「Once in a blue moon」(104)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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98 99 100 101 102 103 の続きです。 

☆ 蓮の語りです。ほぼ一人称でいきます。蓮が体験した手術中の出来事とは?












blue moonを見ることが出来たなら、奇跡が起こるような気がしていた。
だけどそれは苦しみから逃げたいという願懸けのようなものだった。
そんな俺に奇跡を起こしてくれたのはゆづだった。


あの夜、一緒に見た蒼い月を俺は忘れることはないだろう。
この先もずっと・・・






・‥…━━━☆ Once in a blue moon 104 ‥…━━━☆
















「俺はあの日・・気付いたら翔太の家の方まで来ていたんだ」


蓮は事故の日の記憶を追って、一つ一つ丁寧に話し始めた。それは翔太と爽子が初め
て聞く、蓮が居なくなっていた時の様子、心情だった。
蓮の長い話が始まった。


* *


すべてを捨てて日本を出た。あてのない旅を人生のうちいつかしてみたかったのもあ
る。でもその時はこの世から消え去りたい、そんなボロボロな状態だった。雄大な景
色、歴史的建造物、海外は魅力的なものであふれているのにどこにいてもぽっかりと
心に穴が開いたようにただその場にいるだけだった。食べて寝て、ただ生きるだけ。
それなのに旅をしていてふと思い出すのは北海道で過ごした日々。消そうと思っても
ゆづや翔太、そして彼女の笑顔ばかりが浮かんでいた。そんなある日、会社から手続
き関係で緊急に戻って欲しいと言われ帰ることになった。あの時はやはり辞めてくる
べきだったと後悔したが、今から考えたら何か大きな力が働いて呼び戻してもらった
ような気がした。もう逃げるなよ・・と。


そして向き合う覚悟もないのに仙台から北海道に来ていた。勝手にいなくなり、会え
るはずもないのに、心のどこかで顔が見たかった。俺にとって3人はかけがえのない
存在であること、離れれば離れるほど、会いたくなる、そんな思いが膨らむというこ
とを実感しながらも認めるのが怖かった。考えてみればこれほど深く人間関係を築い
たことはなかった。こんなに人に執着する自分に戸惑っている。執着すると人が離れ
た時の辛い思いを知っているからだ。俺は無意識に人を遠ざけていた。幸せが続くと
焦燥感に駆られる。自分が撒いた種で翔太達は離れていくだろう。受け入れなければ
ならない現実なのになぜこんなに苦しいんだろう。
俺はこの風景を見るのは最後だと感慨深く公園を歩いていた。そんな時・・・
暗い闇に包まれた世界から一気に目の前に現れた黄色い天使。そこだけ光り輝いてい
るように見えた。勝手に体が動いていた。そこからは全てがスローモーションだった。


何だ・・・これは??


現実か夢か分からない。そうか、車に引かれたんだ。不思議に痛みも何もない。
俺は死んだのか?それもいいや・・とどこか達観している自分がいた。この世から消
えたい、これ以上誰も傷つけたくない、なぜこの世に生まれてきたのだろう?生きる
意味があるのか?価値があるのか・・・?そんなことばかり考えていた旅。


傷つけたくないと思った。あいつだけは・・傷つけたくなかった。
ごめん・・ごめんな、翔太


翔太は全部分かっているような気がしていた。気づいていてそれでもなお、俺を信じ
ようとしていたとしたら・・それほど辛いことはない。でも例え気づいていないとし
てもいづれあいつを苦しめることになる。だからこれでいいんだ。


・・・これで楽になれるんだ。もう、楽になりたい。


本気で思っている自分がいた。逃げたくなかった。この世に起こるすべての出来事か
ら目を背けず生きていきたかった。だけど今回ばかりは逃げるという選択しか出来な
かったんだ。誰に許しを乞うわけでもないのに心のどこかで罪悪感を持ちながら楽な
方に飲み込まれようとしていた。誰に許しを・・・俺はずっと翔太に許しを乞うてい
た。心の中でずっと・・・未練がないわけではない。このまま会えなくなる人の顔が
次々浮かび、胸が苦しくなる。でも、もうこれ以上苦しみたくなかった。


・・・っっ


その時だった。一筋の強い光が差し込んできた。あまりにも眩しくて俺は手で翳す。
何が起こったのか分からなかった。楽になれると思っていたのに急に体が痛みを感じ
始めた。


何だこの痛みっ・・


全身を走る激痛にすべての思考がストップした。痛みに耐えるように目に力を入れ
る。そして緊張と弛緩を繰り返す中、薄ら目を開ける。するとそこに現れた人物に
俺は目を見張った。


『・・・ゆづ!?』


やはり俺は死んだのか?でもこの痛みは・・?


『ゆづ・・?どうして・・』


ゆづの周りだけ光に包まれていた。光の中のゆづが泣いている。泣きながらも顔を
上げて俺に笑いかける。そして小さな手を俺に差し伸べてきた。黄色いワンピース
が揺れている。ぎゅっと握られた俺の手。その手にしっかりとした温もりを感じた。
夢なのにどうして痛みや温もりを感じるのだろう?今の夢はこんなにリアルなのだ
ろうか?動転しながらもそんなことを考えていた俺に何かが流れ込んできたのを感
じた。小さな手から俺の身体に流れ込んできたもの。それは・・・ゆづの感情。


そして初めて聞こえてきた声。


『れん・・・』


ゆづの声だ。
ゆづが口を開いて俺の名を呼びかける。なんて可愛くてきれいな声なんだろう・・・
でもその声は寂しそうだった。ゆづが俺の手を掴む。小さな手が一生懸命俺を引っ張
る。そしてゆづは言った。


『・・いかないでっ』


現実から逃げようとしている俺をゆづは呼び止めた。そして流れ込んでくる感情。


あ、そうか・・・


ゆづはずっと怖かったのだ。気持ちを言葉にすると人を傷つけてしまう。それは俺
の感情そのものだった。俺の心をそのままゆづは同調してしまっていた。波長がピ
ッタリ合ってしまったのだろう。生まれた時からなぜか特別だった。血の繋がりも
ないのに不思議に一緒にいると穏やかな気持ちになれた。それはゆづも同じだった
のだ。そこに見事にはまってしまった。俺の苦しみを同調するたびに気持ちを言葉
にすることに恐怖を覚えた。


『ゆづ、ごめん・・俺のせいだ』


そして俺の苦しい感情さえ包み込もうとする純粋なゆづの言葉・・・
ゆづは天使のような笑顔で再び言葉を放つ。


『れん・・だいすきっ・・』


汚いものが浄化されていく。その感覚はゆづから感じられるもの。そしていつも黒沼
爽子と会った時に感じるものだった。


『ゆづ・・?』


俺は泣いていた。自然に溢れた涙をゆづは小さな手で拭ってくれる。俺はぎゅっと小
さな身体を抱きしめた。この温かさをなくすことは出来ない。俺は楽になろうとして
いた。それは、もうこの小さな存在と会えなくなるということだ。ゆづは俺を助けに
来てくれたのだ。


『ゆづ・・ゆづ、ありがとうっ・・』


涙が止まらなかった。もし、俺がいなくなったら大切な人たちを悲しませることにな
ることにやっと気づいた。自分のことしか考えていなかった。
そしてゆづはぎゅっと俺の手を引っ張ると二人の身体がふわりと宙に浮いた。


(え・・・?)


視界が暗くなり、身体が軽くなる。その時全身の激痛がなくなった。今どこにいるの
か、どの時空を彷徨っているのかも分からない。分かっているのは今俺の中に確かな
”生”を感じているということ。


目を開けた時、自分がいる場所は明らかに病室ではなかった。



* *



『ここ・・どこ?』


隣のゆづは俺の手を握ったままにっこりと笑う。周りを見渡すとそこは丘の上に大き
な木が一本、その丘は一面のタンポポに覆われていた。俺たちは大きな木の下にいた。
まるで夢の世界なのに夢じゃないという実感が湧いていた。ここに俺がいてゆづの温
もりを感じている。これが現実。そして、夜空を見上げると・・・


『−あっっ!!」


夜空にぽっかりと浮かんでいる蒼い月。そう、blue moon だった。


once in a blue moon


俺はやっと見ることが出来た。奇跡を願っていたあの頃とは違う。確かにある手の温
もりと胸にある熱い想い。今自分の中にあるもの、それこそが俺の奇跡だった。







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あとがき↓
ゆづ×蓮は次で終わり。不思議過ぎるけど許して・・・っ。手術中に翔太が感じた光は
ゆづの光だったということです・
※ 100話の拍手コメントを頂いた方、以下のコメント欄にお返事させてもらいます。
遅くなってすみません。