「Cresent moon」 3

オリキャラ投票企画&リクエス

光平完全主人公の話です。はい、あくまでスピンオフではございません(笑)
光平の名誉のために(?)番外編にもしません(笑)

物語は光平が北海道に来て1年後の話です。(Half moonで95話から96話の間)

この話は「Crescent moon」1 2 の続きです。


爽子が事故に遭って、仕事中に慌てて病院に駆けこんだ光平は爽子が軽傷だったこと

を知る。そしてそこで思いもよらない人物に会い・・・。




















〜 Crescent moon Epi 3 〜











心臓をぶち抜かれたかのようなものすごい胸の痛みが襲った。上手く繕うなんてもう

できなかった。


「・・・そうだよ。気がついたらここに居た」

「・・・・」


風早は俺を鋭い瞳で睨んだ後、今度は沈んだ目になった。その目に心拍数が上がる。


「んだよ・・・同情かよ。100%フラれてるのにまだしつこく諦められない俺に」


すると風早はしばらくの間の後、冷静に答えた。


「・・違うよ。田口の気持ちが分かりすぎる自分が嫌になるんだ」

「はぁ?」

「同情って取られても仕方ないけど、俺、もし田口と反対の立場だったらっていつも

 思うんだ。そんなこと十分有り得るんだし」

「・・・・」


以前の俺なら彼女に愛されている自負だと思って聞いていただろう。でも今なら分か

る。彼女と居る限り不安なのだ。あんな人いない。それは俺が十分すぎるほど分かる

ことだった。


「でも、あの時とは違うんだろ?あの夏とは・・・」


あの夏、彼女と風早の間に何かがあった。壊れそうだった関係。華奢な小さな体を震

わせて声を殺して泣いていた彼女。弱った彼女に告白するなんて卑怯だと人は言うか

もしれないけど、あの時は堪らなく支えたくなった。傷ついた彼女をそのままにはど

うしてもできなかったんだ。


「自信なんてないよ・・・。だけど彼女を信じてるから」


風早は穏やかに微笑んで言った。余裕なんてないのは分かってる。でもやっぱりムカ

ついた。俺はだんだん自分の中に黒い感情が渦巻いていくのが分かった。”信じてる”

なんて言えるのは彼女の唯一の相手だからだ。


光平は冷笑しながら言った。


「離れてたらまたあんなこと起こるんじゃないの?」

「あんなこと?」

「・・・あの夏、彼女を思いっきり傷つけたじゃん」

「・・・・」

「あんな彼女見てらんなかったよ」


風早は哀しい表情になると、ふーっと息を吐いて窓の方に視線を向けた。


「・・・悔しーけど、そんだけ田口の存在が大きかったってことだよ」

「え・・・?」


俺は風早の言葉に耳を疑った。思わずぽかんっと口を開けたまま動作が止まる。風早

は窓に向けていた視線を俺に向けると、少し悲しげで優しい笑みを浮かべてはっきり

と言った。


「田口の存在が怖かった」


(・・・え?)


― タグチノソンザイガコワカッタ ―


「いや、正直今も変わらない。でももう二度と・・・あんなこと繰り返したくないから」

「ちょ・・ちょっと待ってよ。俺が怖いってどういう事?」

「・・・・」


俺はその後やっと知った。あの夏の出来事を。あの時俺は、二人が壊れることを心の

奥底で望んでいた。周りがなんと言おうと彼女への気持ちを引くことができないと分

かったから。壊れてしまえばいいっ・・・。どれだけ願ったか分からない。燃え上が

った炎を消せないまま過ごしたあの夏。


「え・・・じゃ、あの時彼女は俺に気があるって思ってたの?」


どこでどうなったらそんな思考になるのだろう?と思った。あの時確かに俺は彼女と

いて風早に言えない秘密を共有していた。でもそんなことが引き金にになってたなん

てやっぱり信じられなかった。俺は必死に思考をかき巡らした。


(って・・・どういうことだ?)


「信じたくなかったけど、絶対嘘をつかない彼女が嘘をついているのが分かったから

 たまらないほど・・・絶望感に打ちひしがれた。田口が爽子を好きなことに気づい

 たばっかだったしさ・・・」

「・・・でも、俺言ったよな?あの時彼女に偶然会ったって」


すると風早は明らかに何かを思い出したようにびくっと反応して暗い顔をした。


「・・・それを聞いた時にはだめだったから」

「何?」

「ま・・・いろいろ。とにかく俺、あの時めちゃくちゃだったんだ。爽子が田口とと

 思うだけで胸が張り裂けそうだった。それにさ・・・っ抱きしめたって言うし

「え?」

「・・・なんもない」


風早はぶつぶつとひとり事を言って明らかに不機嫌そうな顔をしている。とにかく俺

の存在が風早を苦しめたということは分かった。そして風早を苦しめたということは

黒沼さんを傷つけたことになる。あの時の彼女の姿を思い出し・・・少し胸が痛んだ。

でもその時の俺はまだ罪悪感など感じていなくて、ただ驚きと訳の分からない優越感

に浸っていた。


現実か夢か分からなくなった。昼間を少し過ぎたころ、俺はなぜ風早と喫茶店でこん

な話をしているのだろう。まるで半年前のあの頃に戻ったような感覚だった。

それはまだ諦められずにいる俺への罰だったのだろうか・・・。



<つづく>



「Crescent moon」 4












あとがき↓

まだ分からない光平です。この話「Half moon」の99話までの光平の心情の変化を
書く予定です。月日が経たないと分からないことってありますよね。その時理解で
きなくても大分経ってからあの時のことは”あっそうか・・・”と気づくこと。そんな
光平を書ければと思います。