「Once in a blue moon」(74)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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の続きです。 

☆今まで隠し通した蓮の想いとは・・・?









ギリギリまで頑なに守り続づけた結界を壊すのはこんなに簡単だったんだ。
麻美の純粋な目が俺を包み込む。不思議な気分だった。


伝えないといけないと思った。あの夜からずっと、考えていた。


そう・・・あの純粋な目で見られた時から





・‥…━━━☆ Once in a blue moon 74 ‥…━━━☆










『・・翔太は人を寄せ付けない俺の中にすんなり入ってきた。初めて、自分から知り
 たいと思った』


あいつがいるだけで場が明るくなり周りを笑顔にさせる。でもただ明るいだけではな
く人の気持ちに敏感で落ち込んでいる人間などにさりげなく寄り添う。入り過ぎず入
らな過ぎず、その微妙な加減が俺には完璧に見えた。あいつがすごいのはそれが計算
ではないところだ。でも翔太を見ていると気づいた。男だから自分の弱みを見せるこ
とはしないが、弱みだけではなく本音を人に見せていないことに。そこに親近感が湧
いた。別にお互い隠しているわけでもなく、大事なことを告白のように打ち明けるの
も大人だからしない。でもそのうちあいつが俺を信用してくれるようになった。
少しずつ知っていく翔太。明るいだけでなく繊細すぎて弱い一面や、人間らしい一面。
でも一番知りたくなったのは、こいつの揺るがない信念。元々自分の信念を貫き通す
性格だったようだが本当の強さを持っている男だと感じた。その強さはどこから来る
のだろう?と・・・。


その強さの根源を知った時、”なるほど・・”と納得した。
隠すつもりはなかったのだろうが、簡単に言えないほど、翔太のすべてだったんだ。
これほどの想い、熱い情熱、恋愛の純粋さなど俺には眩しいばかりだった。彼女の話
をする時のあいつに生きている鼓動のようなものを感じた。俺に見せてくれた新たな
一面を嬉しく思ったり、そこまであいつに想わせる存在を知りたくなったり・・・
俺は自分らしくない感情に戸惑ったりした。


『初めて彼女に会った時・・・”あぁ、翔太の彼女だ”とすんなりそう思った』


二人の空気感が好きだった。こんなに優しい空気がこの世にあるのだと思った。
彼女と一緒にいる時のあいつは本当に幸せそうで、また彼女もあいつの前では固かっ
た笑顔が柔らかく、なんて・・きれいに笑うのだろうと思った。花が開花したように
色鮮やかに顔を綻ばす姿に初めて出会った時、視線を外せなかった。
翔太の存在と同じで、いつの間にか彼女は俺の中に住み着いていた。今まで誰にも心
を許すことなく、人に深く関わることを避けていた俺は自分自身を立て続けに裏切ら
た気分になった。こんなに簡単に崩されるなんて。自分でも信じられなかった。


『それだけ・・・唯一無二な存在に出会ったんだ』


自分の人生に期待なんかしていなかった。自分が変わることも怖かったのだろう。俺
は周りが思うよりもずっと臆病なんだ。だから人を避けていた。一人で居る方が楽だ
ったから。それなのに、なぜこんなに欲してしまうのだろう。彼女と居るとまるで心
が浄化されていくようだった。そんな感情・・・口が裂けても言えないと思った。
その時なぜ言えないと思ったのだろう。感覚的にそう思った時から・・・


『・・恋愛感情だったのかもしれない』


でも浄化される気持ちは翔太と彼女が二人でいる時にも感じる感覚で、二人が持って
いる空気感だと思った。


『二人を見ていると浄化と背徳・・・そんな感情が同時に起こるんだ。本物の恋とい
 うものを初めて目の当たりにして自分の恋愛がいかに稚拙で自分勝手なものだった
 かを知った。そして、汚いもので固められたような自分の人生に嫌気がさした』


乾ききった心。美穂といるといつの間にか”責任感”だけに囚われている自分に気づい
た。病気にさせたのは俺。彼女は俺を求めているのだから一生守っていく。中途半端
に関わった俺の責任なのだから。
人は一人では生きていない。大人になっていくにつれて実感する。だが、自分自身の
未熟さが美穂を巻き込んだのだと心の中では失意を感じていた。
そして麻美もまた・・・


『あの頃・・・俺は感情を殺していた。感情を出すことがしんどかったんだ。だから
 無機質な心でただ、生きてるだけ。周りに心配されないように偽りながら、それな
 りに上手く付き合ってきたと思う』


自分を誰にも見せないのは今までと一緒だった。もっと早くに翔太のような人間に出
会っていたのなら何か変わっていたのだろうか。でもあの頃の俺は心が乾ききってい
ることにさえ気づいていなかった。感情に色がなかったことも。


『そんな時・・・出会ったのが彼女だった』


自分自身がどれほど枯渇しているかを知った。そんな心にいきなり苦しくなった。
息が出来ないほど・・・


あの夜・・・乾ききった心に水を注いでくれたのは彼女だった。



* *



蓮の低くて優しい声が耳に心地良かった。ずっと聞いていたいような、このまま朝を
迎えたいようなそんな気持ちになった。
これほど素直に話す彼を見たのは初めてだった。大きな戸惑いと心の底からじわじわ
歓喜のような感情が湧いてくる。目の前の彼は少年のように見えた。いつもは存在
自体に威厳があり、敵わない感を漂わせるのに


(なんだか・・・小動物みたい)


麻美は心の中でそう呟くとこみ上げてくる笑いを堪えた。


『あんな子・・初めて会った』


彼が爽子さんを語る。それに不思議なほど違和感を感じなかった。今までありあえな
いと思っていたことがなぜか自然に感じる。それは”風早さんの奥さん””親友の恋人”
などという枠組みを勝手に作っていたからではないか?恋する感情は自由で何のしが
らみもないはずなのに。そこに呪縛のように囚われていた蓮。


”爽子さん・・”


蓮の言葉に素直に納得が出来る。見た目はとび抜けて目立つわけではない。どこにで
も居そうな感じがする。でも彼女の魅力を知ってしまうと夢中になる。
絶対離せない・・・特に男の人は。そう思った。
女の自分でさえ彼女を独占したいと思ったほどだ。分かる人だけ分かる。彼女の魅力
を分かる特別な人間。そんな気がして、手前勝手な優越感を持っていたりした。
だから、ずっと付き合っていけたらこれほど幸せなことはないと思った。彼女の一番
などを望んでいない。ただ、その純粋さを少しだけでも自分に向けてくれたらそれで
良かった。そして蓮が横に居れば・・・想像していた理想の未来。


『・・あの夜っていつのこと?』


私はもう遠慮するのを止めた。最後なのだから聞きたいことは全部聞く。蓮はその質
問にぴくっ目線を上げると少し躊躇した様子を見せたが麻美の真摯な目をじっと見つ
め、素直に話し始めた。


ずっと知りたかった蓮の過去にやっとたどり着いた。蓮が抱えていたこと、苦しみ続
けていたもの、そして一番守りたかったもの・・・


私はやっと知ることが出来たのだ。




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あとがき↓

「あの夜」の謎は次回です。蓮が恋に落ちた瞬間を「Half moon」の中で一応入れて
いたつもりでした。結局曖昧になって伝わらなかったようですが。あの話のエセ主
人公は光平だったので入りきれなかったからやっと書けるわ。 何年越しか(汗)