「Once in a blue moon」(80)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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72 73 74 75 76 77 78 79 の続きです。 

☆翔太は仙台で会いたかった人物、庄司に偶然居酒屋で会った。そして確認したかったことを
 口にする。それは勇気のいることだった。庄司目線も入ります。













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 80 ‥…━━━☆












「率直に聞きます」


翔太は大きく深呼吸をすると覚悟を決めた目で庄司を見つめた。庄司も体を翔太に向ける。


「蓮は・・・」


こんなことを口に出す日なんか来るとは思ってもなかった。誰よりも俺たちの幸せを願
い、心から信頼できる親友。俺は心の底からあいつの幸せを願っていた。あいつこそ幸
せになっていい人間だと思っていた。もう十分苦しんだのだから。でも心のどこかでず
っと考えていた。あいつが心から幸せと思う瞬間って何だろうって。それは・・・


「爽子を・・・」


どくん・・どくん


恥ずかしいけど声が震えていた。蓮に直接聞いているわけではないのにその言葉を口に
出すだけでこんなに勇気がいるなんて思ってもみなかった。でも言わなければいけない。
もう逃げないと決めたのだから。


翔太はもう一呼吸を整えると、庄司を真っ直ぐ見据えて言った。


「好き・・・なんですか?」


口に出した瞬間、崩れかかっていた壁が完全に崩れていく感覚を覚えた。でもどこか
スッキリしている。あれだけ恐れていたのに。


どくん、どくん・・


居酒屋の喧騒の中なのに周りの音が聞こえない。研ぎ澄まされたように先生の声だけが
聞こえた。


「そう・・・かもしれませんね」
「・・え?」


翔太の一挙一動に庄司は苦笑いするとふーっと息を吐いて残っていたビールを飲み干し
た。そして翔太にはっきりと言った。


「私は蓮さんからそのような話を聞いたことはありません。でも・・・」
「でも?」
「そうではないかと思います」
「・・・」


庄司は誤魔化さなかった。患者でも誤魔化していいことはないことを知っている。ここ
まで来た以上、本音で話し合わなければいけないと思った。この店で翔太と目が合った
時から直感的にそう感じた。会うべきして会ったのだと。


翔太の真剣な目が庄司に注がれる。真っ直ぐ、迷いのない目。


(この目に蓮さんはよく耐えられたな・・・)


庄司はずっと付き合ってきた蓮を少し気の毒に思った。麻美といい、翔太といい、正直
な目ばかりだと・・・。


「風早さんはどうしてそう思ったんですか?」
「・・・蓮がいなくなったんです」
「え?」


あまり動揺の見られない庄司の目がぴくっと反応した。翔太はここに至るまでの経緯を
話した。無言で聞いていた庄司は寂しげな表情を浮かべて言った。


「いつか、そんな日が来ると思ってましたが・・・そうですか。蓮さんは麻美さんと別
 れたんですね」
「・・と爽子から聞きました。海外に行ってしまったと」
「そして蓮さんはどこに行ったか分からないと・・・」
「本当は、先生が蓮の居場所を知っているんじゃないかって思ってました」
「なぜ?」
「・・先生しか思い浮かばなかったんです。蓮が頼る人」
「・・・」


考えてみれば、蓮なら全部自分で解決しようと思うような気がした。誰も頼るはずはな
かった。


「でも、彼女、瀬戸さんの家には最後寄ったらしいです」
「へぇ・・」


庄司は少し驚いた表情でそれを聞くと柔和な笑みを浮かべた。そして翔太の肩をポンっ
と叩いた。


「よく、勇気出しましたね」
「え・・・」
「ここまで来るの・・・勇気いったでしょう?」
「・・・っ」


そう言われて翔太の顔がくしゃっと歪んだ。そして必死で感情を抑えるように唇を噛んだ。


「・・んなこと言わないでください。俺、結構泣いちゃいますから」
「はは・・見たいなぁ」
「泣かないですから!!」


ははは〜〜っ


ひとしきり笑うと、翔太は真顔になり視線を一点に落とした。そしてぽつりと秘めていた
想いを話し始めた。


「俺・・ずっと考えてたんです。蓮が幸せを感じる瞬間ってなんだろうって」



庄司はその少し寂しげだが汚れのない瞳から視線を逸らせなかった。





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<いつも拍手ありがとうございます!80話まできました〜〜!多分100話前に終わりそう・・長っ!>










あとがき↓
この話は”蓮の幸せとはなんだろう?”と言うテーマ(笑)