきます”

のキスをする。


(やばっ///////)



いつものことなのに真っ赤になる爽子を見ているともっともっとという

気持ちになってブレーキをかけるのに必死だ。寝起きもそうなのに。


「あのさ、爽子。」

「え?」

「俺の出張の時、無理して実家に行かなくていいから」

「え?無理してないよ」

「でもさっ爽子の時間持てなくなるじゃん!」


何とか行かせないようにこじつけたい俺だが、爽子は


「そんなことないよ。ずっと仕事しているわけじゃないから大丈夫だよ。

 皆さんにとても良くして頂いてるので嬉しいよ!!」


力説する爽子に俺の言いたいことを伝えるのは一苦労だ。爽子は本当に

あの家族が好きだ。それは嬉しいんだけど、俺の気持ちにはきっと

ひとかけらも気付いてない。っていうかただのヤキモチだし・・・・。


「うん・・・行ってきます・・・」

「あ・・・行ってらっしゃい」


(何だか、翔太くんの背中が寂しい?どうしたんだろう?)


爽子は手を上にあげたまま、心配そうに翔太を見送った。


翔太は会社に何回も出張がない部署に移して欲しいと掛け合っているが、

翔太を気に入っている得意先が沢山あり、外せないと言われている。

そして、来月は1週間の出張!


「あ"〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


今日も発狂する翔太だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



Pulululu〜♪

 Pulululu〜♪



「やっぱり・・・!!」


出張先で電話を入れると、今回も案の定、家にいない爽子。今日こそは!

と怒りのまま勢いで実家に電話を入れる。



Pulululu〜♪

 Pulululu〜♪


「ん?なんで?」


今日こそはっきり言ってやろう!と思った翔太だったが、実家にも

何回電話しても誰も出なかった。外食でも行ったのか?と思って

爽子の携帯に電話を入れる。すると・・・・。


「あ・・・はい!翔太くん?」

「爽子?どこ?」

「あ・・・あの、その・・・。あっ!」


え・・・なんで言えないの?もじもじして言えない爽子に不安になってきた。

すると、電話先から違う声が。


「翔太〜〜?ごめんね〜今旅行先なの。爽子ちゃんも一緒!」

「へ?」 なぜか母の声。


そんなの聞いてねーしっ!思わず無言になった俺に追い打ちをかけるように

また違う声。


「翔太!爽子ちゃんを責めるんじゃないぞ。爽子ちゃんはお前に悪いと

 最後まで悩んでたんだが、俺たちが無理やり連れてきたんだから」


そこに父の声。そんなの分かってるっつーの。思わず脱力感。

はぁ?家族旅行中だと?(俺の出張を見計らって。絶対)

もちろん爽子が悪いわけはない。それより口止めされていたと知って、

風早家にふつふつと湧く怒り!


「あのねっ!!いいかげんにしてくれよ!爽子は俺の奥さんなんだから!」

「いいだろ?お前は出張ばかりで妻に寂しい思いをさせてるんだから」

「う・・・・っ」


それを言われるとグーの音も出ない。


(くそっ〜〜〜〜!)


後ろであわわ〜としている爽子の様子が伺える。

でも、その時だった、電話の後ろで聞こえる、祭りの音。あれ?

その音が二重に聞こえる?


(もしかして・・・・!!)


「翔太!聞いてるのか?」


無言で耳を傾けてみた。


(やっぱり!!)


「うん。聞いてるよ。わかった。もういいよ。怒ってないから爽子に代わって」


冷静になったと思った翔太に安心して、爽子に電話を代わる父。


「本当に・・・ごめんなさい。翔太くん。どうしても断れなくて・・・」

「・・・・・。爽子、ちょっと皆から離れられる?」

「え?どうして?」

「いいから!」

「今外にいるから、皆前を歩いてるよ。ごめんね。お祭りの音がうるさくて・・・」

「今、もしかして○○町の祭りを見に来てる?」

「え・・・?どうして分かったの?」


翔太は場所を細かく聞き出したかと思うと、慌てて電話を切った。


「どうしたんだろう・・・翔太くん?」

「どうしたの?爽子?」


一緒に旅行に来た透太が爽子の横を歩く。風早家一行は○○町祭りの夜店

を見て歩いていた。


「爽子!浴衣かわいいね!」

「あ・・ありがとう。透太くんも素敵だよ」


(翔太くんと・・・来たかったな・・・)


家族皆で温泉の後、浴衣に着替えて祭りを堪能していた。


爽子は楽しいのだが、やはり翔太のことが気にかかり、存分に楽しめない

でいた。そんな様子に気付いた透太が爽子にそっと声をかける。


「俺・・・・こんな風に爽子と家族になってるのがやっぱり複雑」

「えっあわわ〜〜ごめんなさい」


そう言って、頭をペコペコ下げる爽子にぷっと透太は笑う。

いつまでたっても皆が爽子を大好きなことに気づいていない。


「だって、爽子、ずっと変わってないんだもん」

「え?」

「あんまりにも変わらないから、悔しいやら嬉しいやら・・・」


そう言って、すっかり大人になった顔で笑う透太。ちょっと前まではまだ

幼さが残っていたのに、月日は早いなぁ〜と感慨深く思う爽子であった。

その時、何かにぐっと手を後ろに引っ張られる。

「え・・・??」


そして、後ろを向こうとする前に何かが後ろから爽子の身体を抱きしめた。


「きゃっ!!」


その声に透太も反応して後ろを向く。


「あ・・・・・・!!」

「うそ・・・・・!!」


二人は後ろの人物に驚嘆した。


爽子にべったりくっついて離れないその人は


「よっ」


と挨拶し、にっと笑った。



(つづく〜〜)








あとがき↓

この話、私的には結構気に入ってます。風早家に翻弄される風早(笑)
とにかく、爽子は特別なのです。だってかわいいもん。それでは
続きをよければ見に来て下さい。

「風早家の人々」 後編