「Once in a blue moon」(83)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 の続きです。 

☆ 翔太、爽子とも複雑な想いを抱えながら時は巡る。蓮と会えないまま半年が過ぎ・・・













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 83 ‥…━━━☆















あれから約半年の月日が流れた。草木が芽を出し、木々の花が咲き始める。長い冬から
春の訪れを感じる3月。結月は4月から小学生になる。不安定さは少しましになったよ
うに思うが言葉は今も発さないまま。不安は残るが結月の新しいステージを二人は変わ
らず応援するだけだ。親子の結びつきとは違う何か強い絆を感じていた蓮は未だ行方は
分からないままだ。特に探すことはしていない。蓮から連絡がないということはまだ会
いたくないということだろう。だが、結月の晴れ姿も見て欲しいと二人とも思っていた。
それぞれの想いとは別に・・・
そんな頃ー


* *


「風早んとこももうすぐ小学校入学だろう?」
「はい。来月に」


翔太はこの日、外回りはなく社内の仕事だったので久々に先輩同僚と昼食をとっていた。
この先輩は翔太が支社に転勤した時に一緒に仕事をしていた人で唯一会社の上司以外で
結婚式に呼んだ人物だ。そして蓮と関連を持っていた人でもある。


「早いよな・・葛西の子も同い年だ。入学式見たかっただろうに」
「・・・」


そう、蓮の先輩であり、昨年の夏に自殺した葛西さんの同期になる人物。唯一蓮の話題
を出せる人物でもあった。先輩はずるずると麺を口に放り込みながら言った。


「川嶋も休職なんて驚いたけど、みんな色々あるもんな」
「・・そうですね」
「自由な奴だよな。世界中を飛び回ってるって噂じゃん」
「あ・・はぁ」
「葛西も川嶋のように上手く気を抜けたら良かったのになぁ。誰だって行き詰ることあ
 るよな。俺だって休職したいわ。ま、川嶋みたいに実力ないからそれじゃ辞めろって
 言われて終わりだろうけどよ」


先輩はそう言ってがははっと自虐的に笑った。


 
(・・そうなんだ。蓮)


半年経って少しは冷静に蓮の話が出来るようになったと思う。爽子とあれからも全部は
さらけ出して話してはいないけど、蓮を話題に出すことも出来るようになってきた。
でも決して心の中からなくなるわけではない。俺も爽子もそして結月も・・・
まだ何も終わっていないのだから。そして先輩の次の言葉に翔太は固まる。


「でも日本に戻ってんだろ?仙台本社のダチが見かけたって。あいつの実家だもんな」
「えっ!?」
「何?お前連絡ねーの?仲良かったのに」
「まぁ・・自由な奴ですからね」
「ははっだな。そのうち連絡来るよ。また3人で飲もーぜ」


(蓮が帰ってる・・・!?)


翔太は膝に置いていた手が自然に震えているのに気づいた。緊張して身体も固くなって
いる。しかし即座にその震えは止まった。頭に過ったこと。


俺に会いに来るわけないよな・・


俺だから言えなかった、大事な親友だから・・そんなことないんじゃないかと最近思う。
蓮にとって俺はなんてことない存在。ただ人の妻を好きになったという世間的な罪悪感
だけなんじゃないかって・・・
結局俺の一方通行。そんなことを考えると虚しくなる。
でも最近、それでもいいから蓮と話したい。とにかく話したい夜中じゅう。そんなこと
ばかり考えている。あの仙台の時のように、腹の中全部。


(って、仙台の時も蓮は苦しんでいたんだろうけど・・)


翔太は蓮のいた部署の方をせつない目で見つめるとその場所にいた蓮の姿を思い浮かべ
た。時は進んでいる。今は蓮も麻美もいない。
でもこの時翔太は知らない。蓮と向き合う時がもうすぐ近くまでやってきていることを。
そしてそれは翔太の想像を超えた出来事がきっかけになることを・・・


* * *



「わぁ・・蕾だぁ。見て、ゆづちゃん」


ある日、爽子と結月は大好きな落語の寄席に出掛けていた。その帰り、道路の両脇に植
えられてある梅の木を見て爽子は目を輝かせた。結月の顔もぱぁぁと輝く。爽子と同じ
で結月も植物が大好きだった。家の庭には5歳にして専用の花壇があるぐらいだ。毎日
大事に育ている。草木に触れる時の結月はものすごく幸せそうだ。そしていつも帰りに
寄る芝生広場にやってきた。そこは春の息吹を感じるたんぽぽが咲き乱れていた。そし
て沢山の雑草の中で結月が必ず見つけるもの。


「わぁ・・またあったの?四つ葉のクローバー」


たんぽぽと同じ黄色いワンピースを着ている結月はまるでたんぽぽの精のようだ。結月
は嬉しそうに爽子の目の前にやって来ると一本のクローバーを差し出した。自分では到
底見つけられない四つ葉をあっさりと見つける結月に不思議な気持ちになる。大人にな
り失ったものを結月は持っているのだろう。それは決して特別なものではなく世間の汚
れを知らない純粋な天使に神様が与えて下さっている。きっと子どもはみんなそうなの
ではないだろうか?強い弱いはあっても魂がものすごくきれいだと思う。


(ゆづちゃんすごいなぁ・・)


爽子はそんなことを考えながら最近の結月を思う。結月が言葉を発しないことに関して
自分なりに悩んだこともあった。もしかしたら自分との間に何か抱えているのかもしれ
ないと思ったことも。そしてあの不思議な出来事・・・
爽子は蓮とのあの夜の出来事を思い浮かべた。あの感覚は結月が呼び起こしたものだ。
それだけは間違いないように思った。言葉で説明することは出来ないが確かにあの時そ
う思った。麻美は理解してくれた。それから爽子は難しく考えるのをやめた。人は言葉
に頼り過ぎなのかもしれない。言葉がなくても通じ合えるものがあるということ。


「・・と言っても全部理解出来ないから修業が足りないのだけれど・・」


ぼーっとクローバーを見つめながら呟いた爽子は自分の世界に入ってしまってることに
気づいて結月に目を向ける。


「!?」


すると視界にいると思っていた結月がいない。ハッとして立ち上がり周りを見渡す。
しかし360度視界に入る範囲には結月の姿が見えなかった。


「えっ・・ゆづちゃんっ!!」


爽子は焦ったように広場内を駆け回った。しかし全く姿が見えなかった。


「うそっ・・・ゆづちゃんっ!?どこ〜〜?」


ばたばたっ・・


近くの道路まで出て必死で探し回る。背筋が凍る感覚を覚える。血の気が引くとはこ
のような感覚だ。爽子は足をガクガクさせながらも歩き回ることしか出来ない。


(どうしようっ・・・どうしよう)


どう考えても見ていなかった自分が悪い。しかし今までこんなことはなかった。興味
があるものがあると、結月は爽子の手をぐいぐいと引っ張る。一人でどこかへ行くよ
うなことがなかったし、ここは慣れた場所ということで気が緩んでいたように思う。


「ゆづ・・っ」


はぁはぁ・・と息を荒くして辺りを探し回った爽子は呆然と立ち尽くした。
その時だった。道路の向こう側の先の方に見慣れた背格好の男性が爽子の視界に入る。
遠いので目を細めて見つめた。そして視界を横切る黄色いもの。


「あっ・・・」


その男性に向かって走って行く小さな姿。おかっぱのストレートな髪を揺らし、黄色
いワンピースをひらめかして走る結月だった。そう、道路をクロスしていく結月の姿。
声を上げても聞こえないぐらいの距離だったが、その瞬間声が出なかった。
向こうからは車が普通のスピードでやって来る。


「・・・っ!!」


その後はまるでスローモーションの映像が流れるようだった。爽子は叫んでいるのに
自分の声も聞こえず、届くはずのない手を必死で伸ばしていた。







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あとがき↓
お久しぶりです・・・今度こそ最後までいきます!!95話ぐらいかな?やっと最後が
見えてきた。暗くなるとストップしてしまいます。それでは読んでくださる方は最後ま
でお付き合いしてもらえると嬉しいです!