「Once in a blue moon」(81)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45
46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71
72 73 74 75 76 77 78 79 80 の続きです。 

☆庄司に蓮の気持ちを確かめた翔太。そしてずっと心の奥底に秘めていた想いを告白する。
 翔太目線です。













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 81 ‥…━━━☆














「実は・・・最初から感じていたんです。爽子と会わせた時から」
「え・・・」


庄司は翔太の発言に驚いて眉を顰める。翔太は力ない目で一点を見つめたまま続けた。


「空気感が似ていたから・・」


胸の中にヒヤッとした冷たい感覚。それを最初に覚えたのはいつだろう。
そうだ、店で二人が笑い合っている後ろ姿を見た時。
でもそれは人間的に小さな俺の独占欲で、誰であっても感じてしまう。ただそれだけだ
とその想いにすぐにフタをした。


「恋愛感情かそうじゃないか・・そんなのまるで白か黒かみたいであまりにも世界が狭
 いというか稚拙過ぎると言うか、特に蓮に対してそんな風に考えたくなかった。同い
 年なのに、俺より仕事に関しても博学で人間的に深くて・・」


出会った時から、もっと知りたいと思った。一緒に居る時間が増えるにつれ、ますます
知りたいと思ったんだ。こんな奴・・今までいなかった。


「小さなやきもちなんて今まで散々焼いてきたんですけど、蓮に関してはなんというか
 ・・うまく言えないけど違うんです。多分俺の中で蓮という人間は俺にないものを持
 っていて憧れの部分があって・・つまり別格なんです」


素直に気持ちを言葉にする翔太に庄司はほんの少し口角を上げた。


「誰よりも俺の気持ちを分かってくれるのも蓮でした。だからそんなことはあるわけは
 ないと、心の奥底に隠し持った棘に触れないように過ごしていたのかもしれません」


憂いを感じる翔太の横顔を庄司はじっと見つめた。そして冷静に聞いた。


「・・・なぜその棘が出てきたのでしょう?」


翔太は視線を落としたまま、ぴくっと瞼を上げるとしばらくの間黙り込んだ。


棘・・・


爽子を好きになって知った様々な感情、知らなかった自分。その棘は今までで一番鋭く
俺の中をかき乱す。こんな痛み・・・初めてだった。


翔太はぼんやりとグラスを見つめると沈んだ瞳をして言った。


「俺が・・一番恐れていたことが起こったからです」
「恐れていた・・こと?」


庄司が復唱すると翔太は再び言葉を飲み込んだ。そして覚悟を決めて話し出す。


「蓮が仙台で熱を出して爽子が付き添ったんです。俺は仙台の同僚と飲んでて・・・。
 その後からなんか爽子の様子が変な気がして・・」
「変?とは」
「・・蓮のことを聞くと何とも言えないような表情をするんです」


せつないような、哀しいような・・・そして


「・・・」


そこまで言って黙り込んだ翔太の横顔を庄司が覗くと翔太こそ何とも言えないような
複雑な表情をしていた。


「そのっ・・・なんと言うか」


艶っぽい・・っと思った。偏見かもしれないけどそう見えた。


(さすがに言えね・・)


「・・なるほど」
「えっ!?」
「いや、みなまで言わないで大丈夫です」
「////」


冷静に庄司に言われ、翔太は思わず赤面した。庄司は翔太の言いたいことの大半を理解
した。結局、何があったというわけではなく些細な爽子の様子の変化に翔太が怯えたと
いうことになる。庄司はにっこりと笑って言った。


「風早さんは本当に爽子さんが好きなんですね」
「えっ///・・・はい」


(こりゃ・・また素直な)


庄司は微笑ましい翔太の姿に温かい気持ちになった。しかし当の本人は真剣だ。再び
暗い表情で続ける。


「その夜・・爽子が蓮を看病していた夜ですけど、何があったなんて思ってないんで
 す。それは信用してます。でも行動だけがすべてじゃないから、気持ちも全部・・
 いや、気持ちの方が気になります」
「風早さんは、爽子さんが蓮さんを好きだと思ってるんですか?」


翔太は考え込むようにまた黙り込む。そして俯いたまま首を横に振った。


「・・・分かりません。何も聞いていないので」
「聞かないんですか?」
「はい。爽子の・・あの顔を見るのが怖くて。お恥ずかしいですが、余裕なんて持っ
 たことないんです。それに・・・」


翔太はそこで言葉を区切ると苦しそうに顔を歪めた。そしてボソッと呟く。


「相手が・・蓮ですから」
「・・・」


どれだけ翔太にとって蓮が特別な人間かが分かる。唯一認めた男なのかもしれない。
だけどそれ以上に大切なもの・・・
庄司はこの真っ直ぐで純粋な想いを目の当たりにした蓮の気持ちが少し分かるような
気がした。その断固とした想いの強さに憧れさえ持つだろう。


「とにかくまず・・蓮に会いたいんです。爽子とは・・・ちゃんとお互い気持ちが通
 じているのは分かっているんです。もちろん俺の方が気持ちが大きいと思うけど、
 それでもあの頃とは絶対違う・・・それだけは確かですから」
「あの頃と言うのは風早さんが仙台にいた頃の話ですね」
「−はい。その頃・・近くにいながら先生と会えずに残念でした」
「そうですね、お互い存在だけ知っていたんですもんね」


二人は目を合わせると笑みが零れた。なんだかんだ言って庄司とは縁があったのだろ
う翔太も、そして蓮も・・・


「あの時・・皆が苦しい時でしたね」
「・・・」


あの辛い経験があったからこそ、今この幸せがあると思ってる。離れてこそ分かった
こと。”大切にする”という本当の意味。


「・・その時のことを蓮は今も悔やんでいるんです。なぜそこまで?と思ってました。
 でもやっと分かったんです。それは俺への罪悪感だったんだと。そして・・」


苦しそうに顔を歪める翔太を庄司はせつない目で見つめる。そしてぎゅっと手に力を
籠めた。


「蓮の苦しみは俺・・そのものだったんだと、やっと気づいた」




翔太はどこまでも深く悲しげな瞳で声を震わせながら言った。






「Once in a blue moon」 82 へ














あとがき↓

蓮の苦しみ=翔太の存在というところをずっと書きたかったのでちょっとスッキリ。
でも”Half moon”の翔太みたいな自滅はさせたくなかったので家族になって違う形の
翔太の苦悩を理想として頑張ります!!