「naturally」 8

この話は「君までもうすぐ」のその先を書いた話です。あの夜、未遂に終わった二人
が最後の関係までいくのがテーマです。(いくのか!?)ヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ

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こちらは「naturally」         の続きです。


※ 「君までもうすぐ」を読まなくても全然大丈夫です。


☆ ”下心は好きだから自然に持つもの” あやねにそう言われ、爽子は翔太と向き合
   おうと決心するが・・・?
  

























初めての恋は今まで知らなかった自分と出会ってばかり。

彼を知ってどんどん知らなかった自分に出会う。

それはきれいな感情だけではなく、醜くて、苦しい。

でも、そんな自分を受け止めなければ前には進めないのだと。


私は、その先に行かなければならない。


好きだから・・・・。







「naturally」(8)











*********



爽子の携帯には10件以上の着信履歴とメール。どれだけ、翔太が心配して探してくれ

たのか分かる。


(・・・自分のことしか考えていなかった)


爽子は逃げてしまった自分自身を恥じた。そして翔太に申し訳ない気持ちが広がった。

今の自分の気持ちを伝えないといけない。もう、逃げるわけにはいかないのだから。


どくん、どくん


”今すぐ会いに行く”と言った翔太を止めた。”自分が会いに行く”と譲らなかった。

なぜなら、逃げたのは自分だ。


プップー


道路に面した道はたくさんの車が行き交っている。

爽子は、夜のネオンを見ながら、その道すがらいろいろと思考が巡った。


何であの時逃げたのだろう。


翔太くんと楽しそうに話している彼女の顔が脳裏から消えない。大学に入って、自分

が知らない人と翔太くんが話しているのを見かけたことはある。高校の時から人気者

の翔太くんが、女の子と話していることなんて普通だったし、翔太くんは私を ”彼女”

と公言してくれ、必ず不安にさせないようにしてくれた。


でも、何だろう・・・?


大学に入って、知らない女の子と話す翔太くんを見て、胸がきゅっと痛んだ。それは

今までにも抱いたことのある感情だったけれど、何かが違う。なんだろう・・・。

不安と一緒に翔太くんを独占したい気持ちが広がる。


どうすれば翔太くんの”特別”になれるのかな・・・?


いつしかそんな想いが自分の中に生まれた。そんな想いを持つ自分を恥じた。でも、

その想いは消そうと思ってもなかなか消えなくて、ずっと苦しかった。


どくん、どくん


「・・・・」


爽子は胸の奥に鈍い音を感じて立ち止まった。


あやねちゃんは好きなら下心を持つのは自然なことだと言った。でも、もしかして、

私の下心は・・・・”独占欲”なんじゃないだろうか?

その先に行きたいのは・・・・?


爽子はばっと道の真ん中でうずくまった。視界が真っ暗になる。


(・・・会えないっ)


ドックン・・・


想いの先にあった、下心。ただの下心ではない。それはとても・・・醜い感情。


気づいてしまった爽子は前に進めなくなった。



* * *



「え?爽子が来ない?」


あやねは翔太からの電話に目を丸くさせた。爽子が家を出て行ったのは1時間前。翔太

の家までは20分かからないはずだ。何度爽子の携帯に掛けても繋がらないと言う。


(あのまま駆け出して行ったにしては・・・ちょっと遅いか)


寄り道をするようには見えなかった。すべて吹っ切れたような笑顔に見えたが・・・。


どくんっ


あやねは悪い予感がした。

とりあえず、自分も探すと、電話を切った。時刻は21時を回っていた。



* * *



「ー矢野っ!」

「あっ風早!いた?」

「はぁはぁっ・・・いない」


翔太は前のめりになって、呼吸を整えた。全身汗だくであまりの必死な様にあやねは

いかに翔太が爽子を大切にしているかを感じた。それは高校の時とまるで変わりない。


「爽子の家もいなかったんだよね?」

「・・・うん」

「でもさ、まだ1時間ちょっとしかたってないしさ。迷ってるのかも」

「・・・・」


あやねの家から翔太の家まで爽子が直接に行くことは初めてだった。しかしそれほど

道に弱くない爽子が迷うということは考えにくかった。とりあえず、可能性のある道を

探っていく。二人は一緒に歩き出した。二人が会うのは高校卒業以来だった。


「あ"〜〜〜っやっぱ俺が行けば良かった。夜道だから行くって言ったんだけど・・・」


ひとり言のように叫んでいる翔太をちらっと見るとあやねはからかうように言った。


「まさか居留守とかじゃないんでしょうね」

「・・・・」


冗談交じりで言った言葉に翔太は黙り込む。その姿を訝しげに思ったあやねは、横を

歩きながらそれとなく、今日のことを話題に出す。


「もしかして何かあった?」

「・・・何かって?」


翔太は、じろっとあやねに睨まれているのに気付いて、バツが悪そうな顔で俯いた。


「・・・爽子と会っている時に、大学の子に出くわした」

「・・・・で?」


以前の翔太なら、他の誰かに二人のことを漏らしたりしなかっただろう。でもそこは、

ちょっと大人になったのか、普通に今日あったことを話し出した。あやねは爽子から

聞いていた内容を思い浮かべながら話を聞く。


「爽子を追いかけようと思ったら、その子に引き留められて・・・っ」

「!」


そこからは知らない内容だ。でも安易に想像がついた。


「・・・告られた?」

「ってわけじゃないけど・・・まぁ」


翔太は髪をくしゃっとしてやるせないような顔で下を向きながら小さな声で呟いた。そ

の姿を見ながら、あやねの顔がどんどん歪んでいく。そして腕組みをしながら言った。


「あのさ、爽子はかなりというかドがつくほど鈍い方だと思うけど、アンタも人のこ

 と言えないの知ってた?」

「は?」


いきなりのあやねの罵倒するような言葉に翔太は目を丸くさせた。


「高校ん時から自覚ないけど、女にモテんだよね。アンタ自身は爽子以外の女に興味

 ないかもしんないけど、他の女は違うんだよ」

「・・・・・」

「隙狙ってたんじゃないの?その子・・・風早、今は一緒のクラスじゃないんだよ。例えば

 風早が女の子といてその子のことをただの友達だと思っていても爽子に伝わるの?」


翔太はあやねを真剣な目で見つめたまま動かなくなった。


「・・・俺、爽子を不安にさせてた?」

「わかんないけど・・・爽子は嫉妬とかする子じゃないじゃん。絶対自分を責めるよね?」

「・・・・・」


翔太の真剣な目が揺らぐ。そして視線を下に落とすと苦しそうな表情を浮かべた。


「・・・あの時、なんで爽子は俺の前からいなくなったんだろうって・・・ずっと考えていた」

「・・・・・」

「爽子を探している間、不安で・・・どうにかなりそうだった。こんなこと初めてでっ・・・」


そう言って頭を抱える翔太は不安が前面に出てどうすればいいのか分からない様子だ

った。その姿を見てあやねは思った。


結局、恋愛は数学みたいに答えがはっきりと出るものではないのだ。自分で模索して

いく他はない。しかし、この二人には絶対的なものがある。それは誰もが羨み、手に

入れたくても手に入らないもの。自分さえ・・・。


あやねは翔太の一途な姿を見てせつない表情をすると、ふと微笑んだ。


「・・・結局似たもの同士なのよね。お互い大切すぎて時々行き違う・・・」

「・・・矢野」


その時、翔太は立ち止まった。


「ー何?」


視線の先には道路端の土手のところに佇む人影があった。暗がりだが長い髪が揺れて

いるのが分かった。


「ーじゃ、私は帰るわ」

「矢野?」

「見つかって良かったね。後は二人で話しなよ」

「・・・いろいろサンキュな」

「風早。あの子初めてのことにすごく疎いから。そして自分に対する好意にもね・・」

「・・・ん、分かってる」


あやねは優しく微笑むと、手を振って静かにその場を去った。

ずっと憧れて止まない二人の幸せを願いながら・・・・。








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あとがき↓

これは10話で終わる予定(多分)爽子目線は難しいわ・・・っちょっとイメージ違うし。
さてさて、別マもうすぐっ・・・うわぁぁ興奮してきた。1か月早いわぁ