「Once in a blue moon」(39)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 の続きです。  
 


☆ 探している答えが蓮と美穂の中にないかもしれないと庄司に言われた麻美。自分でも
何を求めているか分からなくなっていた。そんな麻美の心を見抜いていた庄司は・・・?
この回から庄司目線で話が進みます。






















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 39 ‥…━━━☆




















その真っ直ぐな目に応えることができるだろうか・・・?


庄司は内心そう思った。

診療室に飛び込んで来た時から分かった。彼女は彼が好きな一心でここに来たのだ。

でもきっと一諸にいればいるほど、愛されている自信がなくなる。だから真実を探す

旅に出た。美穂さんへの想いが今も蓮さんの中に愛情として残っていたのなら、答え

は簡単だったのに。


カチカチカチ


麻美は庄司を複雑そうな表情で見つめながら何やら考え込んでいた。やたらと壁時計

が時を刻む音が響く。庄司は先ほどから神経が疼いていた。

少し接しただけでも麻美の鋭さが分かった。もし、何か勘付かれたら?

確証がないことを勘付かれるわけにはいかない。そして・・自分の発言によって二人

の仲を壊すわけにはいかない。二人の仲だけではなく彼女を取り巻くすべての環境を。


「・・・先生?」

「・・・はい」

「先生・・・私、何を知りたいのか分からなくなってきました」

「・・・・」


彼女が蓮さんに感じているもの。それは本物の愛。それが自分にないとしたら、蓮さん

の過去にあるかもしれないと感じていたはずだ。でもそこにもないとしたら・・・?

きっと彼女は感覚的に感じている。蓮さんが本気で人を好きになる人間だと。だから

漠然と答えにならない何かを探し続ける。


「・・・自分でよければ麻美さんが疑問に感じていることお答えしますよ」

「・・・・」


こう言うしかできなかった。確証のないことは言えない。でも庄司は分かっていた。

自分の想像が正しいとしたら、物事の根源は全てそこにあること。


想像が正しいのであるならば・・・。


麻美は顔をぐっと上げると、決心したように庄司を見上げて言った。


「じゃ、蓮と美穂さんの恋愛のこと・・・もう少し教えてください」


庄司はしばらくの間の後、コクンと頷いた。そして遠い目をして話し出した。麻美は

身構えるように息を潜めて庄司の言葉に耳を傾けた。


「彼に出会ったのは8年前のことでした」


川嶋蓮・・・


美穂さんを診てからすぐに蓮さんに出会った。深海のような色をした陰りのある瞳。

絶望を感じるが不思議なほど”生”を感じる瞳。そのアンバランスさに興味が湧いた。

繊細だが強い。その強さが人を寄せ付けない。孤独感を決して見せない。そんな彼が

魅力的だった。もし、美穂さんに会っていなかったらもっと光の当たった明るい未来

を描いて歩いていけたのだろうか・・・そんなことを考えたことを覚えている。


* * *


『タバコ・・・吸うんですね?』

『あ・・・』


ある時、談話室で彼が一人で煙草を吸っていた。美穂さんが入院してから1年が経過

していた。その間蓮さんの沢山の苦しみ、悲しみ、絶望を見てきた。重い荷物を抱え

きれなくなったのだろう。しばらくの間姿を見せなくなった蓮さんが戻ってきた後、

初めて会った時のことだった。


『止めてたんですけどね・・・・時々誘惑に負けてしまって』


そう言って、彼は寂しそうに笑った。寂しそうに見えるのは私の偏見かもしれないが、

出会った頃から彼は感情を失っているように無機質に感じていたから驚いた。初めて

感情がある顔を見たのだ。この頃からだった。彼の変化を感じたのは・・・。


『なにかありましたか?』

『え?』


その時、私が感じ取ったことを蓮さん自身が感じているように思った。つまり何も言

わなくても不思議に思いが通じていたのだろう。珍しく蓮さんが自分のことを語り出

した。


『俺、美穂の何に惹かれたんだろう・・・って改めて考えてたんです』


私は蓮さんの前のベンチに腰を下ろして話に聞き入った。

話を聞いていると蓮さんの過去の姿が見えてくる。蓮さん自身をそのまま受け入れて

くれたのが美穂さんだったようだ。蓮さんは美穂さんによって閉じこもっていた殻か

ら抜け出すことができたのかもしれない。


『でも・・・違うんですね。今考えればそれは恋愛ではなくただ自分を分かって欲し

 かっただけで、俺も心のどこかで人を求めていたことを知りました』

『はは・・・そりゃ人間は誰でも求めます』

『そうなんですよね・・・そんなことにも気づかなかった』


その時の蓮さんはとても穏やかな表情をしていた。私は彼の変化に心が躍動するのを

感じていた。彼の何に魅力を感じていたか・・・・それはきっと純粋さだ。無機質な

色のない目をしながらも彼の中に残る純粋さに惹かれていたのだ。


『どうして・・・そう思ったんですか?』


私にそう聞かれて彼は少し躊躇した表情を見せたが、私をじっと見つめると再び穏や

かな顔に戻り、静かに目を瞑って言った。


『・・・ある男に出会ったからです』


正直驚いた。人に影響される人間じゃないと思っていたから。そして彼を動かすとは

相当な男だと。


『でも美穂さんとのことは立派な恋愛だと思いますけど・・・今はそう考えられなく

 ても当然ですが』

『いや・・・違うんです』


なぜ彼がそう言ったのか、この時は分からなかった。でも後から知った。彼は影響を

受けた友人の恋愛を見てそう思ったということを。その時思った。蓮さんもその友人

と一緒で貪欲に本物の愛を求める人間だと。


だからこそ・・・今は自分を肯定できていない。いや、できるはずがなかった。

本物に出会ってしまったのなら尚更・・・



* * *



庄司は自分の心の内に蓋をするように麻美から一瞬視線を逸らして話し続けた。


「・・・つまり蓮さんは孤独を好むように見えてちゃんと人を求めている人です。
 だから麻美さんとも付き合ったんでしょうし」

「・・・でも、風早さん達を見て自分は”本気の恋愛をしていない”と思った」


麻美は一点を見つめながら考え込むようにして言った。思わず庄司はドキッとした。

少し話しただけでも事の真意にぐいぐいと迫ってくる。


「私は蓮が美穂さんに別れを告げた理由は美穂さんの病気を背負い切れなくなったか
 らだと思ってました。でも・・違うんじゃないですか?」

「・・・・・」

「蓮は例え恋人が病気でも好きなら背負っていくような気がする」


さすが蓮さんの選んだ人だと庄司は思った。例え100%ではなくても彼は確かにこ

の人が好きで一緒に居たいと思ったはずだ。


「・・・美穂さんはどうして爽子さんにナイフを向けたんですか?」


彼女の視線が鋭く庄司の目に刺さる。鋭いナイフのように・・・。庄司は思わずゴクッ

と生唾を飲み込んだ。





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あとがき↓

ナイフの話、37話で出てたのに文が消えたので分からなくなってその後修正すると
こんな後になっちゃいました。筋は決まってるんだけど上手く書けないなぁ・・・。
あと、2回ぐらい庄司先生目線が続いてやっと仙台からおさらばの予定!早く爽子出
したいよ・・・。そこまでは頑張ります!