「Once in a blue moon」(90)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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☆ 蓮はすべてを翔太に話そうと決めていた。初めて人に”伝えたい”と思った蓮の想いとは?













ゆづと見上げた夜空に浮かぶ蒼い月・・・bluemoon
一生見ることはないと思っていた。そっと隣を見ると、白い頬を照らす蒼い光、天使
のような笑顔。小さな温かい手。


俺はその温もりを一生忘れないだろう。その出来事はまさに・・・


once in a blue moon



・‥…━━━☆ Once in a blue moon 90 ‥…━━━☆

















”『もう、限界だった。お前たちの側にいること・・・』”


俺が言った拒絶する言葉に傷ついているのだろう。翔太の目が不安そうに揺らいでいる。
そんな翔太を感じながらも俺は話を止めなかった。


「こんな風に翔太に向き合うのが怖かった。だからずっと見ないようにしてきたんだ
と思う」
「・・・」
「でも今は伝えたいと思うんだ。俺、人に何かを伝えたいと思ったのは初めてだ」
「蓮・・・」


そして蓮はしばらくの間の後、落ち着いた表情で翔太を真っ直ぐ見て言った。


「その勇気をくれたのは・・ゆづなんだ」
「!」


翔太の目の瞳孔が大きく開いた。伝わるかどうかなんて関係ない。俺が伝えたい・・
心からそう思ったんだ。


* *


ずっと俺は暗闇の中にいた。そんな俺に光り輝く太陽はあまりにも眩しかった。だか
らこそ憧れた。何が何でも冒したくなかった光。それは神への冒涜にも思えた。その
光をずっと見続けたかった。心からそう思っているのに願えば願うほど、どんどん海
の底深く堕ちていく。必死でもがけばもがくほど堕ちていった。


それでも守りたかったもの・・・


「ゆづのことを話す前に、話したいことがある」

「・・・・」


翔太は何も言わずに真剣な目を蓮に向けた。蓮の心が温かくなっていく。


(翔太・・・)


いつも翔太はそうだった。どんな話でも一生懸命向き合ってくれる。向き合えなかっ
たのは俺の方だ。その純粋さにどれだけ助けられてきたのだろう。そしてどれだけ傷
つけてきたのだろう。それなのに今からもっと傷つけるのだと思うと全てを伝えるこ
とが良いことなのか分からなくなる。でも俺はその純粋で真摯な瞳に応えなければい
けない。こんな俺を信じ続けてくれた翔太への誠意だから。


「正直・・・お前たちに会う覚悟ができて帰ってきたんじゃないんだ。会社の手続き
 き関係でどうしても仙台本社に出向かないといけなくなってさ」
「ーそうだったんだ」
「だから辞めるっつったんだけど・・」
「でもなぜこっち(北海道)に?」
「・・・」


蓮は複雑そうな顔で視線を泳がせると、表情を見られないように手で顔を覆う。そし
て言いにくそうにくぐもった声でぼそっと呟いた。


「・・覚悟がないのに・・会いたいなんて最低だよな」
「え・・・」


そのまま沈黙が走る。蓮が顔を上げると憂いを含むせつない表情で一点を見つめてい
る翔太の姿があった。そしてゆっくりと蓮の方に視線を向けて言った。


「・・・爽子に?」


まるで時間が止まったように二人の間に静寂が流れた。翔太の射抜くような目を見つ
めながら俺は思わず息を止めていた。この光景を心のどこかで想像出来ていたような
出来ていなかったようなまるで現実ではないような気持ちで翔太に向き合う。
蓮はふーっと深く息を吸い込み、翔太から視線を逸らさず言った。


「そうだな・・・会いたかった」
「・・・」


翔太の射抜くような強い視線が少し揺らいだ。


「でも一番会いたかったのは・・・翔太、お前だよ」
「えっ・・」


そして今度は翔太の大きな目が動き、コロコロ変わる翔太の表情に蓮は少し笑みを浮
かべた。


「色々なところを旅して、日本では出来ない経験がいっぱい出来た。感動するたびに
 話したい、分かち合いたいって思うのはいつも・・翔太だった」
「蓮・・・」


蓮はふっと笑みを浮かべるとせつない目を桜の方に向けた。


「限界だった。旅に出る前の俺は完全にバランスを失ってたよ。壊れてたんだろな」


ずっと無口だった翔太がぼそっと低い声で呟いた。


「・・俺のせい」
「え?」


蓮が驚きの目を向けると翔太は何とも言えないような哀しい目をして一点を見つめて
いた。蓮は体のどこかがズキッと痛むような感覚を覚えた。


(ちがう・・・心だ)


心が痛むのだと思った。この目をさせたくなくて俺は逃げ続けたのだ。光を翳させた
くなくて繕っていた自分。でもこれは背負うべき俺の罪。大事だからこそ逃げてはい
けなかったのだ。それをたった6歳の子供に教えてもらった。失うことが当たり前な
のではなく、諦めないことが何よりあいつらへの誠意だったということ。
誠意より何より自分が失いたくないとその時強く思った。



蓮は翔太と10年という長い年月を経て、やっと正面から向き合おうとしていた。






「Once in a blue moon」 91 へ



ひぇえー90話になっちゃった。最初はこんなつもりなかったけどやはりまとめられない症候群でした。
最後までお付き合い頂ける方、ご感想など・・・いつもありがとうございます。

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あとがき↓

そう・・よく考えたら設定で23歳の時に二人は出会い、今は33歳設定でした。結構
年とってるんです(笑)