「Once in a blue moon」(61)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
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47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 の続きです。
 

☆ 美穂と偶然出会った蓮。そして言われたことに唖然とするが・・・。蓮視点です。




















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 61 ‥…━━━☆



















”爽子”


蓮はその言葉を聞くと再び過去へと引き戻されたかのように動けなくなった。

美穂があの頃、ずっとこだわり続けた人。そして8年半たった今も・・・?

なぜここまで?とも思う。美穂の中ではずっと変わっていなかったんだ。ここに事情

を知っている者がいると、美穂は病気だと言うだろう。そしてそうあって欲しいと願

う自分自身がいる。確信を持って言う美穂に麻美が不安になるのは当たり前のように

思った。


(もう・・・うんざりだ)


「美穂・・・病気が良くなったから俺に会えると思ったんじゃなかったのか?」

「そうよ。もうあの頃の私じゃないわ」

「じゃ、なんでそんな有り得ない妄想をするんだよ」

「ありえ・・ない?」


美穂は耳を疑うかのように顔を歪めて復唱する。蓮は苦笑しながら言った。


「だって有り得ないだろ?彼女は翔太の奥さんだ。俺の親友の・・・」

「翔太・・・あの人。それは今だけよ。可哀そうに・・・」


美穂は薄ら笑いを浮かべた。その笑顔に蓮は少し引いた。背中がぞくっとする。

先ほどの浄化された気持ちはない。すでに淀んだ黒い感情が胸一杯に広がっていた。

美穂はやはりまだ妄想の中で生きているのか?麻美を不安にさせたきっかけになった

この有り得ない妄想はまだ続いていたようだ。


(やはり・・・病気だ)


蓮は哀しみと失望に満ちた顔で美穂を見つめた。しかし、美穂は容赦なく蓮を責め続

ける。それは決して病気では片付けられない真剣な想いだった。


「私は蓮をずっと見てきた。だから分かるの」

「・・・何を根拠に」


蓮が呆れたようにぼそっと呟くと、美穂はしばらく黙り込んだまま視線を逸らさず蓮

を見つめる。それは迷いのない真っ直ぐな目だった。蓮は胸のざわつきを覚えた。


「それを、私に聞くの?」

「はぁ?何?」


美穂はすべてを悟りきった目で自分を見ていた。蓮には理解ができなかった。何を根拠

に確信を持ってそう考えるのかを。美穂はその質問には答えず、微笑して言った。


「今日はそのことを伝えるために蓮に会ったの」

「・・・・」

「お願い・・・蓮。幸せになって欲しい。そのためにはそのままの自分を受け止めて

 あげて」


・・・病気だと分かっている。妄想壁からきている有り得ない話だ。怒りが込み上げ

てもおかしくない。


それなのに・・・


それなのに俺は美穂から目を逸らせずにいる。そして胸の奥をえぐられるよな痛みを

感じている。それは怒りと言うより哀しみ。

なぜなら・・・今までで一番美穂を近くに感じるからだ。


蓮はぎゅっと拳を握りしめて何も言えずにいると、美穂はスっと蓮の頬に手を当て、

優しい眼差しで見つめた。それは心から自分を思い遣っている目だと蓮には分かった。


「私は・・蓮を失うのが怖かった。離れていかないで欲しかったの。それは簡単な想

 いじゃなかったの・・・」


美穂は以前の自分を思い出すように苦しそうに顔を歪めた。強くなろうと頑張って来

た美穂を感じると、蓮は複雑な気持ちになった。

どんな想いで生きてきたのだろう? 壊れた自分とどう向き合ってきたのだろう・・と。


「蓮・・・私は幸せだったよ」

「え・・?」


美穂の言葉に蓮はぴくっと瞼を上げる。まるで自分の心の中を見透かされたようだった。

美穂は穏やかな表情で続ける。


「蓮は後悔してるの?私と出会ったこと。恋人だったこと」

「後悔なんかしてない。美穂に・・・出会って良かったと思ってる」

「良かったっ・・・!」


美穂の顔がふわぁぁっと輝いた。長い年月を経たからこそ通じ合う気持ち。ずっと心

の奥底で引きずっていた罪がほんの少し赦されたような気持ちになった。

その言葉は蓮にとって過去を清算するには十分すぎるほどご褒美のような言葉だった。


「美穂・・・」


だけど、蓮には美穂の天使のような笑顔が苦しかった。

真っ直ぐ見つめる美穂の目が何を語りたいか分かっている。それが過去の清算なんか

じゃないことを。美穂にとっての過去の清算とは・・・


”『私、幸せだったよ』”


蓮は少しの間目を閉じると、決心したように美穂を見つめ返す。

初めて自分をさらけ出したあの頃のように・・・


「美穂・・・俺は好きな人がいるんだ。それは翔太の奥さんじゃない。美穂は最近の

 俺を知らない。もしかして・・・以前の俺はそう感じたのかもしれない。でも、今

 は違うんだ」

「・・・・違わない」


美穂は視線を微動もさせず、瞬き一つしない。まるで確信を持っているかのような目。


「だって蓮は今も苦しそうだもの」


美穂は一瞬悲しそうな顔をした後、はっきりと言った。


「そのままでいいの?蓮はずっと自分を偽り続けるの?本当に・・違うもので満たさ

 れるの?」

「・・・そんなじゃ、ないよ」

「じゃ、なんでこっち見ないの?蓮は簡単なことで動揺する人じゃないでしょ?私が

 一番よく知っている。ねぇ、蓮はまた同じことを繰り返すの?」

「・・・え?」

「蓮が私のことを好きじゃないことは知ってたわ。ただ責任感で私の側にいたこと。

 それでも手放せなかった。私が運命の相手だと疑いたくなかったから。でも・・・」


美穂の強い意志を持った瞳が一瞬揺らいだ。蓮はそんな美穂の様子をじっと見つめる

と何かが頭の中で過った。その何かが解らないまま口にしていた。


「美穂・・・あの時何か・・・」

「・・・・」


蓮はその後の言葉を飲みこんだ。”あの時”の意味が自分でも分からないまま呟いてい

るにも関わらず美穂は理解したような顔をして微笑している。


”あの時”


俺はそれ以上聞くのが怖かった。

頭の中に過ったモノが妄想か現実か。

ただ今分かることは美穂が確信を持っている”何か”があるということだけ。








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あとがき↓

ちょびっと変えてみた。美穂の妄想だけに終わらないようにちょびっと。書きたい
場面になるまでに山がいくつもまだあることに気付く。もしかしてあの話より長く
なるのか??たら〜〜っと汗をかいてしまいました。途中ぷちっと切れないように
最後まで頑張りたいです(問題はモチベーション保持ですねぇ・・・)