After Glow 5

オリキャラ主人公、爽風CP揺らぎなし。爽子は新任の高校の保健の先生、風早は大学を
卒業して家業を継ぐという設定。原作高校卒業後のパラレルです。そしてただいま、風早
アメリカ在住中。


☆ 爽子に少しずつ心を開き始めた九条。そんな九条の心情とは・・?



この話は ★ After Glow 1 2 3 4 の続きです。


















だいたい最初からおかしかった。あの人といると調子が狂う。今の時代に生きてないよ
うな天然記念物級の古風な雰囲気や周りに流されないような信念を感じる瞳。暗そうな
見た目に反して意外と前向きな性格。初めて会った時”役に立ちたい”と言う言葉にイラ
つきを覚えた。


”『じゃ、やらせろよ』”


投げやりに言った言葉。俺の周りには偽善的に ”あなたのため””あなたの役に立つ”と
その言葉を使う人間が多い。それが将来的に俺の役に立つことなのかもしれないが、そ
こに俺の意思はない。全てあいつの名誉のため。そんな人生に嫌気がさしていた。でも
そんな俺から目を逸らさず、震えながらも立ち向かおうとしていた彼女。環境柄なのか
胡散臭い人間を見抜くのは得意で、そんな奴らの鼻をへし折りたい感情にいつも駆られ
てしまう。でも”役に立ちたい”なんて偽善的な言葉を投げかけられながらもなぜか彼女
には嘘がないと思った。汚いものを一切感じない透き通るような瞳・・・
目を逸らしたのは俺の方だった。


それからは彼女を無視できなくなった。そればかりかいつの間にか昼下がりのこの時間
を待っている自分がいた。


「あの・・・」


今日もその訪問者は来た。俺はいつも通り、視線を本から外さずに彼女を迎える。この
日の彼女はなんだかワクワクしているような気がした。


「もし・・もし、嫌でなければなんだけど・・」
「?」


そしておずおずと後ろにあるものを前に出す。それはティーポットとカップのセットが
置かれているトレーだった。


「へ?」


九条は思わず本から視線を外し、その光景に目を見開く。爽子はティーポットからお茶
を注いだ。そして頬をポッと赤らめて九条に差し出した。


「保健室の側で育ててる茶葉なので・・よければ飲んでみませんか?身体にいいので」
「へぇ・・そんなの育ててたんだ」


そう言って九条はそのお茶を一口含むと目を瞑ってその味を堪能した。躊躇なく飲んで
くれる九条に爽子は目を輝かせる。


「あ、これエビスグサかな」
「えっ!?」
「”けつめいし”という漢方にも使われるヤツ。一般的にはハブ茶だっけ」
「わわっ・・どうして知っているの??」
「別に、一般的な知識」


そう言って平然と飲み干す九条を爽子はまじまじ見つめる。頭がいいと聞いていたが、
学習的なことだけではなく雑学などの知識も豊富なのだと爽子は感心した。


「で、どうしてこれ?」
「あ、あのっ・・前回ここでお話していた時に喋りづらそうにしていたので口内炎がで
 きているのかなぁ・・と勝手に思って」
「なるほど。そんな効能があるんだ。知らなかったな」


興味深そうに言う九条を爽子は嬉しそうに見つめる。九条はそんな爽子に気づき、思わ
ず照れ隠しに鼻に手を掛けて眼鏡を上げる。


よく見てるな・・と思った。確かに口の中には口内炎があってまだ痛い。彼女の観察力
に驚く。目立たないけどさりげなく役に立つことを考えているような気がする。またそ
れが押し付けがましくない。


「・・でなんでしょうかね?」


まだじっと見られていることに気づいた九条はちらっと横目で見て言うと、爽子はハッ
としたように身体ごと反応し、頭をペコペコっと下げる。


「ご、ごめんなさいっ・・怖い思いをさせてしまって。あの、おいしいのかな・・・と
 思って」
「まぁ、美味しいとは言えないけど飲めなくもないですよ。それ趣味なの?」
「そうなんです・・植物を育てるのは大好きで。ちなみに薬草クッキーなどもあります」


そして後ろからクッキーが出てきた。おずおずと出す姿に九条はふっと微笑む。


「だったら最初から出してよ。苦いお茶が緩和されるでしょ」
「そ、そーだよね。でも無理やりは良くないかなぁと思って、まずはお茶からどうかと
 あっ・・・」


爽子がぎこちない様子でそう話している時に九条はさっと爽子の手に持っているクッキー
を取り上げて口に入れた。


「うまっ」
「・・ほんと?」


爽子はぱぁぁと顔を輝かせて”もっとあります・・っ!”とさらに違う種類のお菓子を出
して来るのでいつの間にかミニティーパーティーになっていた。


(この人、今授業中だって忘れてんじゃねーの?)


本当にクッキーはうまかった。パクパク食べる俺を嬉しそうに見つめる黒沼爽子。
メンドクサイと思っていた学校が嫌でなくなっている。


「・・先生って不思議な人ですよね」
「そ、そうかな?」
「なんでこんな俺に親身になってくれるんですか?ま、”お悩みBOX”があるぐらいだから
 誰にでもおせっかいなんだろうけど」
「知っているの?BOXがあること」


爽子は手を胸の前で組み、目を輝かせながら言う。


(・・ん?なんでそんなキラキラなんだ?)


「ま、一応。時々保健室の前を通るし」
「そうなんだ・・。あの、もちろん生徒さんは皆さん大事だけど、九条くんは・・特別かな」
「え・・・」


ドクンッ


「・・どうして?」
「えっと・・その、見てしまったからです」
「何を?」
「それは・・あの、内緒です」
「はぁ?」


恥ずかしそうに頬を染める彼女に俺の心臓は高鳴っていく。ドキドキと感じたことない
胸の動悸を感じている。白い肌に黒い髪。雰囲気が貞子と言われればそうだが、彼女の
笑顔を見てしまったらとても貞子に見えなくなってしまった。


(貞子というよりむしろ・・・)


「そ、それじゃぁ、もう行くね。保健室に誰か来てるかもしれないので・・・あっ!!」
「わっ・・あぶなっ」


その時、草に絡まってこけそうになった爽子を九条はさっと抱き留める。


「ーっ!!」


一瞬、真っ白になった。


心臓の音が伝わりそうなほどドキドキしている。彼女の甘い匂い、柔らかい白い肌、さら
っとした真っ直ぐな髪。触れたらもっと・・っという欲望が生まれた。


「先生・・・」
「ご、ごめんなさいっ・・ご迷惑を」


ぎゅっ


「く、九条くん?」


もっと触れたいと言う欲求が生まれる。俺は無意識に彼女の身体を抱いていた。そんな自
分に戸惑いながらも心地良い感覚に包まれる。


九条はふーっと一息吐くと爽子の身体をそっと離した。


「気を付けてください」
「ごめんなさい・・その、ありがとう」


彼女は心から感謝するように深々と頭を下げると、恥ずかしそうにその場を後にした。俺
は気持ちを落ち着かせるために再び木陰に腰掛けて本を手に取った。でも当然ながら本の
文字は頭に入らない。


俺はあの人が好きなのか?


初めて会ったタイプの女がただ単に珍しいだけなのだろうか?先ほど感じたドキドキが恋
がどうかはまだ分からない。でもこの時間を心地良いと思っていることは確かなことだっ
た。九条は爽子の置いていったクッキーを見てくすっと笑みが零れた。


「・・変な女」


貞子というよりむしろ、”聖母マリア”的に見えてしまう俺は重症かもしれない。


「っ!!」


その時、がさっと何か音が聞こえた。九条は咄嗟に振り返った。


「誰だ?」


しかし辺りを見渡しても何の姿も見えない。九条は不信感を感じながらその場に佇んでいた。






After glow 6 















あとがき↓

九条くんは精神年齢も見かけもかなり大人な設定。でも高校生みたいなかわいいところ
出したい。理性が効かなくなっていくという(笑)年下萌えですよ、今回は。爽子は何
でも当てはめられるので面白い。風早の気持ちになるよ。
いやぁぁ・・しかし君トド24巻にまだハマり中。二次創作意欲がモクモク湧きます。
今のうちに一気に書くぞ!!