「君までもうすぐ」6 

風、爽が高校3年、大学が決まった後の話。たった一日の話です。それなのに

5話ぐらいまで長くなってしまい・・・。(のはずが、収まらなかった〜!)


* 思わぬハプニングでホテルに泊まることになった爽子と風早。先に進みたい
  という気持ちと爽子を大切にしたい気持ちが風早の中で入り混じり・・・。最初
  は爽子目線、その後風早目線です。最終話です。


こちらは、「君までもうすぐ」      の続きです。

以下からどうぞ↓















*************



風早くんが近づいてきて、”キス”されるのかと思った。


どきん、どきん


胸のどきどきが止まらない。でも・・・・・。

何だろう?この気持ち。さみ・・しい。


爽子は気がついたら風早を後ろから抱きしめていた。


「あ・・・あのっ・・・ちがうのっ////」

「えっ?・・・違うって・・・?」

「ご・・・ごめんなさいっ!下心ばっかりの私で・・・・/////」


恥ずかしい・・・こんな欲張りな私、嫌われる。怖いと思う反面、もっともっと風早くん

に近づきたくなって。触れて欲しかったなんて・・・・・。


すると、風早くんの唇の感覚を感じた。

その時、分かった。ああそうか・・・。ずっと欲しかったんだって。

自分の中が不思議なほど満たされるのを感じた。


風早くんといるとどうしたらいいのか分からなくなる。一緒にいると幸せ過ぎて、不安

になって・・・・。どう接したらいいのか分からなくなる。これが人を好きになるというこ

となのだと知った。そして、人を好きになると触れたくなることも。


「・・・無理しないでいいんだ」


風早くんが優しく言った。抱きしめられていた自分の身体をそっと離して、風早くんの

顔を見る。そこにはとても優しくて暖かい笑顔があった。



* * * * *



黒沼を抱きしめてどのぐらいたったのだろう。段々と興奮していた自分から穏やかな

自分へと変化しているのが分かった。

黒沼に触れているんだ。興奮しないわけがない。でも、何だろう・・・それ以上に大切に

したいという気持ち。頭では分かっていたのに、自分のことしか考えてなかった。必死

で俺を受け入れようとしている純粋な彼女の目を見て気がつくなんて・・・・。


震える爽子の身体を抱いて、風早は自分の気持ちを落ち着かせた。そして、そっと

身体を離して肩に手を置くと、照れた表情で爽子を見つめた。


「あのさ・・・黒沼はその・・・キスの先のこと分かる?」

「え!?/////」


彼女の大きな瞳がゆらゆらと揺れ出した。動揺しているのが分かる。嫌われるかもし

れない。でも、俺の下心と彼女の下心は違うということを知ってもらいたいと思った。

ちゃんと、素直に気持ちを言いたいと思った。

これから先、ずっと一緒にいたいから・・・・。


「俺・・・ずっと我慢できなくなってた。黒沼と会っていると」

「・・・・・・」


付き合いだしてすぐに彼女の家に行った時、おじさんとおばさんの前で言った。”まじめに

付き合います”・・・と。ずっと真面目に付き合ってきた。彼女が大事だから。ずっと大事に

したい。その気持ちは変わらない。だけど、一緒にいればいるほど加速していく想い。好き

になればなるほど、一緒にいると触れたくなった。黒沼の全部が欲しくなった。それは責任

の伴う行為だと分かっている。でもただ純粋に彼女が欲しくて・・・・。


「俺・・・男だから。その先に進みたくなるんだ。黒沼をもっと知りたくて」


風早に熱く見つめられ、爽子は恥ずかしくなって俯いたままぽつりと言った。


「ちゃ・・・んと知ってるよ。その先のこと・・・」

「!」


風早は爽子の言葉を一語一句逃さないように、耳を傾けた。爽子は真剣な風早の目をじっと

見つめると、一息ついてから素直に自分の中にある想いを告げた。


「私も、風早くんのこともっと知りたいって思う・・・。でもまだ怖くて・・・不安で・・」


爽子の瞳からまた一滴の涙が落ちた。


「黒沼・・・」

「でも・・・でもっ、いつかその先を風早くんと進みたい。風早くんとがいいの・・・」


風早は真っ赤になって、それでも一生懸命に想いを言葉にしてくれている爽子に涙が出そう

になった。


「・・・だから、同じ・・だよ。風早くんと同じ気持ちだよ」

「・・・・」


ずっと、こんなことを考えるのは俺だけだと思ってた。速度は違うけど、同じ気持ち・・・・

持ってくれてる。なんて愛しいんだろう・・・・。


風早の中にある、本能的な”男”の部分と、言葉で表せないような”愛”の部分。でもそれも

全部、彼女だから感じる感情なのだって。


「・・・うん。分かった。ありがとう。気持ち言ってくれて」


風早は爽子の髪を優しくなでて、もう一度ぎゅっと抱きしめた。


とくん、とくん、とくん


お互いの心臓の音が重なる。抱き合っていると溶けていきそうだ。彼女はどこまでも柔ら

かくて、暖かくて・・・・。


「・・・しあわせ」

「え?」


彼女はぽつんと囁くように呟いた。その言葉に俺は胸が熱くなる。


「こうやっているとドキドキするのに幸せ・・・・。」


どくん、どくん、どくん


二人の心臓の音が同じ速さで感じられる。この重なってる感覚は言葉にできない程、愛しさと

安心感を運んでくれる。ああ・・・そうか。今はこれでいいんだ。何も急ぐことなんかないんだ。

こうやって抱き合っているだけでこんなに愛を感じられるのだから。


「黒沼・・・好きだよ」

「・・・私も。」


俺達はベッドに横になった。彼女を抱きしめて眠る夜。


「4月からは今までみたいに会えないけど、ずっと変わらないから」

「私も・・・」

「・・・・・」


そして、風早は少し宙を見たあと、恥ずかしそうに爽子に言う。素直な想い。


”「いつか・・・・黒沼の全部もらうよ。覚悟しといてね///」”


窓の外は雪景色。でも俺の心はきっとどんな暖房器具より暖かい。そして顔が間違い

なく緩んでる。

俺の耳元に微かに聞こえた、黒沼の返事。


”「・・・うん////」”


きっと、これからも一緒に歩いていける。だから、ゆっくり味わっていたい。

”君までもうすぐ”   そんな大切な時間。




<END>









あとがき↓

そして次の日、爽子を送り届けて父と会った風早は、『手出さなくて良かったぁ〜〜!』なんて
心から思うのでした。ちゃんちゃんっ。私的にはこの二人、高校生のうちはないのかなって。な
んかそうあって欲しいと思ってます。ヘタレ風早には違いないけど。今度はかっこいい風早くん
を書きたいなぁ〜。それでは最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

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