「流れ星」8 


完全パラレルです!本誌にも沿ってません。あしからず!


風早とマイの回。風早はマイと向き合えるようになった。それは爽子と付き合ってか

ら知った新たな想いだった。


この話は「流れ星」  の続きです。
本編は目次にある「瞳は知っている」を見て下さい。

一話一話、視点を変えてみます。八回目は風早目線でどうぞ!





















もし、爽子と出会わなかったら今の俺はないと思う。こうやってマイに会いに行くこ

とはなかっただろう。だけど俺は爽子に出会って知ったんだ。人の想いの大切さを。

重さを。だから向き合わなければならない。

あの時伝えられなかった想いを伝えたい。

もし、あの時・・・俺が爽子を想うように彼女が俺を想っていてくれたとしたら。



カランッ・・



「俺は・・弱い人間なんだ」


カクテルを持っている彼女の動作が止まった。こうやって二人で話すのは何年ぶりだ
ろう。少し大人っぽくなった彼女の横顔を見ると時が流れているのだと思う。あの頃
はまだ幼さが感じられたのに。
今なら話せると思った。あの時話せなかったこと・・・。彼女がずっと知りたがって
いることを知っていた。でもあの時の俺は過去より未来を見たかった。


「ん?」


彼女が驚いた表情で固まったように俺を見ていることに気付いた。


「あ、ごめん・・・なんか不思議で」

「え?何が」

「ショウタが自分のことを話すの・・なかったから」


マイはグラスの氷をカランッとさせて一口飲んで言った。


「そうかな・・そうかも」


風早がにっこり笑って言うと、マイはその姿をぼーっと見て目を細めた。


「・・・弱い人間の続き・・教えて」

「・・うん。長い話になるけど」

「全部聞きたい」


真剣な顔で言ってくれた彼女に俺はこくんと静かに頷いた。

あの海で俺は逃げた。悪夢から逃げたんだ。ハルと同じ土俵に立ち、戦うことを選ば

なかった。どうしても・・選べなかったんだ。どちらも大切すぎて失いたくなかった。


「・・だから俺は逃げたんだ。爽子からも・・・ハルからも」


最後まで微動だにせず彼女は俺の話を聞いていた。そして全部話を聞き終えた彼女は

しばらくの間、無言のまま顔を伏せていた。

あの頃、どうしても向き合えなかった弱い自分。全て忘れて新しい再出発をしようと

本気で思っていたから。


「・・じゃ、全部忘れるために私と付き合った?」

「・・・」


当然そう思うだろう。俺は言葉に詰まった。

あの時確かに苦しかった。全部忘れるために再出発したかった。でも爽子を忘れるた

めに付き合ったのだろうか・・・?爽子の代わりの誰かが必要だったわけじゃない。


「いや・・違うかも」


俺がそう思いあぐねていると、彼女はにっこり笑って言ってくれた。


「誰かを忘れるために恋愛をする男じゃないな」

「えっ?」

「そんな器用なことできないからショウタは。一応私が好きだったから付き合った

 と今も思ってるよ」

「うん」

「ただ・・その想いの深さが違っただけ・・・でしょ?」

「・・・・」


俺はマイの寂しそうな目を真っ直ぐ見ることができなかった。否定も肯定もできな

い俺を見てマイはふーっと息を一つ吐き、グラスを見つめながら言った。


「私・・ずっとショウタに心から笑って欲しかったの」

「・・・」

「これでも彼女だったんだから。ショウタが本気で笑ってないのぐらい分ってたよ」

「マイ・・・」


マイはそう言って哀しそうな笑みを浮べた。その表情に俺は胸がちくんと痛んだ。


「・・ごめん、あの時言えなくて」

「・・・そんな過去を背負ってたなんて言えないよね。ま、それだけの存在だったと

思うとやっぱ悲しいけど」

「ー違う」

「え・・?」


俺は真っ直ぐマイを見て言った。


「俺はマイに救われたんだ。明るくってそれでいて傷に触れないでくれた。マイが居

 たから俺は向こうで楽しく過ごせたんだよ」

「・・・・」

「会って言いたかったのは・・”ありがとう”って」

「ショウタ・・」


彼女の顔がくしゃっと歪んだ。別れる時まで君の泣き顔を見たことはなかった。でも

こんな形で見ることになるなんて。


「・・ずっとショウタのことを知りたかった。でも、逃げていたのは私。怖かった。

 ちゃんと向き合うことが・・・っそれとプライドかな。だってショウタ付き合って

 ても変わらないんだから」

「マイ・・」

「ショウタに会ってちゃんと気持ちを伝えたかった」


そして目を潤ませながら、彼女は光り輝く笑顔で言った。


「本気で好きだったって」


彼女と付き合っている時、俺は心のどこかにずっと罪悪感を持っていた。本気で好き

になれない罪悪感だったと思う。だから心から笑えなかった。そして俺は彼女も同じ

想いだと思い込むことで自分を守っていたのだろう。


「ありがとう・・・」


”ごめん”より”ありがとう”を伝えたい。そんな俺を見て彼女は嬉しそうに微笑んだ。

そして涙で潤んだ目を軽く擦るといつもの明るいマイに戻っていた。


「ふっ・・でもちょっと妬けるけどね」

「え?」

「だってショウタったら爽子さんにベタボレなのがミエミエだからさ〜〜」

「えぇっ!!////」


あはは〜〜っ


月日って不思議だ。こうやって彼女と再会して笑い合える日が来るなんて。それは、

彼女がいたから・・・。

俺がバーの向こうの部屋に目を向けるとマイも同じ方向を見ていた。視線の先には

爽子の背中。


「・・・彼女かわいい人だね」

「ーうん。すっごく」


俺がそう言うと彼女は目をまん丸くさせた。こうやって素直に気持ちを言えることが

どれだけ幸せなことかを知ってる。


「ショウタってそんなキャラだっけ?」

「あははっ・・・マイは?今彼氏いるんだろ?」

「・・うん。やっぱ私は日本人より向こうの人の方が合ってるみたい」

「そんな枠いらないんじゃないかな?マイが好きならそれで」

「・・・だね。私も・・・出会えるかな」


俺は爽子に会って本当の”好き”を知った。例え彼女とどんな出会い方をしていても俺

は彼女を見つけただろう。だからマイもきっと・・・


「もちろん」


俺は心から笑える今を幸せに思った。

マイもまた支えてくれた人の一人だということ。

俺はもう一度心の中で”ありがとう”を言った。






<「流れ星」 へつづく>

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あとがき↓

次終わる〜〜終わらせたい。そしてラブラブ番外編。これが一番楽しいのだ♪