「Half moon」番外編 ➋ 「ここから先」 中編 

長い片思いに疲れた昌は光平には気持ちを伝えず、諦めることを選んだ。違う人と付き合い
出した昌は・・・・?昌と光平のその後です。
これは「ここから先」 前編 の続きです。


※ この話は「Half moon」という話のスピンオフです。この話を知らなければ全く面白くも何も
  ないので、興味ある方は目次からどうぞ。長〜〜〜いです。

ごめんなさいっ。これで終われなかった(-_-X)・・・長くなったので区切ります。
ちょっと暗いですが、興味ある方は以下からどうぞ↓















「ここから先」 中編
















”・・・昌?”


答えない私に何回か光平は問いかけた。こんな時でも普通にしないと・・・と必死で涙をこらえる。


「・・・うん」

『何だ、焦った。今・・・大丈夫?飲み会の帰りなんだけどさ・・・』


光平の声を久々に聞いたような気がした。今までも諦めようと思ったことは何度もあった

けど、声を聞くとやっぱりだめで。そのたびに同じところに留まった。


「・・・・・・」

『・・・・・・』


いつものように言葉が出なかった。長い沈黙を破ったのは光平だった。


『・・あのさっ・・・「・・・今」』

『ーえ?』

「い、今取り込み中だからさ〜彼氏と・・・」


必死で言い放った言葉に再び沈黙が走る。


『あっ・・・ごめんっ』

「・・・それじゃまたね」


”またね”はあるのだろうか。友達として会えるのだろうか。自分が守ってきた場所を自分

から捨てたのだから。


『・・・昌。そのっ・・・良かったな』


ドクッ


この空洞のような胸をきっといつか埋められる日がくる。彼が埋めてくれる日が来るから。

流した涙の分きっと・・・・。

その感情とは裏腹に、気づいたら冷静に言葉が出た。


「・・・今、どこかにいるか知ってる?」

『え・・・?』

「・・・・なんでもない。」


こんな時に光平が電話を掛けてくるから悪い。まるで試されているように、神様は意地悪だ。


ガチャ


「!!」

「−昌ちゃん?」

『・・・・・!』


昌はバスロープを羽織っている彼を呆然と見つめる。

恋愛になると私はからっきしだめだ。男友達は多いのに、恥ずかしくて踏み出せなくて・・・。

いつも出遅れてしまう私のアクセル。でも、この時は考えるより身体が先に動いた。


バッッ


「ーごめんっ・・・」


気づいたら駆け出していた。もうどうしようもなかった。神様の試験に私は負けたのだ。


『ー昌??どうした?おいっ』


手に握りしめた携帯から呼び続ける私の名前。どうすればいいか分からなかった。

どこに行けばいいか分からないまま走り続けた。



* * *



「・・・来なくていいのに」


あるショットバーの路地裏で光平は昌を見つけた。昌は俯いたまま壁にもたれかかっている。


「あのまま電話切られたら・・・さすがに気になるだろ?」


光平が近づくと、昌は顔を覗かれないようにそれとなく背けた。暗い路地には電柱の明かり

が消えたりついたりして、二人をちかちかと映し出していた。


「・・・何かあったのか?彼氏と・・・」


”彼氏”


光平の口から聞きたくなかったのか。私は密かに口角が上がった気がする。自分を嘲笑うように。


「何にもないから。帰って。いや・・帰ろう」


帰ってと言われて光平が帰れる人じゃないのが分かっている。こんな時でも我慢している自分

は一体何に耐えているのだろう。


「・・・うん」


私たちは無言のまま、路地裏を抜けて歩き出した。こんな風に並んで二人で歩くのは久しぶり

だ。でもどうしても今までのように笑えなかった。


「・・・私、今まで彼氏といたの。ホテルに・・・」

「!」

「そんな時に電話してこないでよねっ・・・」


昌は俯いたまま失笑するように言った。さっきからずっと光平の顔を見れない。


光平もまた俯いたまま、昌の言葉を聞いていた。そして、髪をくしゃっとすると複雑そうに顔

を歪めて言った。


「俺さ・・・自分ん中めちゃくちゃで・・・今も上手く整理できないんだ」

「・・・何が?」

「昌に・・・彼氏ができたこと」

「・・・・・」


その時、自分に関心を持ってくれて嬉しいとかそんな感情を持たなかった。私はどん底だっ

たのだと思う。もう構えなかった。いつもの自分でいられなかった。


「・・・自分に報告がなかったから?」

「えっ・・・まぁ・・・そのっ」


昌は困ったように、言いにくそうにしている光平を冷静に見つめると、ぎゅっと目を瞑った。

拳に力が入る。


「光平はさ・・・何も分かってないよっ・・・・何にもっ!!」

「ー昌っ!!」


自分はそのまま光平からも逃げ出した。

分かっていた。もう、光平の全てが欲しいのだ。中途半端な想いでは満足出来なくなって

いることを。そんな自分を受け入れてもらえるわけがないことも・・・・!!

だから、限界だったのだ。


「ううぅ・・・っ・・・」


昌はしゃがみ込んで声を押し殺すように泣いた。

光平は昌のいなくなった場所で複雑な想いを抱えながら夜空を見上げた。


夜空ではハーフムーンが寂しく浮かんでいた。まるで昌の心を映し出すように・・・。



**********



「悪いな。飲み足りなくてさ・・・」


光平は昌と別れた後、側のショットバーに蓮を呼び出した。


「いーよ。俺ももう少し飲みたかったから」


光平は蓮のいつも通りのさりげない優しさに笑みを浮かべた。そして、グラスに視線を移

してぽつりと言った。


「・・・俺、昌を傷つけたのかな?」

「・・・!」


蓮はちらっと光平を見るとグラスの酒を飲みながらそれとなく聞いた。


「何かあった?」

「俺さ・・・・風早の結婚式の時から見ないようにしてた」

「・・・・・」

「・・・関係が壊れるのが嫌だったんだ」


額に手を当てて、苦悩している様子の光平を蓮は呆気に取られて見ていた。


(・・・気付いてたんだ)


「光平さ・・・どう思ってんだよ?昌のこと」

「・・・・・・」


光平はグラスの氷をカランとさせると、しばらくの沈黙の後、蓮の方を向いて言った。


「・・・分からない。大切だけど・・・それが恋愛感情かって聞かれたら分からない」

「・・・・そうか」

「でも、正直・・・動揺してる。昌に彼氏ができたこと」

「・・・・・」


蓮は何も言わずに光平を見守った。そして、切ない目をして店の窓に浮かぶ月を見つめた。



<つづく>


「ここから先」後編 へ








あとがき↓

あ”・・・二話で終わらず。っとにもうね〜〜。妄想が進んでしまった。興味ない方はスルーでね、
暗くてごめんなさいね。次こそ終わりますっ!!