「Once in a blue moon」(35)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 の続きです。  
 


☆ ”蓮の幸せ”を語られた麻美は思わず素が出てしまうが・・・?























・‥…━━━☆ Once in a blue moon 35 ‥…━━━☆










”蓮の幸せ・・・それは好きな人と一緒にいること”


彼女はそう言った。

私もずっと蓮に幸せになって欲しいと願っている。でも何が蓮の幸せなのか分からな

いままここまで来た。少しでも本当の蓮を知って蓮の幸せを見つけたいと・・・。

でも彼女の言う事は明瞭だった。そう、蓮の幸せとは好きな人と一緒にいることだ。


『今の蓮は幸せじゃないわ』


何でわかるの?何も知らないくせになぜそんなこと言えるの?


私は心の声を必死で飲み込んだ。悔しくて・・・そして悲しくて全身から湧き出てく

る怒り。でも自信を持って否定できない自分がもどかしかった。


表情を上手く作れない私を彼女はじっと睨んでいるように感じた。なぜか別人のよう

に見える。少女のような人がいきなり大人になったような。そうか・・・目だ。目が

違う。怖気づいたように身構えて見ていた私に、彼女はにっこりと微笑んだ。


「どうしたの?何か顔色悪いわよ?」


ぞくっ

私はその微笑みに背筋が凍る感覚を覚えた。何だろう・・・笑っているのに笑ってい

ない。そんな気がした。やはり何か感づかれたのだろうか?


「あっ・・あぁ大丈夫ですっ。何か喉乾きません?お茶でも買ってきますがいかがですか?」


バレるわけにはいかない・・私は必死で取り繕った。体中、冷たい汗が滲み出ている。


「ううん・・・ありがとう。私、家のお茶以外苦手なの」

「あっ・・そうですか。じゃ」


麻美は目の前の自販機に向かった。背中に視線を感じる。


どくん・・・どくん


(・・・でも、感づいていたらもっと拒絶しそうだし)


お茶を買って振り返ると彼女は天使のような表情に戻っていた。もうこの話題に触れ

ることを止めたかった。危ない橋を渡るのは恐ろしすぎる。


「・・・まだお迎え来ませんね?」


私は彼女の隣に戻り、お茶を一含みして気持ちを落ち着かせた。そして意識的に先ほ

どの話題から遠ざけようとした。しかし・・・だめだった。


「ねぇ・・・蓮はどうして幸せじゃないか分る?」

「え??・・さぁ」


私が顔を歪ませても彼女は気にしない。自分の世界に入って話し続けた。まるで夢見

る少女のような顔で。


「だってね、好きな人と一緒にいられないんだもの」

「・・・・」


(自分だと言いたいのか・・・)


麻美はこれ以上動揺するわけにはいかないと思考をストップさせて仮面をかぶった。

美穂が自分の存在を知っているはずはないのだ。誰も言えないはずだ。


「蓮の好きな人は私も大好きな人なの。とってもきれいなのっ。蓮と一緒!」

「はぁ・・・」


妄想壁もここまで来るとすごいと思いながら、興奮して言う彼女の話を聞いていた。

どうも彼女の言う”蓮の好きな人”は自分ではないようだ。


「ねぇ、どうして蓮はその人と幸せになれないか分る?」


(知らんわっ・・・そんなもん)


一人暴走している彼女を呆れ気味に見ると、麻美は心の中でツッコんだ。


「だってね、その人は結婚して旦那さんがいるんだって」

「へぇ・・・」

「でも、私知ってるの。それは仮の結婚だって。本当は蓮と一緒になりたいはず。あぁ

 早く蓮を幸せにしてほしい」


(やばいわ・・・妄想暴走してるわ)


麻美は蓮が彼女と別れた理由が分った。病気の彼女に献身的に尽くすというのはもはや

愛情じゃない。これは・・・厳しい。ものすごく美しいけど、やはりまともじゃないっ

て大変だ。麻美は変な安心感を感じた。もう、モトサヤに戻ることはないという。


「あの、やっぱりお迎え遅いですね」

「どうしたのかな。いつもはすぐに来てくれるんだけど」


彼女を一人残すわけにはいかない。他人だからほっといたらいいのだが、またトラブル

に巻き込まれるのは目に見えていた。そんな責任感のないことはできない。


(はぁ・・・)


麻美は大きくため息をついた。そんな麻美の様子を気にできないのも病気なのだろう。

彼女はどんどん一人の世界で話しを進める。


「それでね、蓮の好きな人はとってもきれいなの。二人の子どもはもっときれいなの。

 私は二人の子どもが出来たと聞いた時、神様に選ばれた子だとすぐ分かったの」

「はぁ・・・」


興奮気味に話す彼女にもうついていけなくなった。


(はよ・・・帰りたい・・・昌さぁ〜〜んっ)


「私はね、前から蓮には月が似合うって思ってたんだけど、ちゃんと子どもに月にち

 なんだ名前を付けていて、嬉しかったのっ」

「へぇ・・なんて?」


辟易しながらも聞き返してしまった。そう・・・妄想に付き合ってしまったのだ。


(・・・っえ?)


今、なんてった?


「す・・・すみません。聞こえなかったんですがもう一度言ってもらえますか?」


思考がストップした。


「−結月ちゃん」


彼女は今度ははっきりと大きな声で言った。幸せそうに。


「いつか・・会えると信じてる」


どきん・・どきん・・どきん


私の心臓が再び早い鼓動を打ち始めた。


ちょっと待って・・・なせ爽子さんの子どもの名前を知ってるの?


麻美の仮面はいとも簡単に破かれた。そしてそれとなく聞いていた今までの会話を頭

の中で反芻する。

・・・ということは彼女の言っている蓮の好きな人というのは爽子さんと言うことに

なる。妄想癖だと思いながらも私は動揺を隠せなかった。

でも、そう考えれば爽子さんにナイフを向けた理由に合点がいった。でも、おかしい

のは彼女は爽子さんを好きだと言った。”きれい ”だと。今までの話を聞いていても

彼女がキレイナモノに異常な興味を示していることが分る。どこでどうこんな妄想が

出来上がったのだろう?


”結月”と言う言葉に動揺した麻美だが段々冷静に考え始めた。


「その結月ちゃんて子どもには会えないの?」

「うん・・今は会えない。私、ちゃんと仕事をして立派になったら爽子ちゃんと蓮と

 結月ちゃんに会いに行くの」


”爽子ちゃん・・・”


ここではっきり名前が出た。

そう言った彼女の目が輝いていた。それは彼女の心の支えなのかもしれない。


「でも、蓮さんって人はその好きな人と一緒にいられないんでしょ?」

「今はね。でも運命の相手だからきっといつか一緒にいられる」

「・・・あなたは運命の相手ではなかったんですか?その蓮さんって人の・・・」

「うん、そう。違ったの。運命の相手はこの世にたった一人だから」

「・・・・」


蓮の幸せ・・・それは好きな人と一緒にいること。私の幸せは蓮と一緒にいること。

だから蓮の運命の人でありたい。彼女のように終わった恋なんかじゃないのだから。



終わった恋ではないのだから



麻美は心の中で自分に言い聞かせるように叫んでいた。






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あとがき↓

あぁ・・・美穂編ちょっと区切った。終わるはずだったのに。長くなりすぎると疲れ
ますもんね。すみません・・・いつもながら長々と。もう少し美穂出ます。