「Half moon」(100)最終話

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

風早、爽子と出会って変わった仙台の仲間達。そして、二人は遠恋に終わりを告げた。その
先にあるものとは・・・?最終話です。

こちらはHalf moon          10 11 12 13 14 15 16 17  18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39  40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 53  54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83  84 85 86 87 88 89  90 91 92 93 94 95 97 98 99 の続きです。
それではどうぞ↓

































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― 半年後 ―


キンコン〜  カンコン〜



4月のある日、春の暖かい日差しの中、北海道の小さな教会では一組の若いカップルの

結婚式が挙げられようとしていた。

その日の天候は二人を祝福するように見事な晴天だった。


ぞくぞくと招待客が二人の式に出席するために集まっていた。そこにいる誰もが二人の門出

を心から祝うものばかりだった。


その二人とは、半年前結婚を決めた風早と爽子だ。社会人になって3年の月日が経過して

いた。風早は社会人として自分で歩ける自信がつくまで毎日を頑張ってきた。それは爽子と

出会ってから、ずっと願ってきたこの日を迎えるため・・・・。


半年前、風早が悩んで光平に背中を押してもらったプロポーズの後、何の運命のいたずら

か、光平と入れ替わるように風早の北海道本社の移動が決まった。光平は仙台に転勤に

なり4月から仙台で働いていた。風早が懸念していた爽子の仕事のことは、会社を辞める

ということにならずに、二人は北海道で暮らせることになったのだ。


バタバタバタッ


「ふぅ〜〜良かったっ間に合った!!」

「光平!北海道に居たくせに何で迷うのよ」

「この辺りは行ったことね〜もん」

「とりあえず入ろーぜ」


仙台から来た5人も、もちろん呼ばれている。そして風早の会社の同期、友香を始めとする

爽子の同僚など。高校時代の友人には千鶴、あやね、龍の他、ケントやくるみも集まって、

懐かしい面々が顔を揃えていた。



* * *


カチャ


「!!」

「・・翔太・・・くん?」


控室のドアを開けた瞬間、風早は固まったように動かなくなった。

転勤で私生活も仕事もバタバタしていた風早は、十分に結婚式の準備に加われなかった

ことを悔んでいた。そして・・・初めて見る爽子の花嫁姿。


「風早くん・・・どうしたのかね?あまりの爽子の美しさに腰抜かしたか?」

「や〜ねぇ。お父さんったら。ふふっ」


爽子父がからかい気味に言うと母が横でニコニコと笑っていた。そして、現実に戻ったように

ハッとした風早が真面目な顔をして言った。


「・・・はい」

「え!?」


あまりに素直な風早の反応に父の方が拍子抜かれた。


風早は目の前の花嫁を息を飲んで見つめる。白い肌に純白のウエディングドレス。それは

まるで爽子の真っ白な心を象徴しているかのようにきれいだった。いつもよりきれいに化粧

された爽子は触れるのも憚れるほど・・・美しかった。


「きれい・・・」

「あ、ありがとう。翔太くんも・・・かっこいいです」

「ありがとう・・・」


ぽっと白い肌をピンクにして言う爽子をこのまま連れ去りたい感覚を覚える。そして本当に

この日を迎えたことに胸が熱くなった。付き合って8年。やっと夢にまで見た光景が現実に

なろうとしている。この瞬間、離れていたつらくて長い日々も全部吹っ飛ぶほど・・・爽子は

きれかった。風早は大きく息を吸うと、緊張気味に言った。


「祭壇の前で・・・待ってる」

「・・・はい」


爽子も同じだった。付き合ってすぐ、クラスの皆と海に行った時、風早との未来を夢見る

ように思い描いた。


”結婚してください”


あの時はまだ幼くて、ただ彼との未来を考えるだけで嬉しかった。でも、今は違う。大好き

な人と一緒に歩いている。しっかりと自分の中にある幸せ・・・。


爽子と風早は同じ気持ちで見つめ合った



* * *



バタンッ


「わぁ〜〜〜〜!!」


教会の扉が開くと、皆から一斉に感嘆の声が上がった。そこには、純白のウエディング姿で

バージンロードを父と歩く爽子の姿があった。


「きれ〜〜〜!まじきれ〜〜っ!」

「千鶴うるさい・・・」


千鶴が驚嘆の声を上げると龍がぼそっと言った。そしてあやねは憐れむように父を見た。


「でも爽父、やばいな。あそこまでボロボロとは・・・」

「うぅ〜〜〜確かに泣くよ!!あれはっ」


爽子の横には目を真っ赤にして今にも倒れそうな父の姿。爽母はそんなことはお構いなし

に二人の姿を嬉しそうに眺めていた。


「貞子ちゃんがここまできれくなるとはなぁ・・・参ったな〜」

「私には負けるけどね。今日だけは認めるわ」


ケントが惚れ惚れした表情で言うと、くるみも憎まれ口を叩きながら微笑んだ。


「やばいね、また惚れ直すんじゃないの光平」


ぽーっとなっている光平の横顔を見て、沙穂が昌をからかうと、昌は少し焦った様子で光平

を見た。”じょーだん”と沙穂が呟くと昌は苦笑いをした。それほど爽子は美しかった。


昌は改めて光平の横顔を見つめた。とても穏やかな表情だった。半年前・・・光平が仕掛け

て風早がプロポーズした時、光平の温かさを感じた。そして本気で人を好きなるとこんなこ

ともできる人なのだと思った。分かっていながら、少し落ち込んだりもした。一生、爽子には

敵わないのではないだろか・・・と。でも、光平にとって彼女との出会いは必然だったのだと

今だから思える・・・それは、前を向いている光平がいるから。

一段と成長した光平がいるから。


昌は以前より男らしくなった光平の姿に頬を染めた。



「やばいなぁ・・・」

「何が?」

「わっ!!」


ワーワー  ワーワー


教会式の後、すぐにガーデンパーティーが始まっていた。幸せそうな二人を沢山の友人が囲

んでいる。昌はそんな二人を遠目に見ていた時、自分の独り言を光平に聞かれて、大きく身

体をのけ反らせた。


「べ、べつにっ////」


自分の心を見透かすように現れた光平に昌は焦るように視線を逸らした。最近、直視できな

いくらい意識しているように思う。


「いや、私も・・・いつかあんな日が来るのかなって思っただけよ」

「・・・昌が嫁に行ったらちょっと寂しいかも」

「え??」


光平の言葉に昌は耳を疑うように聞き返した。


「・・・何で?」

「何でって・・・やっぱ寂しいじゃん。遊べなくなると思うと」


昌はそんな光平を見てふくれっ面で俯くと、表情を見られないように言った。


「じゃ・・・光平がもらってくれたらいいんじゃん?」

「え?」


昌はそのまま後ろを振り向かず爽子の方へ駆けて行った。茫然となっている光平に後ろに

いた蓮が言った。


「そろそろ・・・気づいてもいい頃なんじゃね?誰が自分を一番想ってくれてるかさ・・・」

「蓮?」

「とーだいもと暗しって言うだろ?」


蓮もにやっと笑うと、光平を一人にしてその場を去って行った。残された光平は複雑な表情

で昌の背中を見つめていた。


蓮は振りかえると、戸惑っている光平の姿を見てふっと笑った。そして、側にいた沙穂と目

が合った。沙穂は蓮の横にやって来ると穏やかな表情を浮かべた。


「美穂・・・大分落ち着いてるよ。最近は他の人格も出なくなってきた。蓮のことも前より

 執着しなくなってる」

「そっか良かった・・・沙穂」

「ん?」


蓮は沙穂をちらっと見ると照れたように言った。


「いろいろ・・・さんきゅな」

「え?」

「沙穂が向き合ってくれたから、俺、今があると思う」

「蓮・・・・」


沙穂はじわっと込み上げてくる感情を覚えた。誰かからの言葉を待っていたわけではない。

だが、改めて蓮に言われると、救われたような気持ちになる。


「私も・・・今があるのは爽子ちゃんがいたからだよ」

「うん・・・大きいよな。あいつら」

「・・・うん」


沙穂と蓮は幸せそうな二人に視線を向けた。


「・・・蓮もさ、いい人見つけなきゃね」

「・・・・そうだな。沙穂もな」

「うんっもちろんよ。ひと回り剥けたからね〜脱皮したのっ!」


あはは〜〜〜っ


「出会えて・・・本当に良かった」

「・・・・」


沙穂は蓮の言葉を同じ気持ちで噛みしめながら、それとは別な想いが心の中に浮かんだ。

何気なく浮かんだ疑問。


沙穂は美穂がどうしてあの時爽子にあれほど執着したのかずっと疑問だった。最初の出会

いから爽子には異様に興味は持っていた。しかし、病気だったとは言え、なぜあんなことに

なったのだろう・・・と。沙穂は美穂との関係を修復していく中で、一つ気付いたことがあった。

美穂は、沙穂が蓮を好きだと疑うことはあっても蓮が沙穂を好きだと疑うことはなかった。

病気であっても女の本能は確かだったのだ。だとすると・・・?


「・・・!」


沙穂は蓮の視線の先を追った。そこには幸せそうに祝福されている二人。自分も同じよう

に見ていた。でも何だろう・・・・。

その時の違和感を言葉にするのは難しい。それは以前感じた違和感に似ている。直観的

なもの。


「もしかして・・・・蓮・・・・?」

「ん?」


振り向いた蓮の表情は元に戻っていた。楽しそうに友人達と話している蓮を見て沙穂は

”何でもない”と呟いた。


「まさかね・・・」


自分は人より少し感じてしまうだけ。沙穂はそう思うと、今感じた違和感をすぐに頭の中か

ら消し去った。そして、その違和感を口にすることは二度となかった。



*********



「たっぐちゃ〜〜〜ん」

「おう、沢渡」

「元気??たぐっちゃんいなくなって寂しいよ〜〜〜」

「俺はちょっと嬉しいわ」

「そりゃそーだね。幸せな爽ちゃん見なくて済むもんね」

「もうさすがに諦めたって」

「そうだよね・・・未練がましいたぐっちゃんでもねぇ〜」

「うるせー」


あはは〜〜〜っ


「でもさ、たぐっちゃん、北海道に来て良かったんじゃない?」

「・・・・うん」


友香の言葉に、光平は優しく微笑んだ。遠目に幸せそうな二人を見ながら今までのことを

思い浮かべる。最初の出会い、仙台での出来事、そして、失恋・・・・。全てが今となっては

いい思い出になっている。本気でぶつかったからこそ、今こうしていられる自分がいる。


「二人に会えて・・・良かった」

「・・・そうだね」


すると、友香は光平と同じく幸せそうな二人に目を細めると、独り言のように呟いた。


「私も・・・歩き出さなきゃね」

「え?」

「ううん・・・こっちの話。ね、皆で写真を撮ろうよ!!ほら仙台の人たちも一緒に」


その後、友香の存在に昌がヤキモキしたのは言うまでもない。



風早と爽子に出会うことによって一歩踏み出せた人達。出会いが必然だったと感じる時に

初めて人は何かを乗り越えた時なのかもしれない。


人は純粋なものを見ると憧れる。そして自分にないものだと気付くと壊したくなる。そうして

必死で自分を防御するのだ。しかし、その畏れを認めることが出来た時・・・・今まで見えて

なかった世界が見えてくる。


蓮・光平・沙穂・昌はそれぞれ、新しい世界の扉を一つ開けることができたのだ。乗り越えら

れたからこそ開けられた扉。


皆、二人の幸せを心から願い、祝福していた。そして、これから出会える自分の幸せを信じて・・・・。


「あれ、太陽は?」

「食いまくってるよ。ほら」


そこには食い気に走っている太陽の姿があった。そう、太陽は最後までこういうキャラなので

あった。




*******





「爽子・・・Half moonだ」

「あ・・・ホントだぁ」


二人は結婚式を終え、ホテルの一室から夜空を見上げる。


「でも、これからはずっとfull moonだ。爽子が側にいる限り・・・」

「・・・うん。もう・・・翔太くんと離れないでいいんだね」


爽子が嬉しそうに微笑む。そしてその笑顔を見る度に幸せな気持ちになるんだ。君は

沢山のものを俺に与えてくれる。今までも、そしてこれからも・・・。


「うん。今日からずっと一緒」


二人は同じ気持ちで嬉しそうに笑った。


「お父さん・・・ボロボロだったね」

「うん・・・」


風早はそう言うと、せつなそうに爽子を見つめた。


「俺も・・・いつかあんな風になるのかな」

「ふふ・・・翔太くんが?まだ想像できない」

「・・・・・」

「翔太くん?」


爽子はいきなり無言になった風早を心配そうに窺った。すると、寂しそうな顔をしている

風早がいた。


「あ・・ごめん、ちょっと不安になった」

「え・・・?」


そして、風早は爽子の頬を両手で優しく包み込むと、熱い目をして言った。


「幸せすぎるってさ・・・不安になるんだな」

「・・・っ」


この幸せが永遠にあるものかどうかなんて誰にも分からない。そして、今ここにある幸せ

さえすぐに自分の中から逃げていきそうな不安が押し寄せる。


すると爽子は風早にぎゅっと抱きついた。


「爽っ・・・っ」

「私、ずっとここにいたい。翔太くんの胸の中に」


ふんわりと漂う爽子の香り。柔らかい感覚。爽子を抱きしめる度に思う。絶対守りたいって。


「私・・・・あの時、翔太くんが離れると思った時、自分が自分でいられないと思ったの。自分

の半分は翔太くんだから。初めての世界をくれた人だから・・・」

「爽子・・・」


爽子の目から涙が零れると、風早はそっとその涙を拭った。


「・・・この涙をすぐに拭えないと思った時、爽子が側にいないことを実感した。離れることが

 これほどつらいことだと思わなかった。」

「うんっ・・・」


会った時からずっと変わらない想い。でも、今は君を守っていける。だから・・・。


「・・・絶対に離さない。好きだよ・・・爽子」

「私も・・・大好き」

「愛してる」

「・・・私も」


風早は爽子をぎゅっと抱きしめた。そして身体を離すと、ゆっくりと顔を近づけた。


二人の幸せな長い夜が始まる。


風早は今までのことが走馬灯のように頭の中を駆け巡っていた。つらかった遠恋生活が今で

は懐かしい思い出にも感じる。一人で幾度と見上げたこの月をこれからは一緒に見上げていく。

風早は腕の中にいる大切な宝物を抱きしめながら、月に誓った。


”一生大切にする・・・・”



二人が抱えていたHalf moonは今、一つになって形を変えていく。

長い人生、これからも傷ついて欠けたりもするだろう。

でも信じたい。夜空に浮かぶ月のように、欠けてもいつかは満月に戻れることを。

二人なら必ず・・・。



* * *


「あ・・・きれいなHalf moonだぁ」


昌が言うと、それぞれが夜空を見上げた。月明りが5人の影を映す。


人は必ず誰かと繋がって生きている。そして皆、この世でたった一人の人と巡り合う奇跡

を願っている。爽子と風早のように・・・。


それぞれが持っているHalf moonがきっと誰かに繋がっていると信じて・・・・。





<END>


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※ この回長すぎて、携帯で見られない人いるでしょうか?(私だけ??)一応見られない方の
ために話だけを(リンクなどなくして)2011/1/1の日記にも載せて見ました。同じ内容
です。問題なければいいんですが・・・。