After Glow 13

オリキャラ主人公、爽風CP揺らぎなし。爽子は新任の高校の保健の先生、風早は
大学を卒業して家業を継いでいるという設定。原作高校卒業後のパラレルです。


☆段々、変わっていく九条。そして爽子の周りも変わり始めていた。 


この話は ★After Glow 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 の続きです。













After glow 13










「・・お前」


九条は保健室に居る先客に明らかに顔を歪ませた。あの事件から一週間が経ち、田島は
退職した。九条は何も言うつもりはなかったのだが田島はさすがに教師として考えるも
のがあったのだろう。岸部に関してはあれからいつも通りの生活に戻り、九条に対して
は敵意を感じることはなくなった。敵意というよりむしろ・・・


「あっ、九条くん、いらっしゃい!」
「いらっしゃ〜〜い!九条くん」


そこには黒沼の横ですっかり常連客のようにお茶を飲んで寛いでいる岸部がいた。
妙に好意的になっている。俺だけではなく黒沼にも・・・。


「なんで居るんだよ」
「別にいいじゃないですか。九条くんだけの貞子ちゃんってわけじゃないし」
「・・・」


正直何も言う気にならない。あれからすっかり開き直った岸部を彼女は躊躇もせず受け
入れる。あんなことされてもやはり天然聖母マリアだった。


(−んだよ、”貞子ちゃん”って)


「美味しいね!このパウンドケーキ。貞子ちゃんの新作?」
「そ、そうなの。喜んでもらえて良かった」
「お、その笑顔いいねぇ」
「/////」


元々こんな性格だったのかもしれない。岸部はまるで憑き物が落ちたように殻を脱いで
明るくなったと言うか、正直、めんどくさくなった。


「九条くん、まぁまぁ、貞子ちゃん独占してるからってそんな顔せずに」
「お前、いい加減にしろよ」
「!!」


九条が低い声でひと睨みすると調子に乗っていた岸部はビクッと怯える。気が弱い性格
はやはり変わらないらしい。岸部は少し拗ねたように俯き加減で語り出した。


「・・・あのことは悪いと思ってるよ。でも人間って羨望が恨みに変わったり、その逆
 だったりと感情がめちゃくちゃになったりするじゃない。僕はあの時、”九条”と言う
 人を負かすことだけしか目標がなかった。でもそれは裏を返せばそれほど九条くんに
 執着していたわけで・・つまり憧れなんですよっ!!」
「気持ち悪りーよ。まじやめてくれ」
「ま、そんなこと言わないで、だって九条くんかっこいいんだもん。ねぇ?貞子ちゃん」
「うんっ・・かっこいいよ!!」
「っ・・・!」


拳を握りしめ、力いっぱい同意してくれる彼女を凝視できずに思わず目を逸らす。


(やばい・・////)


最近、爽子の前で上手く表情を作れなくなった自分を自覚している九条は取り繕うよう
に視線を泳がせて言った。


「ま、反省していたらいーんじゃない」
「うんっもう、絶対あんなことしません!じゃ、これからも保健室の住人ということで
 よろしくお願いしま〜〜す」
「お前がいるなら来ないわ」
「そんなこと言わないで〜〜九条くんっ!!」


その二人のやり取りを爽子は微笑ましく見ていた。誰も寄せつけない雰囲気だった九条
が人と関わりを持ち出して、優しい目になっていることが心から嬉しかった。そんな彼
の少しでも支えになれたらと思っているがいつも助けられている。高校生とは思えない
ほどしっかりしていて、いつの間にが頼っている自分がいる。でも・・・


「九条くん・・・いつでも保健室は開いているからね」
「!」


きっと心に何かを抱えている。その荷物を少しでも下ろしてもらえるように、助けにな
りたいと爽子は思った。桜の木の下で初めて出会ったあの風景を思い浮かべて自然に笑
っている爽子を見つめていた九条も穏やかな表情で頬を緩める。


「・・放っておけないですからね。天然聖母マリアは」
「え?・・マリア?」
「ここは性少年の巣だってこと、まだ分かってないしね」
「え??」


(俺たちも含め・・ね)


横目で意地悪そうに言う九条に岸部は腹を抱えて大笑いをしている。意味が分からず眉
を顰めている爽子を九条は優しい眼差しで見つめた。



* *


「・・今となっては分かるような気がするな」
「・・」


保健室の帰り際、廊下の先を歩く九条に追いつくと隣で岸部がぽつりと言った。隣に並
ばれたことに九条は嫌悪感を感じながらも耳を傾けた。


「何で九条くんがあの人に絡むのか」
「!」


そして岸部はあの事件の時、九条が去り際に残した言葉を思い浮かべて微笑んだ。


”『こんな人もいると思ったら、世の中捨てたもんじゃないだろ』”


「・・裏切った奴を受け入れるとか、信じようとするとかまじ、偽善者かって思うけど
 ・・・やっぱ嬉しかったんだ。自分がどんな人間でも受け入れてくれそうで」
「・・・・」


なぜだろう・・あの人と関わると誰もが心が温かくなる。分かる奴だけが分かればいい
と思っていた。でもそんな彼女を”分かる奴”が増えてきた。それが嬉しいようで焦れて
いる自分がいる。これが”嫉妬”と言う感情だと九条は後から気づくことになるのだが。


(ま、寝顔を知ってるのは俺だけだし)


なんて子どもじみたことを考えていた俺は、まだ彼女に関して何も知らなかった。もし
かしたらもっと前からそんな彼女を見つけて、誰よりも大事にしている奴がいるかもし
れいないことを心のどこかで畏れながらも見ないようにしていただけなのだ。自分と出
会う前の彼女を、そんな彼女を知っている人間の存在を消し去りたい。理不尽で変態じ
みた思考が自分の中にあることにただ、驚いていた。


「さて、次は山野井の授業だし、出るか」


思考をストップさせるかのように独り言を呟き、九条は教室に向かった。


「・・九条くん」
「!」


その時、背後から名前を呼ばれ九条は振り返る。そしてそこに立っていた人物に驚きの
目を向けた。







After glow 14 














あとがき↓
すごく久しぶりの更新になりました・・・続きを楽しみにしてくれている人のために!
読んでもらえたら嬉しいです。