「Once in a blue moon」(85)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 の続きです。 

☆ 結月が蓮を見つけて道路に飛び出した。その結月を助けようとした蓮が車に引かれたが・・・













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 85 ‥…━━━☆












カチカチカチ・・とやたら大きな音で聞こえる時計の音。それは自分の意識がそうさせて
いるのだと分かりながらも耳に聴こえる音はそれしかなかった。まるで責め立てるよう
な音にどこか怯えながら体中の感覚が麻痺しているように感じた。
合わせた手に力を籠めながら爽子はぼんやりと手術室横の時計を見上げた。その目には
力がない。翔太が手術室に入ってから2時間が経過していた。


(大丈夫・・・大丈夫)


そう自分に言い聞かせながらもどうしても体中の震えは止まらない。


バタバタバタッー


「!!」


その時、勢いよく飛び込んできた足音に爽子はハッとして顔を上げると見慣れた顔があ
った。一人っきりの孤独から抜け出したような感覚になり爽子は顔を緩める。


「・・っお母さん、お父さん・・・あっ」


急いで駆け付けてくれたのは爽子両親、翔太の母だった。翔太が輸血するということで
爽子はすぐに両親達に連絡を入れた。呼ぶつもりはなかったのだが、両親達は病院に行
くと即答した。そんな両親達に恐怖感が少しほぐれる。


「あ、ありがとうございます!」


爽子は翔太の母を視界に捉えるとおもいっきり頭を下げた。そんな爽子の複雑な想いを
察した翔太の母は柔らかく微笑んで言った。


「大変だったねぇ・・・大丈夫?結月ちゃんは怪我ない?」
「はい・・お義母さん・・」
「それでお友達の様態は?」
「・・まだ手術中で・・っ」


爽子はそう言いながら言葉に詰まる。蓮がうつ伏せで横たわっている下から血が広がっ
いく光景がパッと頭に浮かんで、思わずギュッと目を瞑った。


「爽子・・・怖かったでしょ。とりあえず座って」
「う、うん・・・ごめんなさい」


爽子の母が優しく肩を抱いた。爽子父は固い表情で少し青ざめた顔で頷いた。爽子は
そこにいない義父の存在に気づき義母に聞いた。


「あの・・・お義父さんは」
「家に居るって」


翔太母が椅子に腰を下ろし、やれやれという風に言った。


「”血を抜くだけなら献血と一緒だ”って・・・言いながら持ってる新聞が逆だった
 けどね」


そう言って母は明るく笑った。それでも神妙な顔をしている爽子に優しい眼差しを向けた。


「あの人、今まで翔太には怒ってばかりきたでしょう?・・・いつも通りいたいのよ。
 願掛けのつもりなのかしら」
「・・・・」


爽子は厳格な義父の姿を思い浮かべ思わず笑みが零れた。輸血と言っても心配しない訳が
ない。そっけない振りをしていても誰よりも息子を愛していることを知っている。そう考
えると蓮の両親に連絡出来ないことがもどかしく感じた。


「爽子・・・結月はどうした?」
「空いている病室で寝かせてもらっているの。心身共に疲れていると思う」
「そうか」


爽子父はホッとしたように頷いた。そして4人は会話をなくし再び静寂の中、まだ何
の音沙汰のない手術室の赤いランプをただ見つめる。そこにいる誰もが一分一秒を長
く感じていた。結月のこと以外、細かいことを聞かない両親達。色々聞かれても今は
上手く話せる自信がなかった爽子は、いつもさりげなく支えてくれる両親に心の中で
感謝した。


(翔太くん・・・蓮さん・・っ)


爽子は再び祈るようにぎゅっと手を合わせた。



* * *


ごくっ


思わず生唾を飲む。目の前の光景に。誰が想像しただろう。傷だらけの身体で横たわ
り、口と鼻にチューブが差し込まれたまま動かない蓮を。
ライトの下の手術台にいる蓮を。


「お願い・・・します」


俺は蓮のために何が出来るのだろう?
いつもそう思っていた。でも現実は何も出来ない。そんな自分に失望してばかりだっ
た。蓮の足りないものはなんだろう?一体何を求めて、どうすれば満たされるか?
その想いはずっと俺の中でループのように回り続けている。


でも・・・


その答えを本当は分かっていたのかもしれない。信じたくなかっただけで。それ以外
の答えを必死で探しては蓮が幸せになれるようにと自分本位で願い続けていた。偽善
的で自分勝手な俺の振る舞いに蓮をどれだけ追い詰めていたのだろうと思う。
でも蓮は知っていた。本当の俺を。譲れないものがあること。この世でたった一つ、
大切なもの。そのためには犯罪さえ起こしてしまうかもしれない危険性を含んだ男だ
ということを。正直自分でも怖いんだ。きっと自分が自分でなくなってしまう。
だから・・・見ないようにしていたのに。


「蓮・・・」


そんな想いが一気に吹っ飛ぶほど、目の前の光景は衝撃的だった。こんな蓮に遭遇す
るなんて想像もしなかった。今までも・・・そしてこれからも。
そのはずだった。


管に繋がれ、目を瞑ったまま微動だにしない蓮の前で俺は金縛りにあったみたいに動
けなくなった。この世で爽子を失うほど恐ろしいことはないと思ってた。でもこんな
光景を間のあたりにすると自分のちっぽけな感情などどうでもいい。人の命には何物
にも代えられないのだと実感する。これからどうなろうと、生きて欲しい。


「先生っ・・!俺の血、いくらでも取っていいので、蓮を助けて下さいっ!!」
「大丈夫ですよ。落ち着いて、そこに横になって下さい」
「・・・っ」


蓮に生きて欲しい・・・そのために何でもする。



ただそう思った。









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あとがき↓

まだ昼ドラ続く〜〜!すんません。