「Half moon」番外編 ➋ 「ここから先」 前編 

風早、爽子の結婚式後1年の月日が経っていた。たまに来る幸せそうな二人を見るたびに昌

はだんだんと落ち込んでいった。昌と光平のその後です。昌視点です。


※ この話は「Half moon」という話のスピンオフです。この話を知らなければ全く面白くも何も
  ないので、興味ある方は目次からどうぞ。長〜〜〜いです。

ちょっと暗いですが、興味ある方は以下からどうぞ↓













「ここから先」 前編














私は決して気が長い方ではないと思う。でも不思議なのだが、恋愛になるとやたらと気が長く

なるらしい。それは惚れた弱みとかじゃなくて、光平だからだと思う。中学からずっと光平だけ

を想ってる。でも私だって女盛りなわけだし、時々すごくさみしくなったりもする。嫉妬もするし、

自分の想いが伝わらないジレンマだったり、知られたくなかったり、女心は複雑だ。

最近、爽子ちゃんに電話でそれとなく聞いた。


「沢渡友香さんって・・・爽子ちゃんの友達なの?」

『う、うんっ!すごくいい人なんだよ〜〜』

「・・・・」


まぁ、爽子ちゃんならそう答えると分かっていた。こんな変化球のような質問ではだめだ。

うん、ストレートに聞こう。


「・・・っとさ、あのさ・・・光平と仲が良かったのかなってっ?」


爽子ちゃんは私の気持ちを知っているけど、やっぱ恥ずかしいというか・・・さもしい。

先日、光平の26回目の誕生日の時、その”沢渡さん”から電話がかかってきた。後で

それとなく聞くと彼女も同じ誕生日だということを知った。私は必死で感情を出さないよ

うに努力した。いつまでこんな想いを抱えていくのだろう。風早と爽子ちゃんの結婚式

の後も何も変わらない私たち。あぁ・・・両想いっていいなって、二人を見るたび思う。

幸せそうな二人。焦っているのだろうか。この頃私はおかしい。


爽子ちゃんは私の意図する意味が分かって「あっ!!」と申し訳なさそうにする。


「昌さん・・・あのっ!!私はよく分からないのだけれど・・・仲は良くって。あっでも

 それは友達って意味で・・・っ」


爽子ちゃんは絶対いい加減なことは言わない。だから聞いても無駄だ。分かっている。

ただ自分が安心したいだけなのだ。今までどれだけこんな思いをしてきたんだろう。や

きもきしては不安になって。ずっと一人でもがいている。


「・・・でも、いつか分かってくれると思う。昌さんの想い」


私は何を求めているのか。ただ慰めてもらいたいのだろうか。そう言わせてる。大好きな

爽子ちゃんなのに心のどこかで嫉妬してる。幸せそうな彼女を。光平に好かれた彼女を。

そんな自分が嫌で仕方がない。

・・・私は最近疲れている。


* * *


「え・・・?」

「入社してからずっと見てたんだ」


光平が仙台に戻って1年経った頃、職場の先輩に告白された。眼中になかったと言った

ら申し訳ないけど、沢山いる社員の中でこの人の存在を意識したことはなかった。


「返事はすぐじゃなくていいから」


すごく誠実そうな人だった。そっかこんなものかもしれない。私ももう26なのだから結婚

が憧れだけの年ではない。それも幸せそうな二人を見ているのだから。


* * *


「最近、昌飲み会来なくね?」


週末、いつもの仲間内で飲んでいる時に光平がポツリと言った。蓮は風早の結婚式以来、光平

の鈍感さには呆れていた。鈍感というより関心がないとしか思えなかった。その発言に蓮は何

も答えず、そのままビールを飲み干した。すると、沙穂が光平を少し睨むように言った。


「・・・知らないの?光平」

「へ?何が?」

「昌、彼氏出来たんだよ」

「え・・・・」


時間が止まったように驚いている光平を沙穂はじっと見つめた。蓮もちらっと光平に視線を移す。


「まじぃ〜〜〜あの昌が??先越されたよぉぉ〜〜っ」


太陽が嘆くように大騒ぎしている。その太陽を無視して沙穂は続けた。


「結婚も秒読みなんじゃない。相手年上だし」

「・・・・ふ、ふぅ〜〜ん」


ザーザーザー


その時、外の雨が激しくなった。


「うわぁ・・・さっきまでこんな激しくなかったのにね。帰り大変そう・・」


沙穂が外に視線を移して言った。光平は外の雨をぼーっと眺めていた。



* * *


ザーザー


「うわ・・・すごく降ってきたな」


昌は待ち合わせ場所に傘をさして立っていた。さっきから傘からつたう雨水を手のひらで受け止

めては手を下に向け捨てるという動作を何気なく繰り返していた。こんな雨の日は気分が落ちて

しまっても仕方がない。昌は自分にそう言い聞かせていた。


「あ・・・!」


向こうで手を振ってやってくる彼。昌も明るく手を振り返した。何回目かのデート。彼は自分を

とても大切にしてくれる。横にいる彼がもうすぐきっと当たり前になるだろう。


「・・・どうしたの?なんか元気ない?」

「えっ??そんなことないよ〜雨がすごいなぁ〜って思っただけ」


昌は取り繕うように笑った。彼と付き合って3ヶ月。告白されてすぐにOKした。以前の自分だ

ったら絶対断っていた。きっと爽子ちゃんなら考えられないだろうな・・・。でも否定しないか。

正直、今も好きかなんて分からない。でも、愛されるって幸せだ。女は愛するより愛される方が

幸せって言うんだから。これでいいのだ。


「え・・・・」


昌は彼氏に手を引かれてたどり着いた先の前で呆然と佇んだ。


「・・・もういいかな?3ヶ月になるんだし」


いつの間にかホテルの前に来ていた。昌は何も言わずに彼氏について行った。うつむいたまま

顔を上げられなかった。


”付き合っているんだから当たり前ー”


そう思っている。頭の中でずっと言い聞かせるように叫んでいる。


「先、シャワー浴びる?」

「えっえ・・・ううんっ先どうぞ」

「そう?それじゃお先に」


部屋の中をぐるっと見渡す。普通のホテル。ラブホじゃなくてせめて良かった。なんてほっと

している冷静な自分もいる。これでもっと好きになるかもしれない。男と女ってこんな風にな

るのが当たり前でそうやって絆を作っていくのかもしれない。


昌は大きなシルクのベッドにどんっと腰を掛けた。真っ白な天井を無機質な頭で見つめる。


チャラッチャラ〜〜〜♪


「!!」


ビクッ


その時鳴った音に身体が大きく反応した。昌は驚いたように身体を起してカバンを見つめる。

なんでこんな時にこの音楽がなるのだろう。

それは光平の着信音だった。


動揺なんてしたらだめ。ちゃんと出て言うんだ。


”今取り込み中だからさ〜彼氏と”


どくん、どくん、どくん


手に汗が滲んでくる。体中に緊張が走る。いつも通りさらっと言えばいいのだ。だって、ずっと

思っていたの。光平に彼のことを言えた時、自分の中で終わりにできる時。だから今言わないと。


昌は震える手を携帯に伸ばす。


どれだけ想っても届かない想い。告白しない私は臆病者だと人は言うだろう。


でも、これだけ長い間想っていた想いは深すぎた。言ってしまったら”好き”でいる権利さえ

なくしてしまうから。それが友達の関係を壊すよりも怖かった。


「・・・ううぅ・・・っ」


こんな私は・・・やっぱり臆病者。

私は逃げたんだ。自分からも光平からも。想いが深くなればなるほど、つらくなっていった。

限界だった。


ピッ


『・・・昌?』


一粒の涙が携帯に零れ落ちた。



<つづく>


「ここから先」中編 へ









あとがき↓

昌へのリクエストは何人かの方に頂いていたので書いてみました。が・・・想いのままに書いて
いると明るい昌じゃなくなった。しかもやっぱ一回では終われず(汗)正直、オリキャラ話、おも
しろいのでしょうか・・・。私は楽しいですが。後編で終わる予定です。