「Once in a blue moon」(101)

※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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98 99 100 の続きです。 

☆ 爽子の気持ちが分かった蓮が爽子に伝えたいこととは・・・?蓮目線続きます。












・‥…━━━☆ Once in a blue moon 101 ‥…━━━☆













 ” 一緒に居たいのは翔太なんだよな ”



爽子は涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すように手で覆うと嗚咽を漏らしながら勢いよ
く頭を思いきり下げた。


「ご・・ごめんなさい・・いっ・・」


泣き崩れながら謝る爽子を蓮は目を細めて見つめる。


恋愛に鈍感と言われてる彼女だが決してそうではない。俺の気持ちを受け止め、同じ気
持ちで返そうとしてくれたのだから。本気で向き合ってくれたのだから。
抱きしめることは出来ない。感情のまま手を伸ばしたくなるという男の本能が出ないと
言ったら嘘になる。やはり好きなのだから。でも・・・


(・・参ったな)


まさに降参というのはこういうことだろう。そんな本能よりも今俺の中にあるもの。
それは腹ん中がじわっとしてぽかぽかするようなそんな感覚。言葉で形容できないけど
恋愛を超えた何かのような。こんなに人から大切に思われたことはなかった。親さえも。
もし自分以外の人間なら彼女の告白を同情だと思うだろう。でも俺は彼女を分かる特別
な人間なのだと言う自負がある。”好き””嫌い”そんな感情で片付けられない想いがこの
世にあるということ。俺は彼女に教えてもらったような気がした。


(ある意味翔太より特別じゃん・・)


蓮は心の中でそう呟いて小さな笑みを浮かべた。


”『人の幸せを自分のことのように願う爽子にずっと憧れてる』”


翔太の言葉が頭を過る。そんな彼女に俺は心を動かされた。きっと誰もが動かされるだ
ろう。心が震えるだろうと思った。その彼女の運命の相手は一人だけ。出会ってから今
もそのことに何の疑いもない。二人を見ていると温かい気持ちになり、人生は捨てたも
んじゃないって思えた。翔太の隣で笑う彼女がずっと好きだった。


「謝ることなんてないだろ。それでいいんだ。嘘だと思われるかもしれないけど、今ま
 であんたとどうこうなろうと思ったことはない。ただこの気持ちを持ったことが苦し
 かった・・・」


爽子はぎゅっと唇を噛んでぶんぶんと頭を横に振った。


「嘘なんて・・思わないよ、絶対に。誰よりも、翔太くんとの幸せを願っていてくれた
 のは蓮さんだから」


蓮は一生懸命否定してくれる爽子にほんの少し口角を上げた。


もう自分に嘘をつくのはやめよう。一生懸命俺に向き合ってくれた彼女のように誠実に
真っ直ぐ向き合いたい。心からそう思った。


「・・あんたの前でもう、嘘をつくことは出来ない。いや、最初からそうだった。全部
 見透かされているようで、怖かった」
「で、でも・・私霊感とか特殊能力はないんです!あればいいなと願ったことは何度も
 あったのですが・・」
「・・・」


しーん・・


「ぷっ」
「??」


”あれ?なんか変なこと言ったかな”と焦っている彼女に思わず吹き出す。彼女の全てが
愛しいと思う。


「二人が幸せであって欲しい。今までもこれからもその思いは変わらない・・。でも」


蓮はそこで言葉を区切ると、遠い目をして言った。その時の苦しさを思い出すように。


「・・ずっと苦しかった。正直、出逢わなければ良かったと、思ってた」
「・・・!」


蓮のいきなりの告白に爽子は真剣な表情になる。
そこには初めて正直に気持ちを伝えようとしている蓮の姿があった。


「翔太とあんたが願う俺の幸せが重くのしかかってくる。想いに応えようと思えば思
 うほど苦しくなっていく。自分に嘘をつくことが出来ずに・・」


想いが暴走するということを初めて知った。制御できない想いが勝手に動き出す。俺
は何度か彼女に触れようとしていた。初めて暴走したのは美穂が入院していた時だっ
た。彼女は帰る前の日、美穂に会いに来てくれた。待合室で泣いている彼女を見た時
俺は無意識で手を伸ばしていた。


『−さわこちゃん!!』


どくん・・っ


(見られただろうか・・)


病室から現れた美穂に一瞬、凍り付いたように動けなかった自分を隠すように作り笑い
をすると二人を病室に誘導し、”会社に電話してくる”とその場から逃げた。


触れるなんて・・できるわけがないのに。


「・・苦しかった」


爽子は初めて見る蓮の姿、表情に心奪われるように見つめた。
そこにはまるで少年のような目をして、素直に感情を出す蓮の姿があった。


「出会いを後悔するほど・・苦しかったんだ」


あの時のことは夢だと今も思ってる。触れた柔らかい肌、艶やかな長い黒髪、すっぽりと
俺の中に納まる華奢な身体の感覚がリアルに残る。夢だと思わなければその後も翔太と一
緒にいることは出来なかっただろう。例え、夢であってもその感覚はたびたび俺を襲い、
罪悪感に苛まれていった。


”『爽子さんのこと・・好きなんでしょ?』”


どれだけ責められても知られるわけにはいかなかった。翔太を苦しめたくなかった。
きっと一時のもので気持ちは風化していくはずだ。仙台の時にそう思っていた想いが彼女
を前にして膨らんでいく。簡単な想いではなかった。簡単な繋がりじゃなかった。


「それでも離したくなかった。翔太も・・あんたも」


蓮は爽子を愛しそうな眼差しで見つめる。二人の間をふわっと優しい風が吹き抜けた。
その眼差しは恋愛だけではない、すべての愛情を感じる目だった。


「でも・・今はその苦しみがない。もう、出逢わなければ良かったなんて思わない。
 だって俺たち、繋がってるだろ?」


そして、すべての苦しみから解放されたように平穏な表情で言った。


「・・出逢えて良かった」


翔太、ゆづ、そして彼女に会えたことを心から嬉しいと、そう告げたかった。
今何より伝えたかったのはこの言葉以外にないと思うから。その気持ちは彼女に届いて
いる。気持ちに形はない。でも感じることは出来る。


「・・うんっ・・私も」


今俺たちは通じ合っている。彼女の包み込むような優しい笑顔を見てそう思った。


そして蓮は最後に言った。


「・・名前・・呼んでいい?」
「え?」
「・・ずっと呼びたかったんだ」


きょとんっとした表情の爽子はすぐにキラキラした光の中、こくんと嬉しそうに頷いた。


”『−爽子』”



愛情を感じる蓮の声に爽子は満面の笑みを浮かべた。蓮は思った。この時の爽子の笑顔を
この先も忘れることはないだろうと。
人を好きになること・・・それは自然なことで、純粋なものなのだとゆづと彼女に教えて
もらった。そして自分を大切にすることも。



「ゆづ、ありがとう」


蓮は中庭の隅に、小さくても力強く咲くタンポポを見つめてそう呟いた。






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あとがき↓

そういうわけでやっと蓮爽編終わり。長かった・・・。やっぱり爽風CPは外せない。
夢の話はご想像におまかせします。さて後、もう少し。次はゆづの夢の話ですね。