「Once in a blue moon」(34)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 の続きです。  
 


☆ 麻美は美穂探しに行った先である女性に出会う。その女性が言った言葉に動揺する
麻美だが・・・?




















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 34 ‥…━━━☆




















どくっ


今・・・なんてった?


麻美の心臓が大きく跳ね動いた。


「え・・・?っと」

「蓮はね、”頑張れ”とか言わないの。だから私が”頑張る”って約束したの」

「れ・・・れん?」


私は頭に浮かんだ人を必死にかき消した。いや、かき消そうと必死だったと言うべき

か。そんなわけはない・・・こんなに簡単に出会うわけがないと。その人物を探しに

来たのになぜこんなに私は焦っているのだろう・・・。


(落ち着いて・・・落ち着こう)


ドクドクドクッと動悸のような心臓の音を必死に落ち着かせる。私は明らかに焦って

いた。その理由を本当は分っている。


天使のような微笑みに長い柔らかそうな髪。


あまりにも・・・目の前の女性がきれいだったから。

無意識に敗北感を感じていたのかもしれない。


どくっどくっ


でも・・・

私はあまりの衝撃で周りが見えなくなっていたのだが、よく考えてみると道路の真ん

中で見ず知らずの人間に恋愛話をするというのも変な話だ。そう、普通じゃない。


「うん。元カレなんだけど・・・今も大好きなの」

「・・・・」


目の前の彼女は少女のようにキラキラした瞳を揺らしてそう言った。


「大好きだけど・・・もう会うことはないの。きれいな想い出でいいの。永遠にするの。

 ねぇ、あなたはきれいなもの好き?」


キレイナモノ?


(・・・この人、何言ってんだろう)


「え??そ・・そりゃ嫌いじゃないけど?」

「蓮はとってもきれいな男(ヒト)なの」

「・・・・」


やっぱり病的だと思う。空気を読まない、会話が一方的。話の文脈が何か変だ。固有

名詞なんか普通は使わない。そして話が現実離れしている。話しているとやっと分か

ってきた。普通じゃないこと・・・。まぁ普通って何だろうとか思うんだけど・・・。

それをいいことに私は彼女を近くのベンチに誘導していた。すると、彼女は恥ずかし

そうに顔を赤らめた。


「ごめんなさい・・・見ず知らずの方に。何かあなたに話したくなったの」


何だろう・・・普通じゃないと思ってたけど、普通かも。よく掴めない。私はこの人

なら聞いても大丈夫なような気がして直球をぶつけてみた。


「あの、気に障ったらごめんなさい。病気って・・・?」

「ん〜〜なんか解離性人格障害っていう精神疾患だったみたい」

「あ・・・そうですか」


さらっと言われて焦った。”そうですか”と言うのもおかしいけど、あまりにも他人事

のように話すのでそう返した。


「今はちゃんと薬を飲めているし、すっかり良くなったんだけどね。何より最近仕事

 を始めたんです。一歩踏み出したの・・・蓮のおかげで」

「・・・・」


れん・・・れん   平気で呼び捨てする人。


彼女が”蓮”と言うたびにジリッとした感情と一緒に胸の奥に鋭い痛みが走る。

私は恐る恐る聞いた。


「その・・”れん”さんとヨリを戻し・・たいんですか?」


心臓の音を漏らさないようにと必死だった。彼女を真っ直ぐ見ることはできず、俯きな

がら聞いた。するとしばらくの間の後、彼女の小さなため息が聞こえた。


「ううん。戻さない。私、ひどいことしたの。もう・・・あんなことしない。蓮を傷

 つけたくないの」


”あんなこと”・・・?


どくんっ


私は直感的に爽子さんにナイフを向けたことだと思った。そう、私はすっかり認めて

いた。彼女が”美穂さん”だと・・・。自分の正体を明かさないで卑怯だと思う。でも

病気の彼女の引き金を引くわけにもいかない。それ以上に・・・知りたかった。

麻美はぎゅっと膝で拳を握りしめると、平然を装って質問した。


「傷つけたって・・・?」

「うん・・・蓮がいなくなることが怖くてがんじがらめにしてたの。病気ならずっと

 側にいてくれるからずっと病気でいようと・・・」

「・・・・」


彼女は涙をぽろりと流した。その姿も美しい。本当にきれいな人。

こんな人と蓮は付き合ってたんだ・・・なんて他人事のように見ていた。人は衝撃を

受けすぎると冷静になるもんだ。私は彼女とベンチに座り、こうやって話しているこ

とが現実ではなく夢の中のような感覚に陥っていた。


「だから私の償いは蓮の幸せを心から願うことなの」

「・・・・」


蓮の幸せ・・・そんなの私だって願っている。いつも・・・。


そう、その時の私は夢の中にいた。一点を見つめながら頭に浮かんだことをそのまま

口にしていたのだから。


「・・・蓮の幸せって何?」


(!!)


はっとして彼女を見た時に遅かったのだと悟った。じっと私を見つめたまま彼女の動

作が止まっていた。


「あっちが・・っその、蓮さんって人のっ・・・」


上手く言葉が出ずにいかにも焦っている私に彼女はにっこりと笑った。


「ん〜〜蓮の幸せは好きな人と一緒にいることかなぁ」

「あ・・・っそう、ですね」


無邪気な感じで言う彼女を見て、麻美はほ〜〜っと胸を撫で下ろした。


(大丈夫だったみたい・・・)


「誰でもそうですよね!好きな人と一緒にいるって大切ですよね・・・」

「そうなの・・・でもきっと今の蓮は幸せじゃないわ」

「・・・え?」


どくっ


「ど・・・どうして?」


その時、彼女の目が変わったような気がした。無邪気な感じが消えて鋭い目

で私を真っ直ぐ見ていた。そう・・・まるで睨むように?




どくん・・どくん



私は彼女から目を逸らせなかった。

後から気づく。自ら大きな地雷を踏んでしまったことに・・・。





「Once in a blue moon」 35 へ

















あとがき↓

やっぱり美穂は病気から抜け出せなかったのか!?(-_-X)次で多分美穂編終わります。
果たして面白いのか・・・この話。私は楽しいですけどね。パラレルもここまでオリ
キャラで固めるとどうかと思いながらも結局書きたいものを書くんですけど( ̄ー ̄)ニヤリ 
いつもお付き合いありがとうございます。