「Half moon」(97)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

何も変わらない毎日の中、沙穂は蓮のことを気にしていた。そして蓮を心配しているのは
沙穂だけではなかった。

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それではどうぞ↓






























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風早もまた、蓮が心の傷を引きずっているのというのに気付いていた。あれから1年半。何の

解決もないまま、何も変われないまま・・・・。色々な想いを抱えて生きてきた蓮は誰よりも幸

せになって欲しい。でも蓮がここまで強くいられるのはきっと乗り越えてきたから。だからきっと

この事も乗り越えられる。風早はそう信じていた。


「彼女元気?」

「うん。蓮に会いたがってたよ」


同期会の後、風早は久々に蓮の部屋で飲み明かすことになった。


「ははっそんなこと言っていーの?そっか、そんぐらいでは動じなくなったか」

「いや・・・変わんねーけど」


照れた様子で顔を覆う風早に蓮は軽く苦笑した。


「翔太は隠しときたい系だもんな」

「へ?何それ」

「彼女が見つけられないよーにさ」

「う″っ・・・酔ってんの?蓮」


あはは〜〜〜っ


風早は笑っている蓮の横顔をそっと眺める。いつも通りの蓮の姿が風早にはつらかった。


「ねぇ、蓮」

「ん?」

「今も、両親に対してわだかまりとかあんの?」


いきなりの質問に蓮は大きく目を見開いた。そして視線を下げると穏やかな表情を浮かべた。


「はは・・・もうさすがにないな。今は親父とはいい関係だしな。母親はどこで何してるかわか

 んね―けど」

「・・・・そっか」

「ま・・・親父もいろいろあったんだろう。あれからさ、酒を飲みながらたまに話すんだ。あの人ほんと

 不器用なんだよな。翔太みたいにストレートに”好き”って言えないタイプ。それに似たのが俺」


自分で言いながら苦笑いをしている蓮を風早は真剣な顔で見つめた。


「俺・・・蓮が思ってるほどストレートに気持ち伝えられる方じゃないよ。爽子の気持ちが分か

 らなくなったら、途端に弱気になる。・・・そんなに強くなれない」

「・・・・そっか・・・そーだよな」

「だから、お父さんもそうだったんじゃないのかな。好きだったからこそ、上手くできなかった

 んじゃないかと思う」

「・・・・・」


蓮は風早の気持ちを受け止めるかのように、穏やかに頷いた。そしてビールをぐいっと

飲むと、その後ぽつりと言った。


「なぁ〜翔太」

「ん?」

「俺さ・・・これから恋愛とかできんのかな」

「!」


以前の蓮から変わったことは、前より自分のことを話すようになったこと。いつも話すわ

けではないけど、こうやって時々本音を見せる。


「できるよ!!できるに決まってんじゃん」

「はは・・・サンキュ。でも、翔太みたいにはできないだろうな」

「・・・・。そんなことない」


風早は真っ直ぐ蓮を見つめた。その真摯な目はいつも蓮の心を揺さぶる。


「蓮は出会ってないだけだ。俺も、爽子に出会ったことは奇跡だと思ってるから。蓮も

 そんな奇跡にきっと会える。この人だって・・・思える人に」

「・・・・・・」

「俺は信じてるから」


蓮はしばらくの間、風早と視線を合わせると、ふっと表情を緩めた。


「ま・・・見つかんないだろーけど。あんな子は」

「え?」


独り言のような声を聞き取れず、風早が聞き返すと、”何でもない”と蓮は小さく笑った。

そんな蓮を見ながら風早は心で強く祈った。いつか蓮が幸せになれることを。心の闇が

消える日がくることを・・・。



* * *



風早は蓮の家からの帰り、両手を上げて夜空を見上げた。冬の空に白い息が舞う。


「はぁ〜〜〜」


爽子はどうしてるかな・・・。月を見たら彼女を思い出す。この夜は見事な満月だった。

風早は爽子に想いを馳せながら、せつない表情を浮かべて月を見上げる。こんな風に

幾度となく月を見上げては爽子を想う。遠恋になってどのぐらいこのせつない想いを抱

えてきたのだろう。そしてこれからどれだけ抱えていくのだろう。


風早はぎゅっと目を瞑ると、携帯を取り出した。


『―風早くん?』


目を瞑ったまま聞く彼女の声に泣きそうになる。このせつない気持ちをどれだけ抱えて

いくのだろう。


『・・・どうしたの?』

「ん・・・爽子の声が聞きたくなっただけ」


皆幸せになりたい。蓮も・・・。こうやって離れていても彼女の気持ちは自分のところにある

と思える。それがどれだけ幸せなことか分かってる。蓮は沢山の悲しみを背負って生きて

きた。それに比べて俺はなんて幸せなんだろうって・・・分かってる。でもやっぱりたまらな

く君がいない毎日につらくなるんだ。だからせめて形が欲しかったんだと思う。婚約なんて

形にしか過ぎない。


「後、どれぐらいかなって・・・思うと苦しくなっちゃって。ははっ俺ってだめだな・・」

『・・・風早くん・・・私もだよ。いつまで経っても慣れないの。風早くんが側にいないこと」


きゅーっ


風早は胸をぎゅっと掴む。いつまで経ってもせつなくて胸の奥がきゅーっと痛むんだ。爽子

に出会って初めて感じた痛み。人を心の底から好きになるとこーなるんだって知った。


「あっ・・痛い」

『え?何かあった??』


風早は自分の言ったことに苦笑いをした後、真顔になって言った。


「爽子・・・前にも言ったけど、俺頑張るから。だから慣れないで・・・一人でいること」

『・・・か・・ぜはやくん』


爽子の震える声を聞きながら、風早はそっと目を瞑る。君の自分の名を呼ぶ声が好きだ。


「・・・俺も一生慣れない。爽子が側にいない生活は」

『・・・うん』

「もう2年半・・・長かったなぁ。これからも続くんだな・・・」

『・・・寂しくなったら月を見るの。風早くんが見ている月と同じ・・・同じ月を見てるんだなぁ〜っ

 て思うと嬉しいの』

「ん・・・」



風早は電話を切った後、白い息を舞わせて、もう一度、夜空を見上げる。


「ふぅ・・・・っ」


楽しかったことや嬉しかったこと、苦しいこと悩んでること・・・全部分け合いたい。ふとした

瞬間に側にいない君を想う。その募った想いの分だけ、君を抱きしめるんだ。

君を大事にしたい。だけど、それに反比例するように自分の中の身勝手な感情も顔を出す。


風早は長かった月日を思い浮かべながら爽子を想った。

そして今日も、ずっと心にある想いを言えずにいた。












あとがき↓

ラス3です。この話を書き始めて1年・・・。やっと最後までいけそうです。あと3話、続けて
書けないかもしれませんが、頑張ります。最後まで読んで頂けたら幸いです。

Half moon 98