「流れ星」1 

これは長編の中にある「瞳は知っている」という話です。時系列は風早がつらい恋に
逃げ出して外国に行った時から始まります。全くのパラレルなのであしからず。


ハルという親友の彼女を好きになった風早。それが爽子だった。恋愛も友情もどちら
も選ぶことができなかった風早は誰にも告げづに大学を辞めて外国の大学に編入した。
全てを忘れようと思った風早だが・・・?

詳しくは目次にある「瞳は知っている」を見て下さい。
一話一話、視点を変えてみます。一回目は風早目線でどうぞ!


























”いつか良かったと思える日がきっと来る”


そう信じて俺は今ここにいる。

いや・・・俺は逃げただけか。今なら引き返せるって思ったけど本当は引き返せない
ところまで来ていたのだ。だけどそう信じないと未来が何も見えないほど彼女のこと
を好きになっていた。


”違う時、違う場所で初めて会えた二人なら・・・”


何度もそう思っては渇いた笑いを心の中でしていた。何の意味もない想像を繰り返し
ている。俺は元々”たられば”が大嫌いな人間だった。ただ前に進むだけだと思ってた。
それなのに・・・彼女に出会ってからずっと頭から離れない。
なぜ、出会ってしまったのだろうと。


あの海で、彼女が流した涙は夜空の流れ星になって消えていった。一瞬の光を放って。
それでいい。流れ星になるしかなかったんだ。
もし、同じ想いだったとしたら・・・


カタッ


「ショウタ!」

「!」


風早は背後の声で自分がトリップしていたことに気付いた。ここは大学の図書室。声を
掛けてきたのはクラスで唯一の日本人、川崎舞。他のクラスには日本人はいて、日本人
コミュニティーは盛んだった。外国人の友人も出来たが、日本人同士も皆仲が良く、楽
しい毎日を送っていた。その中でも特にフレンドリーで外国人の友人も多く、付き合い
やすい彼女と一緒に過ごす時間が多かった。彼女は元々こちらで生まれている帰国子女
で日本に帰ったが、大学は自分でこちらを選んだそうだ。


「どうしたの?ぼーっとして」

「ははっ・・何か寝不足みたい」

「すごいね、まだ勉強?」

「英語をマスターするのに必死で内容はその次になっちゃってるからね。自分で努力

 しなきゃ追いつけない。マイみたいに最初から英語ができれば別だけど」


外国では下の名前で呼ぶのが普通だった。最初は戸惑ったけど郷に入れば郷に従えと
いう。日本人同士でも名前で呼ぶ合うのが普通になっていた。
マイは長い髪を耳に掛けながら言った。いつも明るいマイだが、その日の表情には少
し陰りが見えた。


「・・・ショウタもいつか帰るんだよね」

「そうだね、こちらで就職なんて無理だろうし。マイは?こっちで働くの?」

「決めてない。どちらでもいいんだけどね。ショウタは先生になるんでしょ?」

「頑張りたいと思っているよ。こちらの教育システムはとても勉強になるし、日本で
 活かせたらとは思ってるけど」

「ショウタはきっといい先生になるね」

「さぁどうかな。ただ子供と遊ぶだけになりそーだけどな」

「・・・」


風早は再び太い文書に手を掛けながら明るく言った。マイは引き下がらず、風早の前に

腰かけて続けた。


「北海道に帰るの?」

「え?」


まだ先ほどの話が続いていることに風早は少し驚きながら”そうだね、実家だから”と
答えた。マイは頬杖をつきながら上目使いに風早を見つめた。


「・・・会いたい人がいるからじゃなくて?」


その言葉に少しの動揺を覚えた。あれから何年経ってると思ってるんだ。それでもまだ
動揺している本当の俺。


風早は文書から視線を外さず冷静を装って答えた。


「会いたい人はそりゃいるよ。そこで育ったんだから。マイも日本の実家にはいるだろ」

「・・・・」


マイは沈黙した。俯き加減の彼女の表情は分からない。この日の彼女は何かが違った。
この後の彼女の言葉で俺はその訳を知ることになる。


「違うよ。そういう意味じゃないよ」

「え?」


彼女は真剣な目で俺を見ていた。


「・・・lover」


どくんっ


”恋人”


彼女から聞いてきたのは初めてだった。自分の恋愛話は気軽に話すが俺には聞いてこ
ない彼女に救われていた。他のクラスメイトにも日本で彼女がいるだろう?とかこち
らでも勝手に彼女がいることになっていたりしたから適当に合わせていた。その方が
楽だったから。こちらに来てから誰かを好きになってあの二人の幸せを心から祝える
ようにならないと・・と思いながら時間だけが経過していた。


かなり恋愛に関しては頑固らしい。
だから今も苦しんでいる。


「・・・いないよ」

「えっ!?」


マイの顔がぶんっと上がって驚いた顔をしていた。それほど驚くことかと逆にびっく

りしたけど噂は色々行き交っていたからそう思っていたのだろう。


「・・・じゃ、メアリのことは?ケイトにも告られてたよね?」

「えっ・・何で知ってんの?」

「そりゃ、有名だよ。ショウタがモテるの」

「っっ///」

「日本人として誇らしいのよ。ショウタみたいなのは外国ウケもするんだって思った。

 やっぱ女は優しい男性よね〜〜」

「俺、優しくないよ」

「女にだけってわけじゃないんだろうけど、何か母性本能くすぐるっていうか」

「何も出ないよ」


風早はそう言うと、ペロッと舌を出して文書の間から顔を出した。


「こーいうとこだなっ。この天然め!」

「はぁ?」


そう言ってマイはがばっと机に伏せた。そしてくぐもった声でひとり言のように呟いた。


「てっきり日本にいるんだと・・・だからずっと聞けなかったのに」

「え?」


すると、彼女は真剣な目で俺に言った。


「じゃ、私と付き合って」

「!」


その目はいつもの彼女とは違い、熱さとほんの少しの恥じらいを感じた。その目でや

っと気付いたんだ。彼女が恋愛感情で俺のことが好きだということ。

驚いたけど、友達が彼女になるというのは簡単なこと。お互いフリーなら何の問題も

ないということ。俺はこんなきっかけを待っていたのかもしれない。何かが始まる。

きっと変われる。彼女とならきっと・・・と、この時はそう信じていた。いや、信じ

たかった。

俺はあっさりとその申し出を受けた。


「うん。いいよ」


編入して1年経った時のことだった。



<「流れ星」 につづく>

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ありがとうございます〜〜!更新がないにも関わらず嬉しかったです!

















あとがき↓

またよくある話を書いちゃった。でも何気なく曲を聞いていて書きたくなったのです。
それと”蓮”の立場である風早を書きたかったのです。この話は一話一話主人公が変わる
ってやつです。それぞれの視点で書いてみよう〜〜!
細々とこのサイト続けていきます。