「OVER the TEARS」(12)

勇気を出して、道哉に会いに行った爽子は?
これは OVER the TEARS           10 11 の続きです。
それでは以下からどうぞ♪






















「おまっ・・・!」


玄関に立っていた私を見て、道哉くんはすごく驚いた顔をした。

あれから、お手伝いさんに道哉くんの居場所をなんとか聞きだした。

あの事件の後、騒ぎを大きくしないためにもと田舎で生活すること

になったらしい。




「来ちゃった」

「・・・・・。」


ここは家から2時間ほど離れた、田舎にあった。

しばらく私を見ていた道哉くんだったが、寒さもあり、私を中に

入るよう、手で合図してくれた。そこのお家も大きかったけど、

中に居た道哉くんのおばあちゃんという人が優しそうで、瀬戸家

とは違う温かさがあった。道哉くんの表情も穏やかに感じた。



お茶を出してもらい、頂くと、寒かった身体と心が一気に温かく

なったような気がした。


「道哉。恋人かい?かわいいねぇ〜!」

「なっ!/////ち、ちがうよ。ばーちゃん!!」


赤くなって必死で否定する道哉くん。ああ・・・元気だ。良かった。

爽子は道哉を見て、目を細めた。そんな爽子に目線を移した道哉は

咳払いを一つして、祖母に部屋を出るように促した。そして




「ごめんな・・・。」


第一声、道哉くんはそう言った。


「・・・どうして?」

「あんなこと・・・・」

「道哉くんじゃないのに?」


「だって・・・俺がいなかったばかりに・・・」


「ほんとに・・・・ごめん!」


そう言って、道哉くんは俯いて体を震わせて泣いていた。

こんな素直な道哉くんは初めてだね。

私は、道哉くんの姿に涙が止まらなかった。最初は全く自分を受け

入れてもらえなかった。でも時折見せてくれる素直で純粋な性格に

会うたび、楽しかったり、嬉しかったり・・・・。


「私・・・お手伝いさんに聞いたの。あの後、お兄さんと大喧嘩

 したって。」

「・・・・っ」

「ありがとう・・・。私なんかのために」

「・・・・・あいつ・・・!許さねっ!」


すると見る見る道哉くんの表情が変わっていった。


「あいつ・・・あんたのこと・・・ただの暇つぶしって言ったんだ!!」

「皆に大事にされてるあんたを・・・・!くっ」


道哉くんは鋭い目を私から逸らして、下にうずくまった。

許さねー!と叫びまくって腕の中に顔を隠していた。


「道哉くんが・・・助けてくれたじゃない。本当にありがとう。」


そう言った爽子をしばらく見ていた道哉が、ぽつりぽつりと話し出した。



「俺・・・やっぱりオヤジの子どもじゃなかったんだ。」

「!」

「愛人の子どもなんだって。お袋から聞き出した。」


道哉くんは荒れている様子でもなく、冷静に話している。

こんな中学二年生がいるだろうか?泣きわめくわけでもなく、

諦めの表情をさせていいんだろうか?


「だから・・・俺がやったことにしたら全てあの家では解決すんだよ。

 あんたんとこの家が訴えないとしても噂は広まるんだって。こういう

 のって・・・。兄貴はエリート街道まっしぐらだからさ」


「やだ・・・やだよぉぅ・・・!!」

「!」」


私は、涙を必死でこらえながら、拳を固めて言った。


「いやだよ・・・道哉くんは何もしてない!」


「いいんだ・・・。あんたが分かってくれてたらそれでいいんだ。」

「・・・・・。」

「俺さ、あの家で必要のない人間だって最初から分かってた。だから

 俺なりに努力もしたよ。でも何をやっても兄貴だけ。あの時、はっき

 りしたんだ。あっそうかって血がつながってなかったんだって」


そう言って、道哉くんは静かに笑った。


「あいつ・・・泣いたんだ。」

「・・・・。」

「あいつの泣いたところ初めて見た。」


道哉くんは一点を見つめならがら表情を変えずに言った。

私はそれ以上聞けなかった。道哉くんをつらくさせそうで。


「・・・もう、いいんだ」

「でも、そんなの・・・間違ってるよ」


私は、くやしくて胸がいっぱいになった。私が本当のことを言ったら

解決するんだろうか?でも道哉くんはそれを望んでるの?

道哉くんのために何ができるの?

どうしたらいいんだろう・・・・。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


あれから私は思った。

道哉くんはどうして本当のことを言わないんだろって。

やさぐれてるの?瀬戸家の当てつけ?いや・・・・違う。


”「あいつ・・・泣いたんだ。」”


”あいつ”  もしかして、お母さん?の・・・・ため?



風早くんならどうするだろう?


”「がんばれ!」”いつも笑顔でそう言ってくれた。

”「黒沼の役に立つのが俺の特権」”って。


爽子は気づいたら、携帯のボタンを押していた。





ピッ

「か、風早くん・・・?」

「爽子・・・・?」


「あ、あの・・・」


1ヶ月ぶりの風早くんの温かい声・・・。私はそれだけで涙が出そう
になる。ああ・・・ほっとする。


「ありがとう」

「え?」

「電話してきてくれて・・・ありがとう」

「そんな!私の方こそ・・・っ」


涙があふれて、上手く喋れない。こんな優しい人いない。

実は、会えない1ヶ月の間、風早くんは毎日小さな花を

うちの前に届けてくれた。”気持ちは変わらないよ”という

メッセージのようだった。


「お花・・・沢山ありがとう。ガーデンが出来たよ。今度、見に来て

 下さい。」


「え?爽子に会えるの?」

「こんな私でよければ・・・会ってもらえますか?」


後からお母さんが風早くんに会っていたことを知った。あのことを

知られたと思った時、風早くんが離れていってしまうって思って泣い

たの。でも毎日欠かさずお花を届けてくれる風早くんは変わらないって。

きっと変わらないって・・・。


「・・・爽子が俺に会えない理由は分かってたよ。それでも・・・俺のこと

 嫌になったんじゃないかって・・・・不安になった。ヘヘ」

「そ、そんなわけないよ!!風早くんを嫌いになることなんて絶対ないよ!」

「うん・・・俺も。だから、何があっても爽子は爽子でしょ?」


風早くんは神様みたいな人だって、ずっと思ってた。そしてお日様みたいな人。


「もう、ちゃんと話してくれるね?」

「・・・はい。」


変わらないこの気持ちだけは。そして、

信じていいんだよね。風早くんの気持ち。


まだ季節は冬だったけど、私の心には春の花が咲き始めていた。







あとがき↓

やっと暗い所から脱出!あと1、2回で終わりです。なんとか
まとめられるかな〜ちょっと不安です。
それでは良ければ続きを見に来て下さい。
OVER the TEARS 13