「Half moon」番外編 ➋ 「ここから先」 後編 

光平のことを諦めるために他の人と付き合った昌だが、自分に嘘はつけなかった。光平に
普通に接することができなくなった昌は?そして、昌の変化に戸惑う光平は・・・?
昌と光平のその後です。昌主人公のスピンオフです。
これは「ここから先」 前編 中編 の続きです。


※ この話は「Half moon」という話のスピンオフです。この話を知らなければ全く面白くも何も
  ないので、興味ある方は目次からどうぞ。長〜〜〜いです。

これで最後です。ちょっと暗いですが、興味ある方は以下からどうぞ↓















「ここから先」 後編


















1週間後―


今日は風早と爽子ちゃんが仙台に遊びに来ることになっていた。以前から皆で集まることが

決まっていた。さすがにスルーはできない。


あれから光平とは会っていない。正直気まずい・・・。


「−昌?」

「!」


店の前で躊躇したように立っている昌に後ろから沙穂が声を掛けた。


「沙穂・・・」

「何してんの?入らないの?」

「あっ・・う、うん。入ろっ」

「・・・・・」


沙穂にもさすがに言えなかった。ホテルから逃げ出したなんて今時の高校生でもしないよ。

そして、やっぱり続かなかったなんて。


「昌!沙穂っ〜〜!」

「太陽!蓮も・・・先来てたの?」

「・・・・・」


明るく言う沙穂の後ろで、昌は怯えた目でちらちらっと周囲を見渡す。


「光平は遅れるそうだよ」

「あ・・・・そうなんだ」


思わずホッと胸をなでおろす。昌は自分の心を見透かすように言われた蓮の言葉に、恥ずか

しそうに俯いて座った。

思ったより気にしているのか、すごく緊張していたみたい。何があったわけではないのに。

告白したわけでもないのに。でも・・・あの時の光平の顔・・・。

きっともう、気付いている。私の気持ち・・・。


「!」


その時、昌はハっとしたように窓を見る。視界の隅に捉えた光景。


ドクンッ


そこには爽子と二人で楽しそうに話して歩いている光平の姿があった。



**********



「おぅ〜〜〜新婚さん登場じゃん?と思ったらあれ?光平と爽子ちゃん?」


光平と現れた爽子を見て、太陽は素っ頓狂な声を出した。


「あ・・・みなさんお久しぶりです。あのっ翔太くんは仙台支社に所用があるそうで寄って

 からすぐに来ると言ってました」

「そうなんだ・・・」


別に変なことはない。爽子ちゃんはすっかり私たちの仲間なのだから。でもなんで、私は

こんなにショックを受けているのだろう。


「でも何で光平と?」


ドキッ


蓮が私の思っていたことを聞いた。


「たまたま黒沼・・・あ、風早さんと」


光平の言葉にぼっと赤くなる爽子を見て、沙穂はからかい気味に言う。


「あのさ、はっきり言ってもう1年だから新婚じゃないからね。ったく・・・いつ慣れるんだか」

「////その通りですっ」


爽子がさらに真っ赤になると、光平がにやっと笑って言った。


「いつまでたっても新婚だもんね。二人は」

「/////」

「ははは〜〜〜!まっとにかく、その角で会って、一緒に来ただけだよ」

「!」


光平の視線を感じた昌は焦ったように視線を逸らした。


(べ・・・べつに聞いてないっつーの)


それから風早も現れて、いつものように慣れ親しんだ会話が続いた。同じ空気なのに自分

だけが違う空気を感じていた。爽子ちゃん達に会えて嬉しいのに、もっと楽しく会話をしたい

のに上手く言葉が出なかった。きっとみんな感じてる。上手く笑えない私を。


光平とはまだ喋ってない。視線を合わせることも出来ずに時間だけが過ぎていった。


* * *


本当に私、おかしい。

爽子ちゃんのことが大好きなのに。それに光平と何もないって分かっているのに、笑って

会話している二人を直視できなかった。私はそんなに嫉妬深い方ではないし、女女してい

るそんな感情が嫌だった。


昌は膝に置かれた手をぎゅっと握りしめる。


何もなかったんだよ。いつも通りの光平じゃん。私に関心なんてないんだから当然だ。こ

んなに苦しいのも私だけ。光平にはなんてことないんだ。・・・なんてみじめなんだろう。

みじめすぎるよ。いつまでこんな想いを持ち続けるつもりなの。もう・・・やめたいっ!!


「昌・・・?」


沙穂の声にハッとした。


頬に感じた感覚に慌てて手で確認した。無意識に涙が頬をつたっていた。


「ごっ・・・ごめんっ何でもないの・・・なんでもっ」


こんな自分が嫌なのに・・・どうすればいいいか分からなかった。皆に気を遣わせたくない。

それなのに、私はまた感情のまま立ち上がった。


「昌っー!!」


沙穂が叫ぶと、皆、呆気に取られて店を出て行く昌を目で追った。蓮が光平を見るとすで

に光平は立ち上がっていた。そして、昌の後を追いかける。


「昌どこ行くんだよ〜〜〜??光平も?」


訳の分からない太陽が眉をしかめていると、蓮がにっこり笑って言った。


「トイレじゃね?」

「はぁ〜〜?二人で?」


複雑そうな太陽を見ながら、蓮は嬉しそうに笑った。そして沙穂も爽子も同じように微笑む。


”「・・・でも、いつか分かってくれると思う。昌さんの想い」”


爽子は店の戸口を見つめると、両手をぎゅっと合わせた。風早はそんな爽子の気持ちに寄

り添うように爽子の頭をぽんっとなでた。


「・・・翔太くん」

「ん・・・」


爽子が風早を見上げると、風早は優しく頷いた。


”想いが届きますように・・・”


爽子は握っていた手にさらに力を込めた。



* * *



はぁはぁはぁっ


「―待てよっ昌・・・っ」


光平は店の外で昌に追いつくとぐいっと手首を掴んだ。


「離してよっ・・・何で・・・何で追いかけんの?」


二人は荒い息を整えるようにしばらく無言のまま向き合った。昌は顔を伏せたまま、光平と

視線を合わせようとしなかった。


「こっち向けよ」

「・・・べ、別にいーじゃんっ」

「いーからっ!!」


光平が少し乱暴に昌の顔に触れると、不意を突かれた昌は光平に顔を向ける形となった。


「あっ・・・・」

「!」


昌は涙でぐちゃぐちゃになった顔を光平に見られ、慌てて手で覆った。


見られたくないのに。こんなの私じゃない。女々しい。嫌だっ・・・・!!


「・・・何で泣くんだよ。そんなー「ーじゃない。」」

「私じゃない・・・私らしくないって言うんでしょ」


悔しいのに涙が止まらない。こんな女の武器のようなことしたくないのに・・・っ!


がばっ


(え・・・・?)


その時、私は何が起こったのか分からなかった。ただ視界が真っ暗になり、暖かいものに

包まれた感覚だけを感じた。


「・・・っごめん。昌。俺・・・っ」


その温もりは光平に抱きしめられているのだと分かった。心臓の音が重なる。


どくん、どくん、どくん


「やっと気付いた」


私は光平の胸の中で、まるで夢の中にいるように光平の言葉を聞いている。だけど心臓の音

は正直で・・・。


「昌が好きなんだって・・・」

「!!」


ばっっ


「え・・・・??」


昌は思わず光平の胸を押して、光平を見上げた。光平は戸惑った顔で申し訳なさそうに言った。


「ごめん・・・彼氏いるのにな。なんか・・たまんなくなって・・・っ」

「えっええ??ううんっ・・・全然っ!別れたからっ!!」

「え・・・・?」


昌は高揚した気持ちを抑えられなかった。ぎゅっと光平の服を掴むと、涙があふれる瞳で

光平を見上げた。


「好き・・・っ光平が大好きなのっ!!!」

「!!」



* * *



夢かと思った。こんなことが起こるなんて信じられなかった。でも横には光平がいる。

心臓はまだドキドキしている。


二人は側のベンチに座った。昌がぎこちなくちらっと光平を見ると、しばらくの沈黙の後、

光平がぽつりぽつりと語りだした。


「俺さ・・・ずっと逃げてた気がする。この関係が心地よくって」

「・・・・・」

「あいつらの結婚式の時さ・・・・昌がもしかして俺に恋愛感情を持ってるのかなって初めて

 気付いた。実はそれまで意識したことなかったんだ・・・」

「ま・・・まじ?その時初めて?」

「・・・ごめんっ」


昌が眉を顰めて言うと、光平はまずそうな顔をして苦笑いをした。そしてせつない表情を

浮かべる。


「俺、昌に甘えてたんだ。昌の気持ちが分かっているのに見て見ぬふりをしていた。どう

 しても”ここから先”に進むことが怖かったんだ。でも・・・・」

「でも?」

「昌に彼氏が出来たと知って、ずっと胸の奥がもやもやして。ここから先に進みたくないの

 に昌を失いたくもないなんて・・・俺、ずるいよな」


昌は光平の想いを聞きながら、どんどんと気持ちが高ぶっていくのを感じた。ぎゅっと

唇を噛みしめる。


「私・・・光平しかずっと見てない。爽子ちゃんが好きでも何でも・・・どんな光平でもやっぱ

 諦められなくて」

「え・・・・黒沼さん?」


光平は予想外の昌の言葉に、目が点になって聞き返した。


「だって・・・光平にとって特別でしょ。やっぱまだ想いがあるのかなって・・・」

「へ・・・??何言ってんの?もう、昔の恋だよ。さすがに終わってるよ。」

「だってっ・・・・」


すると、光平はまた昌の手首をぎゅっと掴んで言った。


「だって・・じゃなくって・・・俺、告白したよな??今」

「え・・・・」

「ここから先に・・・進もうとしてるのに、そんなこと言うなよな////」

「////」


”ここから先・・・”


ぼーっとしてる私を光平はまたぎゅっと抱きしめた。これは夢なんかじゃない。この温も

りは私が何十年も求め続けていた温もり。やっと届いた私の想い。


ひっくひっくっ


「・・・なんか冷たいんだけど」

「ひっく・・・っだって・・止まんないんだもん。11年分の涙だよっ!!」


ここから先に進むことが怖かったのは私も同じ。関係を壊したくなくて気持ちを伝えること

ができなかった。そして好きでいられなくなることが怖かったの。きっと私の方が今も数倍

好きだろう。でもそれでいい。ここから始まる関係は苦しかった分、きらきらと輝くものにな

るって信じてる。ずっと見守ってきた光平とだから。大好きな・・・光平とだから。


ずっと一緒にいたいから。



*******



「あいつらおせ〜〜〜なぁ。」


太陽が不思議そうに呟くと、そこにいた皆が”まーまー”なんて笑って違う話題を振る。

そして、その後現れたほんのり赤い二人を暖かく迎え入れた。皆嬉しそうな笑みを浮か

べる中、一人の男だけが・・・・。


「おっ!昌に光平。なげ〜〜〜トイレだったな。○○○だったの??」

「・・・・・」


太陽が皆にぼこぼこにされたのは言うまでもない。



<おわり>

web拍手 by FC2

※ 拍手をすでにしてくださった皆様、消えてしまってごめんなさいっ!





あとがき↓

最初の記事を見た方すみません。話的におかしなところがあったので一回下げました。昌は
一途ですごく光平が好きなだけにこれからも立場が弱そうですね。光平は心から好きだった
のは爽子だけど、愛にもいろいろあるように昌とは穏やかな家庭を築けそうに思います。
しかし、光平は鈍感だ。すみません〜〜こんなキャラで。ああ、しかしまた長くなった(汗)
まとめられなくてごめんなさい。さて、どんどんスピンオフ行きますね。次は沙穂かな。
このお話はbluemoonさまとアップパイさまのそれぞれのキャラの行く末というリクエストを
もとに妄想してみました。満足頂けたか分からないですが、楽しんでもらえたら幸いです。
読んでもらってありがとうございました。