「OVER the TEARS」(11)

あの事件以来、風早に会えない爽子は喪失感に襲われていたが・・・。
これは OVER the TEARS           10 の続きです。
それでは以下からどうぞ♪


















爽子は毎日、携帯の待ち受けを見ていた。そこには風早

と二人で撮った写真。そして、笑顔の二人。


もうこんな風に笑い合える日が来ないかもしれない。

風早くんはこんな私を受け入れてくれないかもしれない。


会いたくてたまらない人。でも会うのが怖い。


そして、今日も携帯のボタンは押せなかった。





毎日ベッドから窓の方を見ながらため息をつく娘

に母は胸を痛めていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ごめんなさいね。突然呼びだして・・・」

「いえ。」


「ずっと家にも来てくれてたのに、ごめんなさいね。」



爽子母は風早を街中の喫茶店に呼び出した。



「爽子のこと・・・やっぱりお話した方がいいと思って」



突然、連絡の取れなくなった爽子に何か重大な事件があったの

だと思っていた。でもその半面、俺のこと嫌になった?という

不安も拭えなくて・・・・。正直、怖かった。待っているはずの

爽子からの電話が・・・・。


しかし、風早は母の話を聞いて、愕然とすることになった。




「まさか、あの子がこんな目に遭うなんて・・・。爽子は自分に

 自信を持てない子だったから、こんなことがあって、ますます

 自分を落としていきそうで・・・。」


爽子の母は何回泣いたんだろう?って思えるぐらい、その姿は

儚げだった。


「・・・・・・。」


「今、爽子は男性に恐怖心を抱いています。でもね!風早くんだけは違う

 んです。それが私には分るの。」


爽子の母はいつものように明るい笑顔になった。


「こんなことがあってもよ?正直驚いてるの。だから・・・あなたしか

 救えないわ。あの子をよろしくお願いします。」



しかし、丁重に頭を下げる爽子の母に、風早は何て言ったらいいか

分からなかった。もちろん、気持ちは変わってない。変わるわけない。

でも今、爽子に「好き」という気持ちを届けても、ただの押しつけ

になるような気がしたからだ。本当に自分が彼女を救えるのか?






風早は帰り道、涙が止まらなかった。爽子に触れた男を許せない

という思い以上に傷ついた彼女のことを想い・・・・。


「俺に何ができるんだろう・・・・。」



しばらくの間、いつもの河原に立ちすくんでいた風早だったが、

その後、真っ直ぐ前を向き、力強く歩き出した。


何かを決心したかのように・・・・。



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事件から1ヶ月の月日が流れた。月日は爽子の心の傷を徐々に

癒し、大学にも通えるようになった。

瀬戸家は弁護士を送りこんで、今回のことは金銭で解決しようと

したらしいが、父はそれを受け入れず、話し合いは難航していた。

父は道哉を訴えたいのだ。しかし、それを瀬戸家以上に

爽子が必死に止めていた。


早くしなければ取り返しのつかないことになる。


こんな時、風早くんならどうするんだろう?高校時代から今も

憧れの気持ちは変わっていない。

爽子は何かをする時、いつもそう考えていた。



爽子は勇気を出して、道哉に電話をかけた。事の真相を聞き出した

かったからだ。しかし、道哉が電話口に出ることはなかった。

そんなある日のこと・・・。

いつものように電話をかけると、家庭教師に行っていた時に、一番

爽子に良くしてくれた、お手伝いが電話口に出た。


「黒沼様・・・お元気でらっしゃいますか?」

「は、はい!もう元気です。ありがとうございます」


爽子は嬉しくなった。あの家は冷え切っていたけど、道哉のことを

心配している人間は確実にいるのを知っていた。彼女もその一人だ。


「道哉ぼっちゃんはいません。おばあさまの家にしばらく住む

 ことになりまして・・・。」

「え?・・・・どうしてですか?」

「・・・・・・。」

「く、黒沼様!!あ、あの・・・。」


今までの電話対応から、真実を知っている人間や、あのことを知って

いる人間の口を封じようという瀬戸家内の雰囲気は伝わっていた。


「お願いします!私・・・道哉くんの家庭教師ですから!!」


しばらくの間があった。そして、小さな声で言ってくれた。


「――黒沼様をあの時見つけたのは私ではないです。道哉ぼっちゃんです!

 そ、それだけです」  



やっぱり道哉くんは達哉さんをかばっている?それともそうさせられたの?

会いたい。会って話がしたい。爽子は強く思った。










あとがき↓
まだ続きます。自分で何でも頑張ってしまう爽子ですが、一人
ではどうにもならない問題にぶつかった時に頼る人は?
そんな展開です。よければ続き見に来て下さい。
OVER the TEARS 12