「Once in a blue moon」(105)

※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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98 99 100 101 102 103 104 の続きです。 

☆ ゆづと一緒にやってきた場所に浮かんでいたblue moon。それはずっと蓮が見たいもの
  だった。












・‥…━━━☆ Once in a blue moon 105 ‥…━━━☆













ずっと見たかったblue moon 神秘的で吸い込まれそうな蒼。”once in a blue moon ”
滅多にない、稀なという慣用句。だからこそ見ることができたなら何かが変わると信
じていた。その蒼は奇跡を起こしてくれると。今、まさに奇跡が起こっていた。


今、俺たちは大きな蒼い月に包まれている。


すーっと胸のもやもやが消えていくように、自分の存在を感じている。このままこの
世からいなくなってもいいという投げやりな感情がない。ゆづが連れてきてくれたの
だろうか・・・?
ハッとして隣に目をやった。俺はかなり大きな声で叫んだようだ。隣で体育座りをし
ているゆづがきょとんとした表情で俺を見上げていた。


『・・あ・・蒼い月だよ。ほら』


夜空を指さすと、ゆづも月を見上げる。そしてぱぁぁと顔が輝いた。ゆづは再び口を
噤んでしまった。まるでさっきの声が幻かのように。でも幻といえば今、この場も夢
か現実か分からない。夜空の輝く星と、蒼い月に囲まれて、タンポポの丘の上に二人。
夢としか思えない光景だが、先ほどのゆづの声は夢じゃない。


『なぁ、ゆづ・・・もう大丈夫だよ。もう苦しくない・・・だってゆづが迎えに来て
 くれただろ』


俺は小さくて純粋な胸をどれだけ傷つけてきたのだろう。翔太や爽子だけではない。
誰よりも傷つけてはいけない人を傷つけていた。ゆづの純粋さ、清らかさに俺は心の
どこかで救いを求めていたのかもしれない。その想いを真っ直ぐ受けてしまったのだ。


『苦しかったのは・・気持ちを伝えるのを怖がっていたのは俺が弱かったからだ。
 でも、もう逃げないよ。ゆづの前から消えたりなんかしない』


純粋な目が瞬きもせすに真っ直ぐ注がれる。蓮は愛しそうに結月を見つめると、そっ
と手で頬を包み込み、しっかりと目を合わせて言った。


『言葉は人を傷つけるだけじゃない。ゆづも好きな人がいるだろ?』


結月は蓮から視線を外さずコクンと頷いた。


『俺も大切な人がいる。ゆづもそうだし・・ゆづのお父さんも、お母さんも・・大切
 だ。その人たちに気持ちを伝えたい、通じ合いたいって思うよ』


不思議だった。長い時を経てこの思いに至ったのではなくて、きっとこの一瞬が俺を
変えた。俺は今、初めて翔太に向き合おうと覚悟を決めていた。


『言葉は感覚だけじゃない、人と繋がる大事な手段だ。・・さっきゆづに名前を呼ん
 でもらってものすごく、嬉しかった』


蓮の優しい眼差しに結月は大きな目を揺らした。


『ゆづにはこれからもっと沢山の人達と通じ合って欲しいんだ。通じ合う喜びを知っ
 て欲しい』


自分自身に言い聞かせるようにゆづに言っている。でもあの声を誰よりも聞きたい人
たちがいる。声を届けて欲しい・・心からそう思った。


『もう・・大丈夫だよな。一緒に、勇気を出そう』


すると、しばらく蓮を見つめていた結月は天使のような笑顔になり蓮の手をぎゅっと
握り締めた。蓮も優しい目で応える。


『・・っ・・れ・・ん』
『ゆづ・・』


二人はふんわり笑いあう。初めての言葉が自分の名前でいいのかと思いながらも、あ
まりにも幸せでその想いに抗う術なんか知らない。ゆづの鈴のなるようなかわいい声
は生きているという喜びを感じさせてくれた。夜空に浮かぶ蒼い月、二人の世界、ま
るで俺たちは小さな星にいるような感覚だった。その世界では何の勇気もいらない。
ゆづが勇気を出すのはきっと外に出た時。


『もう・・こわく、ない?』


結月は蓮の服をくいくいと引っ張ると、蓮の顔を覗き込む。
この子はどこまで愛にあふれている子なんだろうと体が震えるほどの感動を覚える。
もう、ゆづを巻き込みたくない。ゆづには光の世界を歩んで欲しい・・心からそう思
った。蓮はポンポンと頭を撫でると、柔らかく微笑んだ。


『もう怖くない。ゆづは?』
『・・・れんがいるから、こわくない』


胸に広がる温かい気持ち。きゅっとした痛みさえ感じる。
その真っ直ぐな想いがたまらなく愛しくて、この世に自分の存在価値があることを信
じさせてくれる。決して消えてはいけない存在だと、ゆづが教えてくれる。


『ずっとゆづといるよ。ずっと見守っているから・・』


ゆづはにっこりと笑って頷いた。気持ちが通じ合う感覚を俺たちは言葉がなくても感
じていた。身近にこんな人間がいることでゆづは言葉を必要としなかった。母でも父
でもない。なぜか俺たちは通じ合っていた。もしかしたらその感覚を友達にぶつけて
みた時同じように通じ合わなかったことで勇気を失ったのかもしれない。だけど世の
中、そんな人間は少ない。だからこそ、俺たちは一歩踏み出さなければいけない。


『ゆづ・・ここに連れて来てくれてありがとう。blue moon 一生忘れない』
『れんと、いっしょだから・・これたんだよ』
『そっか・・』


二人で眺めた夜空の蒼い月と、タンポポの丘。この光景はずっと蓮の心に残っていく
ことになり、これからの蓮の人生に勇気をくれる出来事となる。



もう自分が存在することを否定したりしない。
俺は blue moon とゆづにそう誓った。






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あとがき↓
カウント5ですね。ゆづと蓮と蒼い月はこの話を書こうと思った時に一番に浮かんだ
光景でした。二人で奇跡を一緒に見て蓮が癒されるという最後を考えてました。ただ
どんな風にこの光景に持っていこうかなぁと思ってましたが、なぜかタイトルと一緒
に浮かんだエピソードでした。本当に書ける日がくるなんて信じられないですね。こ
の漠然とした話を実際書けて嬉しいです。というわけで後、5話、よろしくお願いします。