「Once in a blue moon」(18)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは「Once in a blue moon」1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 の続きです。 


☆ 風早の家に泊まることになった蓮。久々に二人で飲み明かしながら深い話になっていくが・・。




















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 18 ‥…━━━☆












「・・・幸せってなんだろうな」


蓮はひとり言のようにグラスを傾けながら言った。窓から満月に近い月が妖しく浮か

んでいるのが見える。お互い本音で向き合える不思議な夜だった。


翔太は憂いを感じる蓮の目を見ながら手に力を籠めた。熱い思いが体中に湧き上がる。


「幸せの価値観は人によって違う。だから・・・蓮が恋愛で幸せになれるってそんな

 風にも思ってない」

「・・・・・」

「だけど、蓮が自分を偽ってる限り前に進めない」

「偽る?」


二人の間に緊張感が走る。翔太は今まで蓮の深い部分まで入りこむことはなかった。

それはお互いが個人主義というのもあるが、自分よりも重い人生を生きてきた蓮に言

えることはないと思っていたからだ。しかし、このままでは蓮は苦しみ続けるような

気がしていた。


「・・・美穂さんと別れてから誰とも付き合わなかったのに何で?」

「え・・・?だから、今言ったじゃん」


普段になく、挑戦的な翔太の様子に蓮は戸惑いながら眉を顰めた。


「俺は蓮の本音が聞きたいんだけど?」

「・・・・・」


蓮はその強い瞳から逃げることができなかった。お互い無言でしばらく睨み合うよう

に見ていた。そして蓮は肩で大きく息を吐くと、頭を抱えるように手を額に当てた。


「ははっ・・・そんなに真っ直ぐ俺を見るなよ。だから俺は翔太と違うんだって」

「・・・蓮はいつもそう言うけど、何が違うって言うんだよ」

「・・・・」


お互いの視線が交差する。翔太は一歩も引かなかった。


「・・さっき、”簡単に言ってくれるな”って言ったけど、本当は翔太が簡単に言ってる

 なんて思ってない。俺のことを心底心配してくれてるからこそなんだって分かってる」


そして蓮は翔太から視線を逸らした。


「だけど・・・やっぱり翔太には分からない」

「・・・・」


翔太は蓮の闇のように深い目をじっと見つめると、ぐっと拳を握りしめて苦しそうに

思いを感情的に吐き出した。


「でもっ・・それでも・・・俺は蓮を知りたいっ!!・・・何かに苦しんでたら同じ

 ように苦しみたい。離れてもずっとそう思ってた」

「・・・・」


蓮は汚れのない翔太の真っ直ぐな目を見ながら、思いを噛みしめるようにその言葉を

聞いていた。そしてふっと笑みを浮かべた。


「さんきゅ。俺にとって翔太は大きい存在だというのは本当だよ。だけど・・・」

「だけど?」

「・・・たまにメンドクサイ」

「えぇぇぇっ・・・!!」

「ははっうそうそ。頼りにしてるって」


最後ははぐらかされたが翔太はこの夜、蓮の本音が少しだけ見えたような気がした。


蓮の瞳は仄暗い海の底のようだ。深海の中では何も見えない。一体どれだけの苦しみ

を抱えているのかも分からない。翔太は蓮の力になれない自分自身に苛立ちを感じる

がどうすることも出来なかった。



* * *



「やっぱ翔太の負け」


それからいつもの二人に戻り、仕事の話に夢中になった。時刻は夜中の3時を指して

いた。すっかり眠りの中にいる翔太を見て、蓮はやれやれとブランケットを掛けた。

それからも蓮はいくら飲んでも酔えない酒を一人で飲み続けた。

頬杖をついてグラスの氷を揺らすと、先ほどの会話を思い浮かべる。


”「・・・美穂さんと別れてから誰とも付き合わなかったのに何で?」”

”「俺は蓮の本音が聞きたいんだけど?」”


蓮は哀しい気な笑みを浮かべる。


「・・・言えるわけないだろ。お前だけにはさ」


翔太からはすーすーと静かな寝息が聞こえる。その顔はいつもよりさらに幼く見え、

とても子供がいるようには見えない。


がたっ


その時ドアの向こうで物音がした。蓮はハッとして振り向くと、暗がりに小さな輪郭が

あった。小さな影が戸口から漏れる月明かりに揺れている。


「・・・ゆづ?またトイレか?」


すると結月はゆっくりと近づき、蓮をじっと見ると頭をなでなでした。


「・・・え?ゆづ?」


そしてぎゅっと抱きついた。蓮は訳が分からなかったが、その柔らかな小さな身体を

ぎゅっと抱きしめ返した。すると不思議なほど心がきれいになっていくような気がし

た。ふと目線を上げると、暗がりに自分の顔が映し出されていて驚く。そこには姿見

が置いてあった。


その姿があまりにも情けなくちっぽけに見えた。


「・・・ゆづ・・俺、そんなに情けない顔してる・・・?」


ゆづは何も言わずにそのままぎゅっと蓮に抱きついた。何でそんなことを思ったのか

分からない。


感覚的に慰められているような気がした。


泣きたい気持ちになる。胸の奥が苦しいほど疼く。この気持ちをどう表現すればいい

か分からない。ただ、この小さな存在は唯一自分の心を癒してくれる。


「・・・ありがと。ゆづ」



結月を抱きしめながら、窓から見える蒼い月を眺める。

今夜もブルームーンはやって来ない。でもなぜだか、月が優しく自分を包み込んでく

れているような気がした。


胸の中にある確かな温もりと、無邪気な顔で眠る親友を見て、蓮は穏やかな顔で微笑んだ。






「Once in a blue moon」19 へ













あとがき↓

ねぇ・・・暗くなるでしょ。蓮の話はどうも暗くなっていかん。爽風のいちゃいちゃ
を書かないとやってけないよ(´д`)┌ ナ〜ンテ自分の妄想なんですけどね。
そんなでよければ見てやってください。