「Once in a blue moon」(91)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 の続きです。 

☆ やっと本音で向き合う二人続く。今回は翔太目線です。

















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 91 ‥…━━━☆















出逢ったころから親友になれる予感がした。生まれも育ちも違う。性格もまるで違う
のになぜそう思ったのか分からない。ただ正直な男だと思った。そこに惹かれたのか
もしれない。でもその男は蔭の部分を持っているのを感じていた。たくさん辛い思い
をしてきたのだろう。そして仙台で一緒に過ごす中で知っていく蓮の苦しみ。絆の強
い仲間たちにも囲まれて、その苦しみから段々と解き放たれていく蓮も目の当たりに
した。”あぁ・・蓮は大丈夫だ”とそう思った。元々そんなに弱い奴じゃない。誰より
も強い。けど、本当の強さを持ってるからこそ誰よりも繊細だった。北海道に帰って
蓮と離れてもずっと繋がっていけると思ってたし、距離なんかで壊れる間柄ではない
と信じていた。その頃、決まった蓮の転勤。距離なんか関係ないけど近くに蓮が居て、
いっぱい会えるのは嬉しい。誰よりも爽子との仲を応援してくれていたのも蓮だ。そ
して娘の結月と遊んでいる時の蓮は今まで見たことのない柔和な笑顔だった。でも久
々に会った蓮は何かを抱えているように思った。いつになったら幸せになれる?蓮の
幸せってなんだろう・・?と俺は考えるようになった。恋愛だけが人を幸せにするの
ではない。幸せの価値観は人それぞれなのだから。でも願わくば蓮を心から支える人
がそばに居て欲しいと望んでいる自分がいた。それはつまり蓮が本気の恋をするとい
うことだ。相手がいくら蓮を好きになったところで蓮が好きにならなければ何の意味
もなさないことが感覚的に分かっていたから。その相手・・・。その時ふと浮かんだ
ものに俺は戦慄を覚えた。それは一瞬だった。脳裏に過った女性。


それからは考えることをやめた。いや、正直に言うと考えないようにしていたのだ。


「今から考えたら、俺の直感は当たってたんだ」
「え?」


翔太は今までのことを思い浮かべながらぐるぐると駆け巡る考えの中、独り言のよう
に呟いた。蓮は脈略のない翔太の呟きに眉を顰めるが、夢の中のように翔太は話し続
けた。


「蓮が幸せになれる唯一の相手を俺は最初から知っていたのかもしれない」
「・・・っ」


夢の中にいるように呟いていた翔太が蓮をしっかりと見据えていた。蓮はハッとして
思わず身構える。


「・・見ないようにしていたのは俺も同じ。だから大丈夫だよ。俺も、もう向き合う
 覚悟が出来てる。だから・・・」


”全部、話して”


翔太は冷静な口調で言った。蓮を深く知りたいと思った時からこうなる運命だったの
かもしれない。近すぎてお互い真実から目を背けてきたものに向き合う瞬間(トキ)
・・・その時が来ていた。


* *


「翔太と出会ってから10年か・・」
「長いようで短く感じるな」


さらさらと頬に爽やかな風を感じながら二人は前を向いたままぽつりと呟いた。
10年・・・改めてそんなに経ったのかと思った。つらかった遠恋を終え、俺と爽子
は一緒になった。最大の危機をも今となっては笑って話せる思い出。だが、蓮の中で
はまだ消化されていない、まだ過去になっていない出来事だということを知ってる。


蓮が爽子と出会ってからも10年・・・


仙台七夕まつりで賑わっていたあの夏。俺たちは遠恋になって2回目のデートを楽し
んでいた。大事な爽子を蓮には紹介したい。そんな思いが俺の中に芽生えた頃、偶然
道で会ったあの夜・・・
蓮とは出会って間もないのに生涯付き合っていける友人になると確信していた。それ
は俺の中の直感だった。今から考えたら小さい頃から人に関して選んでいるつもりは
ないが直感的に自分をさらけ出せる相手を嗅ぎ分けていたのかもしれない。結構頑固
で面倒くさい奴だと自分でも自覚がある。そんな面倒くさい奴のことを誰よりも分か
ってくれたのは蓮だった。俺が何よりも大切にしているもの。多くを語らなくてもそ
の想いを分かってくれる蓮が嬉しかった。でもあの夜過った感覚を俺はずっと心の奥
底に隠し持っていた。見ないようにしていた醜いもの。大事な友人に抱く低俗な感情
はあまりにも自分の一番嫌な部分を見るようで必死で目を伏せた。
あの夜、二人の楽しそうに話す後ろ姿を見た時から・・・


「いつも翔太は前を向いていた。翔太みたいな人間に会ったのは初めてかもしれない。
 だから・・知りたくなった。翔太の原動力」


蓮の語りはそう始まった。翔太は話に吸い込まれるように聞き入った。


「彼女を初めて見た時・・”あぁ・・間違いなく翔太の彼女だ”って思った」


翔太はそっと蓮の顔を盗み見るととても柔和な顔をしていた。それは懐かしそうであり
せつなくも見えた。


「二人をずっと見ていたいとその時ふと思ったんだ。俺が持っていないもの、初めて遭
 遇する本物の愛情っていうのを感覚的に感じたんだと思う。本当にきれいだって思っ
 た。俺とは真逆過ぎて・・」


翔太は蓮の言う”きれい” という言葉に驚く。その表現があまりにも今までの蓮からは
想像できないものだったから。翔太が唖然という顔をしていると、蓮はふっと笑みを浮
かべた。


「きれいって・・・思ったよ。彼女のこと。真っ直ぐで純粋でどんな俗物でも跳ねのける
 強さを持ってる。彼女だったら人生を間違ったりしない」


そして蓮は翔太を真っ直ぐ見ると、はっきりと言った。


”そんな強さに、惹かれていた”・・・と。


二人の間に沈黙が走る。翔太は分かっていても改めて言葉になった衝撃を心のどこかに受
けていた。覚悟が出来ているつもりでいたのに動揺している自分がいる。翔太は蓮に気づ
かれないようにその気持ちを必死に隠した。ごくっと息を飲む。


どくん・・どくん


「・・・いつから?」


自分でも思ったより低い声になった。蓮は全くの動揺も見せずに真剣な目を向けて言った。


「今から考えたら・・・出会った頃からかもしれない」


蓮は冷静な口調でそう言った。
こんなとこで動揺している俺よりも蓮はずっと苦しんできたと分かっているのに焦燥感を
持っている自分がいる。爽子と出会ってから新しい自分をどんどん知っていった。爽子の
ことになると自分が自分でなくなる瞬間も沢山経験した。自分勝手な独占欲で爽子を縛っ
でしまいそうになる小さな俺。でもこれはつまらない小さな嫉妬とがじゃない。苦しい。
胸が苦しい。


それは相手が蓮だから。蓮という存在が俺にとってどれだけ大きな存在か、蓮は俺のこと
を”憧れ”と言った。違う・・・蓮こそが俺の憧れだった。
だからこそ、苦しい・・・


胸の奥でじりじりとした痛みを感じながら、蓮の言葉を必死で飲み込もうとしていた。







「Once in a blue moon」92 へ












あとがき↓

90話に拍手・コメントありがとうございます〜〜〜!!まあさん、COCOTANさん変わら
ず読んでもらって感謝です。その他の方も・・・こんなに放置しておきながら拍手を頂
けるということは遊びきてもらっているのだともう・・嬉しすぎですよ。いつ更新する
かも分からないし、今や、本当に書きたいときだけ書いてますし、そんなサイトをアク
セスしてもらえるだけで幸せですねぇ。やはりコメントいただけると張り合いになります。
さて焦燥感いっぱいの翔太で終わってますがどうなるか・・シリアスまだまだ続きます!